135弾 師匠は何しにきたのだろう?
フードを被りマントを羽織ったディマックがヘルバティアに連れられて、リビングダイニングまでやってくる。フードをとりマントを外すと、俺が最初に会った時みたいなスッピン状態である。
「なんだ皆集まって。ああ、あの件での整理か。」
テーブルに置かれた絵画やら冒険日誌やらを眺めて納得したように言う。
「あの件って何かご存知なのですか。」
俺が立ち上がって、嫌味たっぷりにディマックに問いただすと、
「ああ、仲間殺しの案件だからな。情報統制はしてるが、いやされているが、イハートヨの家に財管人が入ればな。別れた女房、子供も事情聴取もされているしな。噂に事実が混ざって話が流れていく。」
「ああ、そうですか。イハートヨは死刑になると聞きましたが、そんなに情報が流出しているのですか。」
「これでも情報は統制された方だろう。もうすぐ刑も執行されるしな。」
「もう執行されるのですか。」
「証拠、証人、自白。揃っているからな。それにこの3姉妹にいまだに執着しているようでな。」
「執着ですか。」
「ああ、まだヤっていないとか、ぶち込み損ねたとか、ここまできて、妙にまぐわうことに執着してる。変態性を隠しきらなくなっている、という話は出てきている。」
それなら刑の執行をした方が急いだほうがいいのかもしれない。
「じゃあ、そんな情報を提供しに3姉妹に会いに来られた、と言うことですね。失礼しました。どうぞ、お話しください。」
俺がそう言って席を立ち自部屋に行こうとすると、ディマックはニヤリとして、
「いや、孫弟子のニシキ君にもいてもらおうか。もちろん直弟子の様子も心配なので見にきた、というのはあるけどな。」
「……勘弁してください。だから俺はあなたの孫弟子になった事なんぞ認めてませんから。」
「直弟子に教わっているのだろう、変装術を。だから孫弟子だ。あたいのことはこれから大師匠と呼べばいい。」
「……全て全力でお断りしたいのですが。」
本当にルックスに見合わず困ったことを言い出してくる。
「で、ヘルバティア。どういうふうに教えているのだ。」
ディマックは俺の抗議を完全にスルーして、3姉妹の方に向き直る。俺は憮然として席に座る。
「えっと、2回教えたのですが、まず最初は、女性者の下着と服を着せて化粧をさせてみました。」
ヘルバティアがそう言うと、ディマックは、腹を抱えて大笑いした。
「へ、この男にか、は、は、はぁーはっはっは、ヒー面白すぎる。ギャァーハッハッハッハ。」
3姉妹は当惑した顔で師匠を見ている。
「し、師匠。何かおかしな点でもあったのでしょうか。……師匠に教わったままに教育してみたのですが。」
ヘルバティアが師匠に質問するが、
「あ、ああ。じゃあ次は、2回目はどう教えたのだ。」
「発声について教育しました。腹から発声を意識させるのに高音域から低音域まで発声させて、緩んでいるようならしっかり叩いて注意しましたが……。」
さらに師匠が爆笑する。
「だ、だめだ、し、死ぬぅー。ぎゃーはっはっはっは。ふ、腹がいてぇー。」
しばし爆笑が続く。直弟子たちと俺は唖然としてこの師匠を見つめてる。メムがあの2回の教育するシーンを思い出し笑いしているのか、顔を背けながら全身を震わせて笑いを噛み殺している。
ひとしきり笑い終えた師匠は直弟子に説明を開始する。
「まあ、教えたことをしっかり覚えて守ってくれるのはいい事なんだけど。教えたことをそのまんま相手に教えてもしょうがないだろう。別に女物の下着をつけさせる必要はないだろう。せめて婦人服にしなくちゃ。」
「でも、服の違いは体で覚えればいい、とおっしゃってましたが。師匠。」
ミヤンがそう抗弁するが、
「だからって、男に女物の下着をつけさせても、お前たちにないものが股ぐらについていて、胸にはあるものがないのだから、とてもじゃないけど着けさせてもかえって逆効果だ。」
「じゃあ、化粧もそうなのですね。」
「え、いきなり化粧をさせても、わからないままつける事になって、それも変装術を学ぶのに逆効果だろう。教えるにはよっく相手を観察して、どう教えるかも考えないとな。」
一応あの3姉妹の師匠らしいことは言っているのだが……俺が3姉妹から受けた教育で負った心の傷の慰謝料をこの師匠に請求したい気分である。
「ということでだ、こいつらのする変装術の教育にニシキ君も付き合ってくれたまえ。まあそんなに嫌な顔をしないでくれ。師匠として弟子に今指導したから。な、孫弟子よ。」
「どうあっても、俺をあなたの孫弟子にするのですね……。全力で拒否しますが。」
「ニシキさん、そんなに私たちの教育、嫌ですか。」
そこへ、横合いからヘルバティアが泣きそうな顔で聞いてくる。
「ちゃんと考えて教えますから。」
ミアンも泣きそうな顔でそう言ってヘルバティアに加勢してくる。
「お願いします。教育受けてください。もし教育に不満があれば、えっちなことでもなんでも教えられる限りは……。」
ミヤンがとんでもないことを言い出して、3姉妹がウンウンとうなずく。
「お願いだからそう言うのは勘弁してください。もう、分かりましたよ、分かりましたから。受けますから、教育。」
諦め半分でそう言わざるを得なくなる。
「なるほど、色仕掛けも覚えたか、我が弟子たちは。成長したものだ。」
師匠が納得の表情で大きくうなずく。この人が一番諸悪の根源だというのに。
(もう、ここまできたら諦めましょう。ダン。)
念話術でメムがトドメの追撃をしてくる。
「本当になんでこうなるのだ……。」
俺はテーブルに顔を伏せながら呟く。
「まあ、お前たちが元気そうでよかった。ご両親の行方不明の件も片付いたのだからこれからどうするつもりだ。」
師匠ディマックの問いにヘルバティアがサラッと答える。
「このニシキさんとパーティを結成しようと準備しています。」
「ほう、ほう。前向きじゃないか。いいことだ。なるほどパーティを結成か。」
ヘルバティアの答えにディマックがニヤニヤする。俺からしたら悪魔の微笑みにしか見えないが。
「はい、そのために今後についても話をしていました。」
ミアンのその発言に
「そうか。今後についてもか、いいぞ、いいぞ。こりゃ楽しめそうだな。」
そう言ってディマックは俺を見て
「今後のこともよろしくな。まあ、あたいの頼みをかなえてくれたようだな。孫弟子にする甲斐があるというものだ。」
そう言って、立ち上がって俺の隣に寄り、俺の肩をポンポンと叩いた。
「あっ、そうだ。ちょっと失礼します。」
ヘルバティアがそう言って、台所に立つ。
「一度師匠にも食べてもらおうかと思って準備していたのです。」
そう言いながらお皿に何かを盛って再び戻ってくる。
「おお、そうか。弟子はよく成長しているな。」
「どうぞ、私の試作した新スイーツです。」
「弟子の手料理なんて初めてだからな。おお、では早速。」
そう言って師匠が緋茶と共にそのスイーツを食するところで、俺とミアンとミヤンが顔を見合わせて師匠とヘルバティアを不安そうに見守る。
(あれ、大丈夫かしら?。)
メムも念話術で不安を伝える。
そして、師匠ディマックは、………悶絶した。