137弾 悩める二人を何とかしよう
警備隊本部に向かう途中で、
「ああ、ニシキ殿、ああ。いいところでお会いできました。」
「おや、ローウェルさん。えっと、今日は警備隊の仕事はお休みで。」
「ええ、そうなんですが、……ここで会ったので、思い切ってお願いします。……駆け落ちを手伝って下さい。」
はあああああ、駆け落ち。またなのか、またなのか。
「あのう、この前に会った時、華燭の典を行うって言っておられましたよね……。」
「……はい。……その通りです。」
「もしかして、別れた……とかですか?。」
「いいえ、彼女とはまだ別れてはいません。その……諸般の問題で……。」
「まあ、こうなったら、どこか近くの店に行きますか。さて、俺が奢りますから、話を聞かせて下さい。」
(ああ、メム様。我々はそれぞれ1人分のみにしますので。いいですね。)
念話術で大食いしようと構えたメムに牽制を入れる。
すぐそこにあった食堂へ連れて行き、軽く食事を取りながら話を聞くことになる。
「ギグス・ローウェルとメモン・グリュックの華燭の典の予定が、一体なぜ俺に駆け落ちの手伝いをさせる話に変わったのですか。」
とりあえず質問を真正面からぶつけてみる。
「実は、発端は、式典後の生活の問題からで……、自分としては、ジューノシティの警備隊員になっても彼女と一緒に生活できればいいのですが、…父がジューノシティに行くことはない、グリュックがイチノシティの警備隊員になって一緒に生活すればいいと言い出しまして……。」
ああ、なんか話が見えてきた。花嫁サイドも婿殿がジューノシティに来ればいいとなって、親同士が対立し出したからかな。
「向こうの両親は、逆にグリュックがイチノシティに行くことはない、自分がジューノシティに行けばいい、ジューノシティの警備隊員になって一緒に生活すればいいと言い出しまして……。」
ああ、やっぱりそうか。
「両親同士話し合いみたいなことはされたのですか?。」
「そうしたのですが……決裂してしまいまして……。」
ローウェルさんがそう言って深くため息をつく。
「もしかして、どちらで生活するかで両親同士が揉めてしまったとかですか?。」
「ええ、その通りです。でもそれだけならいいのですが、……警備隊同士でもそれで揉め出しまして……。」
おいおい、えらくややこしい状況になってきなあ。
「もしかして、イチノシティ警備隊とジューノシティ警備隊で対立しちゃった、とかですか。」
「ええ、そうなっちゃいました……。私たちはどうしたらいいのでしょう。」
え、私たちって………、
「実は、駆け落ちするために、もう彼女をこの街に呼び寄せているのですが……。ただ、もうこの状況だと華燭の典は諦めるしかないのでしょう。」
ローウェルさん、意外にやることやるなあ、と俺は密かに感心する。もう覚悟を持って駆け落ちをするつもりのようだ。
(ねえ、華燭の典をやらない、ってことなのよね。駆け落ちじゃ可哀想よ。)
メムが念話術で会話に割り込む。が、今はそれを無視する。
「覚悟の程はわかりました。でも彼女を呼び寄せているのなら、もし帰ってこないと双方の街の警備隊に追われるか、それを相手にすることになりかねないのじゃありませんか。」
「いや、そうなれば、もう潔く突破しますので。もしくは心中します。」
ずいぶん穏やかじゃなくなってきた。
「うーん、わかりました。あなたに協力しましょう。まず彼女をこちらの下宿先に引き取りましょう。多分宿屋に泊まっていたら、あっという間に向こうかこっちの警備隊に見つかりますよ。」
「……わかりました。では、彼女のいるところに案内します。」
ローウェルさんはそう言って、俺たちをその場所へ案内するために立ち上がった。
「まさか、この街の中央図書館にいるなんて大胆というか何というか。」
グリュックさんと宰相邸で会って以来の再会になったが、案内されたのは思わぬ場所であった。
「いえ、こういう場所ですと、意外と個々の利用者は他の者を認識しないですから。」
グリュックさんもなかなか大胆である。
「では、今から一緒に俺の下宿先へ来て下さい。」
そう言って、さっさと俺たちの下宿先へ案内する。
(メム様、彼らの追っ手を警戒して下さい。急ぎ下宿先に戻りましょう。)
(わかったわ。)
そうして、俺たちはローウェルさんとグリュックさんを連れて急ぎ下宿先へ。グリュックさんも用意がいいのか、帽子を用意しており、目深に被って顔を判りにくくしてくれる。
(どうですか、メム様。怪しい気配は。)
(今のところないわよ。)
そうやって急ぎ下宿に戻りつく。
(下宿付近はどうですか。)
(ここもクリアよ。)
俺も周りを確認して玄関の扉を開けて、先に2人を入れて俺とメムが入っていく。
「あら、もう戻られたのです、か?。」
ミアンが玄関に来て、俺たち3人と1匹をみて硬直する。
「すみません、理由は後で説明するので、とりあえずこの人たちをかくまって下さい。」
そう言って俺は土下座し、ローウェルさんも俺を真似て土下座する。
「あの、そんな、なんでまた……。」
ミアンが当惑して硬直しているところに、
「どうしたの、ミアン姉さん。は?。」
「玄関に誰か来て、いる、の。」
ミヤンとヘルバティアも現れて、土下座する2人を見て呆然とする。
「私たちを助けて下さい。」
そう言ってグリュックさんが一礼する。
「はあ、もう土下座はいいですから、まあ、とりあえずこちらへ。」
ミアンがそう言って、ローウェルさんとグリュックさんの2人をリビングダイニングへ案内した。
「とりあえず、あの婦人は客間に案内したわ。」
ヘルバティアがそう言って、ローウェルを見る。
「ニシキ殿、ありがとうございます。タイミングが整えば、決行します。グリュックの様子を見てきますので。」
そう言ってローウェルが客間に向かう。
「ニシキさん、あの2人とはどういう関係なのですか。」
ミヤンが興味津々に聞いてくる。
「うーん、まあ依頼完了させたことで知り合った者です。」
「いや、もうちょっと詳しく教えてくれれば。」
俺のあっさり回答にミアンはツッコミを入れる。
「じゃあ、2人はイチノシティの警備隊員とジューノシティの警備隊員で、ある意味、俺とメムがあの2人の恋の仲立ちをしたのです。ところが、婚約までいったのに、周りの、特に親の悪影響と警備隊が揉めたことで華燭の典をあきらめ、駆け落ちしようと悩んで覚悟を決めたのです。さっき警備隊に行く途中であのローウェルさんに会って、駆け落ちするので助けてほしいと頼まれまして……。」
「へえ、ニシキさん意外とロマンチックなことをするのですね。」
ミアンが感心した様子で俺を見る。
「恋の仲立ち役か、いいわね。」
とミヤンが言い、腕を組み大きくうなずく。
「でも、どうするのですか。まあ、ちょっと聞いただけですが、何にもしないのも……。」
とヘルバティアが今後について聞いてくる。
「ダン、駆け落ちじゃなく華燭の典をできるようにしてあげましょうよ。」
メムが前足を俺の膝に乗っけて、顔を思いっきり近づけて俺に無茶振りをする。