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148弾 この稽古は見ものでしょう

「いやあ、すごいものを見たなあ。」


「これは、警備隊員同士の稽古でも滅多に見れないものだなあ。」


 ステファンさんもルディオさんも嘆息しながら感想を口に出す。


「あまり顔面への殴打は明日のこともありますので、一旦止めさせてもらいました。」


 俺がそう言うと、


「ちょっとギャラリーがいたから力入っちゃったわね。」


 とヘルバティア。


「ふうっ、いい稽古でした。」


 とミアン。


「ちょっと置いてかれた気がする。」


 と不満げなミヤン。


(ねえ、ダン。私と稽古よ。)


 念話術越しとはいえ、とんでもないことをメムが言い出す。


(いや、どうしてまた急に。)


(私も見てて熱くなってきたのよ。さあ、ダン、稽古よ。)


 そして俺の稽古着の裾に噛み付いて、開始位置に引っ張っていく。


(俺これで3試合目ですけど。……分かりました。やりますよ、やればいいのでしょう。)


 念話術による俺の抗議も無視して、とにかくメムが開始位置に引っ張る。


 あのファイティングエイプの群れでの稽古の時以来か。


「え、ニシキさん。メムちゃんと乱取り稽古ですか。」


 俺とメムが開始位置につくのを見て、ヘルバティアが思わず声を上げる。

 メムは体を伸ばしたり丸めたりしてウォーミングアップをしているようだ。

 これ、結構ガチなやつだよな……。俺だけ3試合目か……。しかし誰も止めてくれない……。


(いいわね、手加減なしよ。思いっきりやっちゃってちょうだい。)


 念話術で念を入れて手加減なしと言ってくるが、もうこうなったらこっちもやるしかない。

 この稽古場にいる者全員が俺とメムの乱取りに興味津々である。


「益獣との乱取り稽古か、なかなか見れないな。」


 ステファンさんがそう呟く。


「これは見ものだな。」


 ルディオさんもステファンさんに同意するように呟く。


(じゃあ、いくわよ。)


 念話術で伝えてすぐにメムが飛びかかる。

 飛びかかるメムの喉に右拳をまっすぐ打ち込む。カウンター気味にヒットする。でも手応えが消される感じになる。メムが受け流しながら体勢を変えてしなやかな動きで体を回転させる。いつの間にか渋いテクニックを覚えたようだ。

 そのまま、お互いに遠目の間合いをとるとしばし睨み合う。メムも意外に距離を詰めれる脚力があるからなあ、そう思いながらカウンター狙いで様子を窺う。そう思ったところに一気にメムが飛びかかってくる。早い。躱しながら腹部に右アッパー気味に拳を振るうが、空を切ってしまう。しかし妙だ。もしかしてメム自身で攻撃に縛りを入れているのか、飛びかかっての噛みつきを意識した攻撃のみだ。じゃあこっちもあえて付き合ってみるか。

 メムがまた直線的に俺に向かって飛びかかる。俺はアゴ狙いにカウンターを打つ用意をするが、飛距離を落として、急に方向転換をすると、俺の右斜め後ろにつく。フェイントか。だがしかし、飛びかかってくるところを右拳でバックハンドブロー気味に打ち込んでみると、メムの顔面にヒットしたが、軽い。それでもダメージを与えた効果はあったのか、メムの次の攻撃が雑になってしまう。素早く俺の背後に移動してそこから飛びかかる。俺は右拳を握りながら反時計回りに体を回して、右フックをメムに打ち込む。今度は手応えがあったが、メムも必死に体をねじりインパクトを逃す。追撃のもう1発を、と思いながら腹部目掛けて打ち込もうとしたところで、


「そこまで、そこまで。」


 そう言って、ヘルバティアがメムを庇うように飛び込んできた。


(いいわよ、今回はこれで。)


