144弾 式典準備進めちゃおう
翌朝、ドアをノックする音で起こされる。小間使いが来たのかと思いながらドアを開けると、緊張した面持ちのミアンがいた。
「おはようございます。どうかしましたか。」
「あ、あのう。お、おはようございます。今朝も私たちは話し合いに出るのですか。」
おずおずと聞いてきた。
「ええ、話し合いによっては、ヘルバティアさんの料理教育をその際に入れてみたいなと思いまして。そのために3人の意見は必要でしょうから」
「え、どういうことですか?。」
「すぐに華燭の典になるわけではありません。式典のために、短くても2、3日の準備期間はいるでしょう。その際に料理教育をとは考えているのですが……。」
「そうですか、そこまで考えていたとは。孫弟子として大師匠の言いつけを。」
「いいえ、そこは違います。俺はあの師匠の孫弟子とは全く認めていませんので。」
そこはしっかり認識してほしい。
「は、はあ。そうですか……。」
そこへ、ミヤンが隣のゲストルームから現れて、
「何の話をしてるのかなあ、ちょっと早起きすぎない、ミアン姉さん。」
「い、いえ。ちょっとこれからについての話し合いよ。ミヤン。」
「はあ、これから、……ちょっと、これからって何。ミアン姉さん。」
ミヤンが少し勘違いをしたのか、スンとシャットダウンしたパソコンのディスプレイのような無表情さに切り替わる。ちょっと怖い。
「華燭の典についての話し合い時に私たちはどうなるのか、ということを聞いてきたのですよ、ミアンさんは。」
俺がそう言って場を繕う。
「あ、ああ、そう、ですか。」
ミヤンが少し動揺しながら落ち着きを取り戻そうとする感じで反応する。
「まあ、もうすぐ小間使いが起こしに来るでしょうから、2人とも一旦部屋に戻りましょう。」
そう言って俺もゲストルームのドアを閉める。
間も無く、小間使いが起こしにきて、ルームサービスで朝食をとり、身支度をすませる。
「やっぱりここの食事はいいわねえ。」
メムはそう言ってここでの滞在を満悦してる。
「そういえば、ローウェルとグリュックは一緒の部屋になってるのかしら?。」
ふとメムは2人のことを気にするので、
「ええ、そうですよ。婚約もしたし、華燭の典を行うために一緒の部屋で相談してますよ。」
俺はそう答える。
「まあ、困難が絆を強くするとはよく言ったものね。」
メムはそう言って、一人納得する。
でも転移したこの異世界で多分困難を乗り越えた俺たちの絆は強くなりましたか、とツッコミを入れたいが、そうするとメムがキレそうなので今は遠慮しておく。
朝食と身支度を終えて、小間使いの先導で会議室みたいな部屋にメムと3姉妹と一緒に連れて行かれる。そこには、ローウェルさんとグリュックさんが先に入っていた。
「ああ、おはようございます。」
「ああ、ニシキ殿。ありがとうございます。ここまでお膳立てしていただいで。」
ローウェルさんがそう言ってグリュックさんと一緒に立ち上がり俺に一礼する。
「いえ、気になさらずに。これから準備も含めて忙しくなりますので。」
にこやかに俺がそう言って一礼する。
「ああ、もうみんな集まってるわね。」
そう言ってリーゼさんが会議室に入ってくる。こうして華燭の典の準備が始まった。
「では、まず私の試案なんだけど、場所はこの宰相邸の庭で行う、ということでどうかしら。式典は本日を含めて4日後に行いましょう。ただ、招待者は少なくなるけどどうかしら。」
まずリーゼさんが一案を出してくる。
「え、よろしいのですか。この庭はいいのですが、夫婦披露目の宴もこの庭でですか。」
ローウェルさんは少し驚くが、
「大丈夫よ。いいじゃないの。宰相邸の庭はそういう宴会用の場所機能も備えているから。」
「わかりました。宴の方は質素に行いたいです。」
