136弾 パーティ結成の準備しよう
「ふう、まさかこんな料理を作る腕があるとはな、これはまた特異な才能だな……。」
俺とミアン、ミヤンに介抱されたディマックはそう呟き、ヘルバティアがその傍でどんより落ち込んでいるのを、メムが体を使って必死に慰めている。
「大師匠は、料理について教えなかったのですか。」
俺はあえて大師匠と言って、嫌味込みで聞いてみる。
「ふん、得手不得手があるからな。あたいにもできることとできないことがある。」
「ふーん、そうですか。」
「なんだ、大師匠にそんなジト目はないだろう。よし、ニシキ君、彼女に料理を教えろ、大師匠命令だ。」
いきなりなことを言い出す。
「嫌です。」
俺は全力であっさり断る。これ以上この大師匠に付き合うことはない。
「ミアン、ミヤン、彼に協力しな。この件については、あたいもできる限り援護、協力する。」
ディマックがそう言うのを聞いて俺は、
「そうですか。では今のは間違いなく、援護と協力してくれると言うことですね。」
「ああ、どうだ。相互教育だ。君は変装術を教わり、料理を教える。」
「わかりました。でしたら、もう一度確認しますが、俺がヘルバティアに料理を教えることに関して、大師匠は援護と協力をするのですね。」
「ああ、その通りだ。援護と協力をする。」
「では、料理を教えるための素材の材料費と料理機材の費用、こういう事故が起きた時の治療費を青天井で負担していただくということでお願いします。あと、この話は書面で契約するような形にすることもお願いします。もちろん領収書はきっちり集めてそちらにお渡ししますので。」
「ちょ、ちょとまて、青天井だと。」
「先ほど大師匠おっしゃっていました。援護と協力をすると。とういうことなので。」
大師匠は先ほどまでの余裕感がどこかに消えてしまったようだ。俺は初めてうろたえるディマックを見た気がする。まあ、あのヘルバティアの手料理も効いているのだろう。
「く、わ、わかった。好きに教えなさい。任せる、ニシキ君。で、あたいはこれから帰ることにする……。ちゃんと悶絶しない料理を教えといてくれ……。」
「では、やってみます。」
俺はニンマリしてそう言い、ディマックは、ほうほうの体でここから引き上げた。
「じゃあ、ダン。料理を教えるのね、彼女に。」
体を張ってヘルバティアを慰めていたメムが、役目は終わった感を出しながら俺に確認する。
「これからどう教えるかは考えますよ。失敗作はメム様、処理お願いします。」
「え、え、まあいいけど。腹が満たせるならね。」
とりあえず、試食判定は一口だけにしてその結果が悪ければメムに食わせる、それだけは考えついた。まあ、被害を抑える意味で重要なことだろう。しかしやるべきことが増えてきた。
「これは一度片付けます。」
ミアンにそう言われて、絵画と冒険日誌は元に片付けてもらうことにする。
「私たちは台所を片付けて、店も清掃して片付けするわ。ミアン、ミヤン後で手伝って。」
ヘルバティアが落ち込みから立ち直りつつ、俺は
「では、俺は今後のことについて考えます。まずパーティ結成についてですね。」
そう言って自部屋に戻ることにする。
「今後のことって……。」
メムがそう呟きながら俺の後に続く。考えることは多いなあ。
翌日、朝食後、身支度をして、メムと一緒に組合本部へ向かい、セイクさんに相談に乗ってもらうことにする。
(結局、まず相談するしかないのね。)
(ええ、それに料理についてどう教えるか、新たな魔弾の開発に伴う魔術研究、パーティ組むにしても3姉妹とどういう役割分担にするか、変装術の教育を受けることについて、それに、元の世界に戻るための情報の取得。今、この五つについて考えなければならないのがちょっと大変です。)
(まずは、パーティ結成のために相談するのね。)
(ええ、少しずつ片付けましょう。)
念話術でそう会話しながら組合本部に向かう。
「あら、相談ということですが、一体どんな相談ですか。」
「実は、今回パーティを結成することになりまして、そのためにいろいろご教示願えないかと。以前にパーティ名を登録する必要があること、組める人数が最大9人までであること、このグランドキャットは数に入らないこと、まだミドルランカーなので実力をつけるようにすることを伺いましたが、今回は実際の運用面で相談に乗っていただければ。」
「そうですか。ついにパーティを結成するのですね。……そうですね。ニシキ様の実力的にはまあ問題ないでしょう。組合本部長が直轄依頼後、9級もいいと判断なさっていますので十分でしょう。まあ、7級にランクアップの書類の手続はまだお待ちいただきますが。」
「ランクが低くても実際にパーティを組むことはあるのですか。」
「依頼によって組んだりすることもあります。ただし、依頼の成功率が上がる反面、得られる金額が少なくなります。パーティを組む大きなメリットは、探索でのリスク低下、これに尽きるでしょう。特にトゥーンカーン国での探索ではパーティを組む方が安全ですから。」
「トゥーンカーン国、………ロストエリアのある国ですね。」
「そうです。書類の手続きが済むとロストエリアについても説明を受けられるようになります。あとは、ランダムダンジョンに対応するのにもパーティを組むメリットは大きいです。」
「らんだむダンジョン?、とはなんですか。」
「うーん、一部で噂になったりする、出現、消滅を繰り返すダンジョンです。急に出現して、急に消える。入ってみないと、そのダンジョンの危険性もダンジョン内の獣についても何も分からないものです。」
あれ、昨日読んだ冒険日誌の一部に記載のあった話かな。
「なるほど、そういう予測できなかったり情報の全くない地域やダンジョンの危険に備えてパーティを組むということですね。」
「ええそういうことです。だから、普段は各自ソロで活動したり他の商売をしたりして、そういう場所に行く時にパーティとなるということも、まああります。」
「なるほど、ふーむ、四六時中パーティを組み続けるものでもないのですね。」
「ええ、だからパーティの再活動や再結成、活動休止なんてことも良くありますので。」
あのパーティ、七つ星はそうやって仲間内で統制が取りにくくなってあんなことになったのかなあ。
「ただみんな冒険者は、ロストエリアでの探索、そして帰還を熱望していますので。一度でもそこに行き帰還すれば、冒険者としての格も、パーティとしての格も上がりますので。」
なるほど、オリンピックを目指しているようなものかなあ。まあ、そうなるとまず各個人の能力向上が優先だな。
「もしかしてですけど、資金力もそれなりにいるのでしょうか。」
「そうですね、各商人とかと契約して情報の代わりに資金を得て探索したら情報や、得た資源やアイテムをその契約した商人とかに渡すということも。ニシキ様がマーハ商店と契約しているような形態以上の契約になりますね。」
見込みのある冒険者やパーティに資金提供してアイテムや資源を得る。つまり、スタートアップ企業に資金を投資して、後のリターンを期待するようなものか。歴史的にいうと、大航海時代の航海者と投資者みたいな関係か。
「なるほど、よくわかりました。また必要に応じて相談させていただきます。」
「あ、先に書類をどうぞ。結成時に提出する書類です。しかし組合本部長は慧眼の持ち主です。あなたがパーティ結成について相談に来ると予想したのですから。」
それ、多分昨日大師匠として下宿先の家に来たからです、とは言わないようにする。
「ではこれで失礼します。」
一礼して相談を終えて、警備隊に向かう。