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145弾 恐妻の事実思い知ろう

 翌朝、3姉妹と一緒に、彼女たちのゲストルームで朝食をとり身支度を整え式典の準備に取りかかる。リーゼさんがローウェルさんとグリュックさんとで式典の実施のための話し合いと王都の警備隊に編入する話をしながら同時に補佐官としてのお仕事をこなし、その上で、俺たちが手伝う作業の内容を小間使いを通じて書面で指示してくる。

 式典の準備作業の進捗状況は良好らしいが、華燭の典まで作業できる期間はあと本日と明日だけである。


「さあて、本日、指示書に従って準備しますか。」


 俺はそう呟いて、パーティメンバーたちの3姉妹とメムを見渡す。本日は指示書に従って、夫婦披露目の宴に使う椅子とテーブルのチェックと故障箇所の修理を行う。その作業を終えて昼食をとったあとは、庭の掃除をすることになる。

 庭の掃除といっても、ただっ広い庭全部を掃除するわけでもなく、式典予定の場所を中心に掃き掃除をするのだが、それでも時間はかかる。

 まあ準備のためもあるので当該場所をしっかり掃いて、夕刻ごろになると、


「見ぃーつーけーたぞー、ニーシーキー。」


 どこぞの警部が大泥棒の3世を見つけた時のような声がして、振り返ると、この前メムにノックアウトされた新婦の父が駆け寄ってきていた。


「この前はよくもよくもやってくれたな、おまけにわが娘とあの男の駆け落ちを手伝いやがって。貴様だけは、貴様だけは、絶対に許さん!。」


「宰相邸でこちらの作業の邪魔をしないでください。式典の準備で今庭の掃除をしていますので。しかし、よくここまで来られましたね。」


 顔を赤くして俺に怒りをぶつけるこの親父さんに対して、俺も馬鹿馬鹿しさを感じながら冷静に対応する。そこへメムもそろりとやってくる。


「あなた、何してるのかしら。」


 とその親父さんの後ろから落ち着いた女性の声がして、ゆっくりと歩みを進めながら貴婦人然とした女性が現れる。

 それを聞いたグリュックさんの親父は顔を急速に青くする。薄紫の髪色に紫色の瞳で毅然とした感じであるが、威圧感はなかなかのものがある。


「すみませんね。ニシキさん、でよろしいかしら。グリュックから話は聞いています。黒いグランドキャットを連れた冒険者で、グリュックが恩人だと言ってましたので。」


「いえ、一応挨拶を。姓はニシキ、名はダンと申します。こちらは俺の相棒のグランドキャットのメムです。」


 グリュックさんの母君の威圧感に引っ張られるように、一礼して初対面の挨拶をする。


「あら、ご丁寧にありがとうございます。私は姓はメモン、名はグレイズ。このバカ男は名はルディオと言います。この度はこのバカの暴走でご迷惑をおかけしました。」


 そう言って一礼を返すが、まあ旦那に容赦ない。完全にバカ野郎扱いだ。


「いえ、気になさらないでください。しかし、ずいぶん早いお着きですね。一体どうしてまた。」


「実は勝手にこのバカがイチノシティに行っちゃって、……娘を取り返すとか言ってね。もともと婚約まで行ったのだけど、ギグス家の方が来られた時にしょうもない考えのないこのバカの発言で、話がややこしくなったの。それで娘が困って家出みたいになったのよ。それを知ったこのバカはイチノシティに向かったの。その後あなたの連れた、…メムにのされて、イチノシティの警備隊に厄介になったのだけど、その警備隊内で大暴れしてね。私もこのバカの後を追っかけてイチノシティにきた時に、このバカがそういうことになっていると聞いてね。引き取りに行った時に宰相補佐官からの連絡があったの。華燭の典を行う旨のね。その話を聞いて、このバカを引き取ってここへ向かったのよ。」


 さすが宰相補佐官リーゼさんだ。早めに手を打っていたのか。しかしグレイズさん、相当この旦那のルディオさんに怒り心頭のようだ。


「あなた、わかっているわね。勝手にどちらで住むのかで向こうのギグス・ステファンさんと大喧嘩をして店を格闘会場に変えてしまった上に、娘に別れろ別れろと言って家出に追い込んだ責任があるのは自覚してるかしら。せっかくの華燭の典を前にまだどちらに住むかで揉めようとするなら、それに、この娘の恩人と喧嘩するつもりなら……どうなってもいいのかしら。」


