133弾 奴にはきっちり喋らそう
翌朝、いつも通りに起きた俺は、酔いが残っているのかまだよく寝てるメムを放っておいて、顔を洗い、庭に出る。どうやら、あの3姉妹も酔いが残っているのかよく寝ているようである。
庭でしばらくブラブラと植えてある植物やらを見物しながら庭の掃除をするが、3人と1匹の起きる気配がない。もうしばらく庭の掃除をして、それなりに片付いたところでいったん自部屋に戻る。メムがまだ寝ているので、もう放っておき、自分の分の朝飯を携帯食糧でとることにする。朝食をさっさと終えて、身支度を済ませ、さて本日はどうしようかと思ったところで、メムが目を覚まし、ガバと跳ね起きる。
「ちょっと、どうして起こしてくれなかったのよ。……もう朝食終わらせたわね。」
俺に近寄りながら携帯食糧の袋を見つけて、文句を言う。
「夕べ俺に下宿移動を撤回させておいた後、さんざん楽しんでいましたからね。下手に起こすのは楽しみを阻害するかと思いまして。」
俺は、そんな文句を受けるつもりはない、という態度と嫌味つきでメムに言い返す。
「……そういえば、あれ、私、いつの間に寝床に入っていたのかしら……。」
どうやら酔いつぶれた時の記憶はないらしい。
そんな会話をしてるうちに、ドタバタと音がして、彼女らも起きてきたようだ。
自部屋のドアをノックするので、開けると、3姉妹が勢揃いして、
「あの、おはようございます。もしかして寝坊しましたか?。」
ヘルバティアが恐る恐る聞いてくる。
「お気遣いなく、俺は朝食を済ませましたので、3人ともごゆっくり。」
俺はそう答えて、にっこりと笑いかけてドアを閉めようとする。
「あ、あのう、夕べ私たち何かしましたか、パーティ結成の提案をした後、メムちゃんと……。」
ミアンが長姉同様に恐る恐る聞いてくるので、
「俺に下宿移動を撤回させておいた後、さんざん楽しんでいました。下手に起こすのは楽しみを阻害するかと思いましたが、この部屋の前で寝落ちしたのはいろいろ問題だと思ったので、各自の部屋には放り込みました。」
と俺が答えると、
「「「も、申し訳ありません。レノシードを飲み過ぎたようです。」」」
3人一斉にそう言って頭を下げる。
「ああ、それで、れのしーど、って何ですか。」
「じ、じゃあ、私たちの食事後にお話しします。昨日のパーティ結成の件も含めて。」
ミヤンが慌てたようにそう言って、3人一斉に引き上げる。
「ああ、ふぁああ、あ、そう言えば私も飲んだんだ、そのレノシードを。」
メムが大欠伸をしながら、そう述べる。
「そうですか。」
「ところで、私の朝食は?。」
「じゃあ、これをどうぞ。」
「携帯食糧なの?。」
「それだけよく眠られていると言うことは、さぞかし調子が悪そうですので、今のメム様にはこの携帯食糧で十分かと。」
メムはガクリと肩を落としながら、その携帯食糧を咀嚼し飲み込んだ。
3姉妹の朝食も終わった頃合いを見計らって、階下のリビングダイニングにお邪魔する。
「ああ、話して大丈夫ですか。さっき言っていた、れのしーど、って何ですか。」
早速聞いてみる。
「ああ、スカバツと言う飲み物の中の1種類でプルアツの実を絞って発酵させたもの。まあ心を豊かにする飲み物です。」
ミヤンがそう答える。
「へえ、そうなのですか。じゃあ、夕べはそれを飲みまくったのですね。」
「い、いや、まあ、飲み過ぎたせいか、どうも部屋の前で寝落ちした記憶がなくて。」
ミヤンがうろたえる。ヘルバティア、ミアンもバツの悪そうな顔をしている。
「一応言っておきますが、記憶がなくなるまで飲むのは、健康と美容のために決して、決して、良くありませんので。適量をわきまえてお飲みください。」
「あの、……私たち記憶のない間に何かやらかしましたでしょうか?。」
ヘルバティアがおずおずと聞いてくる。
「ええ、大丈夫ですよ。記憶がないのなら別に言うことではないでしょう。大事になるようなことでは、まだありませんでしたので。」
