143弾 二人のために案を出そう
夕食後、宰相補佐官の執務室へ案内されて、執務室内の応接セットに俺とローウェルさんとグリュックさんが座り俺の左後ろに別に椅子を出されてメムとヘルバティアが、右後ろにミアンとミヤンが座る。
「手紙は見たのだけど、詳細なところをお聞きしてもいいかしら。」
俺たちの正面に座ったリーゼさんがそう切り出す。
「では、最初にこの2人から説明をしてもらいます。」
俺はそう言って、ローウェルさんとグリュックさんに説明してもらう。2人は順調に交際をして婚約までいったこと、婚約後、両親同士の挨拶の際に、どこに住んで警備隊員の仕事を続けるのかで両家の父親同士激しくぶつかり合ったこと、そして激高した両家の父親が、子にこの婚約はなかったことにすると言い出して別れさせるために、各父親の勤める警備隊員を煽ってしまったこと、最後にグリュックさんがジューノシティから脱出して、イチノシティのローウェルさんの元にやってきたことを説明した。
「まあ、なんてことに。それで、ローウェル君は、このダンちゃんに協力をお願いしたということかしら。」
2人の説明を聞いてリーゼさんが俺の顔を見ながらローウェルさんに質問する。
「ええ、ちょうど運よくニシキ殿を見かけたもので。直感的に頼りにしようと思いました。」
ああ、そうだったのですか。直感的にね……。
「じゃあ、ダンちゃんが手紙を送り、ここまで来てくれたのはどういうことかしら。何か考えがあった上での相談よね。」
なぜかリーゼさんの圧が上がり、表情が少し険しくなって、俺に対して冷たい感じの空気が流れてくる。ヒェー。
「もちろんです。相談というのは、この2人のことです。2人をこの王都の警備隊員にすることは可能でしょうか。」
「……可能だけど、もしかしてそれが、この2人に対するあなたの考える解決策ということかしら。」
「ええ、どちらの街にいたとしても一方の家が不満になるでしょう。それにこの2人が最初考えていたのは駆け落ちということですが、それだと警備隊員が無断でいなくなることで起こり得る問題もあります。だとすれば、両家とは関係ないこの街で二人仲良く警備隊員として働くのはどうかなと思ったもので。」
「なるほどね、どの街で働きながら生活するかじゃなくて、第3の手を考えたということね。でも警備隊員がイチノシティでもジューノシティでも1名減ることには変わらないのではなくて。」
「ええ、ですから、時限を定めて王都の警備隊員をそれぞれ1名ずつイチノシティとジューノシティに派遣すればいいのではないでしょうか。その間に各街では新たに警備隊員を雇うなりして警備隊員を育てたらいいかと思います。王都の警備隊員としてこの2人を加える代わりということでいかがでしょうか。」
「……もしかして、相談というけど先に解決策は考えてきていたのかしら。後は、私か父の権力を使うために。」
そう言った後、リーゼさんの顔が少しほころぶ。
「せっかくこの2人のカップルが仲良くなって交際して婚約まできたので、それを無下につぶすのも、ここを使って仲立ちをした宰相補佐官としては無情ではないかと。それに王都の警備隊を他の街に派遣することで見聞を広げ、警備情報の交換ができたりという利点はあると思いますが。いかがでしょう。それに、イチノシティについては、民の流入が多くて、警備隊員も人手不足気味になり疲弊した状態でもあるので、それもなんとかしたいのです。」
「やっぱり面白いわね、ダンちゃんは。問題点を見つけ解決策を考え実行するのはなかなか難しいからね。今回は意外とまとめて解決しにかかったのね。」
そう言ってリーゼさんはニッコリするが、俺が切り出さなければならない話はまだあるのだ。
「では、この2人は王都の警備隊に……。」
「ええ、もちろんそうさせてもらうわ。あなたのその派遣の話を使わせてもらうわよ。王都警備隊総隊長と話し合う必要はあるでしょうけど。それに、イチノシティ、ジューノシティの警備隊総隊長ともだけど。」
ローウェルさんとグリュックさんの2人は互いに顔を見合わせてほっとした表情をする。
「ところで、2人の華燭の典はどうするの?。よかったらこの王都でしてしまえばいいのよ。」
リーゼさんがそう言い出す。まさかリーゼさんからそう言ってくれるとは。俺が華燭の典について切り出さなくて済んだということか。
「「いいのですか、ありがとうございます。」」
ローウェルさんとグリュックさんが声をそろえてリーゼさんに賛成とお礼の言葉を言う。2人とも半泣きの表情になった。
「では、俺はクールに去らせていただきます。」
そう俺が言った瞬間に、メムが座っていた椅子から俺に飛びかかり頭突きを俺の後頭部に喰らわせる。いてぇー。頭を抱えてうずくまる。
(ちょっと、大人しく話を聞いていたら最後何をカッコつけて決めにかかっているの。私の、私のご馳走はどうなるのよ!。)
念話術でツッコミを入れるが、その前のアクションでのツッコミが厳しすぎるだろ。
周りはひきつった顔で俺とメムを見ている。俺はしばしうずくまっていたが、
「うう、あ、いてて、えっと、その華燭の典に俺とメムとこの3人も作業を手伝ってもよろしいでしょうか。」
「え、いや、ニシキ殿にそこまでさせるのは……。」
そう言ってローウェルさんは遠慮するが、
「そうねえ、華燭の典の代価みたいなものかしら。いいわよ。でも式典の内容を検討しないと。そこからにしましょう。」
リーゼさんの一言で、俺たちのパーティも華燭の典に参加することになった。作業員として。
「今から検討も夜も遅くなるから、明日の朝にしましょう。」
リーゼさんがそう言って、華燭の典など今後については明日の朝にまた話し合うことになった。
俺たちの泊まるゲストルームへ戻ると
「全く、もうダンったら。本当に華燭の典に私を参加させないつもりかと思ったわ……。」
「そう思ったからって、あんなに激しくツッコミを入れなくても……。」
俺は痛む後頭部をさすりながらメムに言い返す。
「でも作業員としてって、私グランドキャットになってるから作業員無理なんじゃ。」
メムがそう言って首をかしげる。
「まあメム様用に、別に作業以外のこともやるのじゃないでしょうかね……。」
俺がそう呟くと、
「だからってクールに去る必要性はどこにもないでしょう。私が華燭の典に関わるのがそんなに不満なのかしら。」
「まあ理由が理由ですので、対外的に説明しにくいでしょう。メム様が食の満足感を得るために華燭の典をやろう、やりたいです、なんてこと。」
「う、まあ、そこはあれよ。ダンがうまくきちんと説明してくれれば。」
「かなり無茶振りしてきていますから、今回については。策を考えるこっちの苦労も……。」
俺はぼやいてしまう。
「じゃあまず風呂に入って、睡眠ね。一寝入り一寝入り。」
そう言ってメムはさっさと俺と風呂に入り、俺もメムの体洗いに久しぶりに付き合うことになった。