グリュックさんはそう言って庭での式典実施に賛意を示す。
「グリュックがそう言うのなら、宰相補佐官殿の案に乗ってみたいです。」
ローウェルさんも賛意を示す。続けて、
「じゃあ、この華燭の典に来てもらうのは、宰相補佐官、イチノシティ、ジューノシティの街の警備隊総隊長、および両親、リー・リンさん、それと今ここにいるニシキ・ダンさん。以上のもので行いたいです。昨夜部屋でグリュックと相談しまして。」
え、俺も数に入っているのか、おいおい、まさか。
「あのう、作業員としての仕事があるので、このメムを代理に。」
驚いて右手を上げながら外れたい旨をローウェルさんに言うが、
「あら、いいじゃない。あなたもこの夫婦の誕生に大いに貢献しているのだし。あとはメムちゃんも入れてあげればいいのじゃない。」
リーゼさん、とんでもない後押しをしてくれる。
メムは狸寝入りしていたがそれを聞いて耳をピクピクさせている。
「じゃあ、このような形で4日後に華燭の典を実施します。」
力強くローウェルが宣言する。
「それじゃ、私が仲人役と立会人をやるわ。ダンちゃんは介添人をお願いね。リンちゃんにも介添人をお願いしましょう。」
ふーん、兼役でやることもあるのか。
そう思っていると、リーゼさんが続けて
「じゃあ、ダンちゃんところのパーティメンバーのチャティーア3姉妹の皆さんには、ダンちゃんと一緒に準備作業を手伝ってもらおうかしら。」
「「「はい、わかりました。」」」
3姉妹は見事にシンクロして返事を返した。
それから早速、機材の確認をしたり、庭での実施場所の確認をしたりして1日が過ぎて、夕刻になる。
「ふぅ、しかし準備が大変かと思ったが、まあ参加者を抑えた華燭の典か……。」
「ダン、何言ってるの。大変なのはこれからじゃない。」
「ええ、そうでしょう。でも、もっと大変なのはあの補佐官でしょう。」
補佐官としてあの2人を王都の警備隊に編入させて、代わりの人間を派遣する。結構大変だろうな。俺が庭で準備作業中に、補佐官と王都の警備隊の偉いさんっぽい人が会っていたのをチラリと目撃している。
「多分あの2人も華燭の典の準備や正祭典礼服の準備もあるし、俺とメム様にもその正祭典礼服を貸してもらうことになります。」
「私もこの状態で着るのよね。サイズに合うものがあれば。」
「そのグランドキャット用の大きさのものがあるのでしょうかね。」
正祭典礼服の話になる。
補佐官としてリーゼさんもかなり忙しいためなのか、夕食は、各自ルームサービスの形になる。しかし、それじゃ不満の方も我々のパーティ内に約1名いるようで。
「えーっと、何か御用でしょうか、ヘルバティアさん。」
夕食前にドアをノックしてきたヘルバティアがムスッとした顔で突っ立っている。後ろに双子妹を従えて。妹2人はすまなそうな顔をしているが。
「ねえ、私たちパーティ結成してるのよね。」
「正式かどうかはさておき………そうですね。」
俺の回答が一部お気に召さなかったようで、ヘルバティアのムスッとした表情に少し怒気が入り込む。
「じゃあ、一緒に食事をとるべき、じゃないのかしら。」
「……小間使いに聞いてみましょう。」
「………、それと。」
「どうぞ、メムとご一緒に遊んでください。」
「わかってるじゃない。」
と言う会話があったため、食事の用意をしにきた小間使いに話をして、3姉妹の部屋で一緒に夕食をとることができた。
そして、夕食後、メムは隣のゲストルームへと。
そして俺はゲストルームに一人残って、今更ながら気づいたのだった。
このパーティは俺のみ男だと言うことに………。
ということで、一人静かにメモを書いて魔術研究について思考を巡らす。それと同時に、メムには決して見せてはいけない綴りを見直し新たにいろいろ書き足したのだった。