「は、はあ、そう、ですか……。」
3姉妹が顔を互いに見合わせる。
ここは思いっきり釘を刺しておこう。今後、変に絡まれると厄介だ。
「ところで、メム様。メム様はどのくらいレノシードを飲まれたのですか。」
「えーと、美味しいツマミと肴とスイーツを食べた後、そのコップ5杯くらいかしら……。平皿に入れてもらったけど……。」
「大食いにそれだけ飲んだら、体に脂がつきますよね。元の女神に戻った時が悲惨なことになりかねないですよ。まあ、何回も言っていますが。」
メムも俺にそう言われて、ぐうの音もなくなったようだ。そばで聞いている3姉妹も顔を伏せてしまっている。まあ、厳しめのトークはこれで終わって、俺は話を続ける。
「さて、話は変わって、パーティ結成のことですけど、みなさんの実力は把握したいのですが、よろしいでしょうか。」
「もちろん。そう言うからにはニシキさん、あなたの実力も見せてもらうと言うことになるわ。でいつ、どこで実力把握のための探索をするのかしら。」
ヘルバティアが顔を上げて、気合いの入った返答をする。
「ええ、意欲はあるのはわかりました。ただそれは……、組合本部に相談してからでよろしいですか。」
3人と1匹がテーブル上でずっこけた。
「では、あとこちらからお願いしたいことが一つ。イハートヨの盗んでいた冒険日誌を閲覧してもいいでしょうか?。」
「ええ、もちろんです。それを読んでみて、あなた方のいた元の世界に戻れる手がかりになるのなら。持ち出すことはないのでしょう。」
「もちろんです、ヘルバティアさん。必要と思われる部分を写すのは大丈夫ですよね。」
「それだけなら大丈夫です。じゃミアン、ミヤン。」
「「早速こちらに持ってきます。」」
双子妹がシンクロして言い地下の隠し部屋に取りに行く。
「ここで、みんなで閲覧しましょう。あの絵も用意しますよ。」
「何から何までありがとうございます。」
「じゃあこれで戻るための手がかりが見つかるかもしれない、と言うことね。」
メムが俺を見て鼻をクンクンさせながら言う。
「「はい、お待たせしました。」」
ミアンとミヤンがそう言って絵と持ち出された冒険日誌を3冊持ってきた。
まず冒険日誌を確認する。
……へ、こ、これは、……なんてことだ。ざっと見ただけでも、何箇所かのいや十数箇所のページが破られている。
ここは、どうだ。これもか。………描かれた絵から、地球の、日本のイベントの真っ最中な時に転移したようだが、肝心の何を、どうして、どういうアイテムを使ったら日本に転移したのか不明のままになってしまう。……そういう部分を切り取ったのか、あの野郎。
「ダン、どこへ行くの。落ち着きなさい!!。」
立ち上がり、早足で玄関に向かおうとする俺を、厳しい声でメムが押し留める。
「……いや、あのイハートヨに切り取った冒険日誌のところを聞き出します。」
「とても聞き出すと言うようには見えないわ。暴力的に吐かせるのじゃないの。でもまず落ち着いて。一旦戻って席に着きなさい。」
メムが再度厳しい声で俺を席に戻す。
「今のダンのことだから、牢をぶち破ってでもあのイハートヨのところに出向いて、激しい拷問でもして喋らすのでしょう?。そんなことしたら、かえってあなたの立場がヤバくなるわよ。」
「そうです。もうあれは囚人です。それに、そんな囚人に無理くり聞き出しても、正確な情報が得られるとは思えません。奴は全く違う情報を与えるでしょう。」
メムの後に続いてミアンが冷静に指摘する。
「私たちも父母の記録や装飾品などを調べてみます。もしかすると何か見つかるかもしれません。今の結果だけが全てではないでしょう。振り出しに戻ってしまったわけでもないです。」
ヘルバティアがそう言って俺を落ち着かせる。
「そういえば、ミアン姉さんもみたことなかった?。父さん母さんが何か変わった石を集めてたようだったけど。」
一人別の冒険日誌を眺めていたミヤンが、何かを思い出したように口を開いた。