 グレイズさんの怒りのオーラが、ルディオさんの青ざめた顔をさらに青ざめる。


「い、いや。ちょっとした行き違いです。」


「そう、……まず先にグリュックに会うのが先よね。先よね。」


 そう言って、ルディオさんの顔を思いっきり睨みつけるグレイズさん。ふむ、力関係がはっきり出ているなあ。俺が気づいた時には旦那は直立不動の姿勢になっていた。


「……はい、まずはグリュックに会います。それが優先です。」


 小声でグレイズさんに答えるルディオさん。


「では、行きましょうか。」


 グレイズさんがそう言って、旦那を先に歩かせて宰相邸に向かって行った。


(ねえ、何だったのかしら。あれは。)


 メムが用心して念話術で聞いてくる。それに対して俺はため息で返すしかなかった。

 夕食前にちょっと一騒ぎが入ったが、指示書にあった本日の作業を予定通り終わらせることができたようだ。



「作業終わりかけのタイミングで、ニシキさん、誰かとお話しされていましたが、何かあったのですか?。」


 夕食を3姉妹と一緒にとっていると、ヘルバティアが聞いてくる。


「グリュックさんのご両親ですよ。挨拶をしたのです。」


 俺がそう答えると、3姉妹の間に気まずそうな空気が流れる。ああ、そうだった、この前に彼女たちの両親の弔葬の典をしたばかりだからな、俺もちょっと配慮足らなかったか。


「そうですね、明日は招待者が来ることになるのでしょう。ローウェルさんのご両親も来られますね。」


 ヘルバティアがそう言って、それを受けて


「いい式になりそうですね。」


「そうしましょうよ。」


 ミアンとミヤンがすかさず会話を返す。


「ところで、私の料理教育はニシキさんが実施してくれるのですか?。」


 思わぬヘルバティアからの質問だった。


「華燭の典までにそういう機会をとは思ったのですが、式典の準備作業に俺たち結構使われていますから。教育の時間が取れなくて……。」


「いいのですよ、ニシキさん。華燭の典を実施してもらえるのですから、これくらいは大丈夫です。」


 殊勝にヘルバティアが答える。うーん、どこかで教育の時間を取れればとは思うが。


「そういえば、ダン。料理教育って、あなたは料理教育できるのかしら。」


「メム様、正直言ってどこまでできるかと言われれば、何ともいえません。でも料理の下手な原因は、味付け、火加減、段取りの三つが主な原因といいますので、ヘルバティアさんの料理下手の原因がどれかが分かれば、まあ何とかなるのかなあとは思っています。」


「うーん、そこまで酷いのは分かってはいるから、こっそり特訓はしているの。でも……。」


「ミアンさんやミヤンさんに見てもらうことはしないのですか。」


「こればっかりは、と匙を投げられたの………。」


 ヘルバティアがしょんぼりする。双子妹もうなだれる。


「ダンの朝食作りを見ていると、私的にはヘルバティアに教えられるのかと思うのだけど、大丈夫なの?。」


「……今は、まず、華燭の典の実施に向けて頑張りましょう。」


 俺としてはそう言わざるを得ない。


「そうね、じゃあみんなでお風呂にでも入ろうかしら。」


 メムがそう言い出してニヤリとする。それを聞いて


「そうね、結構広い浴室だし、みんなで入るのもいいのじゃないかしら。」


 ヘルバティアがそう言って服を脱ぎ出そうとする。


「ち、ちょっと待った!、待った!!。」


 俺は大慌てで皆を押しとどめて、


「俺は部屋に戻ります。」


 そう言ってダッシュで3姉妹のゲストルームから脱出したのだった。


「「「えー、どうしてぇー。」」」


 と冷やかしとからかい気味に3姉妹がシンクロさせて言ってくる声を残して。

 いや、流石にそこまで図太くはなれないし、セクハラ案件になるのは嫌だ。

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