 メムが負け惜しみかどうかはわからないが念話術でそう言ってくる。後で話をすることになるだろう。


 俺とメムが開始線から引きあげると、


「さて、俺もやりますか。」


 そう言ってステファンさんも立ち上がり、分厚い体を左右に捻りながら開始線へ向かう。


「そうですな、若い者の乱取りを見て年甲斐もなく熱くなってきたぞ。」


 ルディオさんもステファンさんの後に続く。


「ニシキ殿、号令役を頼めるかの。」


 ステファンさんが俺に向かって依頼する。


「分かりました。」


 俺がそう答える。

 体格差から見るとステファンさんが有利に見えるが、ルディオさんもステファンさんより技術がありそうでなかなかの乱取り稽古になりそうだ。力と技のぶつかり合いか。


「ニシキ殿にやられているからな、少し手加減をせんと。」


 とステファンさんが挑発する。


「この前のジューノシティでは貴様半泣きだったくせに。」


 負けじとルディオさんも返してくる。

 何だかトラッシュトークの掛け合いが始まり、まるで何かのタイトルマッチ戦の記者会見みたいな挑発トークの応酬になりつつある。


「あんなところで人を挑発しておいて、よくそんなことが言えたな。ルディオよ。弱い者程、よくこけ威しをしたがるとは言うがな。」


「弱将の元に勇卒なしとはよく言ったものだ。貴様が弱将だから部下も俺にあっさりタコ殴りにされるのだ。ステファンよ。」


 これもしかして、まだ婚約時のいざこざ引きずっているやつじゃないのか。


「そこらの警備隊員をしばいて粋がるな。相手の力量もわからぬから弱いものをしばいて強くなった気でいるのだろう。」


「力量がわからぬから、貴様の部下は弱卒なままなのだ。」


 これいいのか、乱取り始めても……。


「まあいい、この乱取り稽古できっちりケリをつけようじゃないか。」


「そうだな、これで貴様の実力が口先だけと証明できるだろうからな。」


 もういいや。これでまた婚約破棄だ、華燭の典中止なんて言い出したら厄介だけど、その時はこの2人潰すか……。

 俺はそう思いながら


「いいですか、2人とも。」


「いいぞ。」


「こっちもだ。」


 双方が俺を見てうなずいた。


「では、……初め!。」


 俺が号令をかけた途端に、二人は共に一気に間合いを詰めて拳を使って、激しく殴り合いを始め出した。まるで重量級のボクサーのど突き合いだ。迫力がある。

 ステファンさんが体格を生かして真正面からパンチを左右に打ち込んでくる。ルディオさんがそのパンチを受け流しながら、隙をついて的確に腹部と顔面にパンチを散らしながら打ち返す。一撃の重さならステファンさん、手数と狙いの正確さならルディオさんといったところか。


「うーん、やっぱり拳打によるこういう打撃戦は迫力が違うわね……。」


 ミヤンがそう呟く。


「私たちでは難しいわね。でも受け流して返す技術は参考になるわね。」


 ミアンがミヤンの呟きを受けてそう返す。


「でもこれ、どちらが有利なのかしら。」


 ヘルバティアにはどちらも互角に見えるようだ。


「ニシキさん、あなたならステファンさんとどう戦うのかしら。」


 続けてヘルバティアが俺に尋ねてくる。


「基本は相手の打ち込むところを生かして、こちらで先に技を打ち込むことになりますが、あれだけ振り回して打ってくると、受け流しながら返すにも相当消耗しますからね。」


 俺は、2人のど突き合いを見ながらそう答える。

 ただ、均衡した状態は続いていたが、やはりルディオさんがやや不利になってくる。さっき俺ともやってダメージがある上、あの一撃の重いパンチを受け流しながら相手の急所に返すのは時間がかかるほど難事業になってくる。

 結構神経をすり減らしたルディオさんに余裕がなくなってくる。

 ルディオさんがステファンさんの腹部にパンチを刺すが、そのまま気にせずに振り回すステファンさんのパンチを喰らってしまう。

 両者は膝を同時についた。


「それまで。それまでです。」


 俺は頃合いと見て声をかける。

 ステファンさんは腹部の、ルディオさんは顔面のダメージで、同時に限界を超えたようだった。

 二人は、そのまま床に大の字になって寝っ転がる。


「ふぅ。ふぅ。ふぅ。くそっ、こっちもダメージ喰らいすぎたか。」


「ふぅ。ふぅ。ふぅ。なかなか倒れてくれねえ。体がでかいと打ち込んでもなあ。」


 そこへ、稽古場のドアがガラリと開けられて、


「「あなた、何しているのかしら……。」」


 ハモりながら、ルティナーさん、グレイズさんの両夫人が2人を眺めながら、呆れたように質問してきたのだった。

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