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131弾 返却物を片付けよう

 朝食と後片付けを終えて、身支度を整えて待つ間、机でメモ書きをする。


「何、下宿先を探す方法でも考えてるの。それとも家を買うつもり。」


 メムが嫌味たっぷりに言ってくるので、


「いや、魔弾について考えてるのです。今後、【火球】とかを【火弾】というふうに球を弾に変えてみて実験したほうがいいかなと思ってまして。【爆裂火弾】と【岩弾】はぶっつけ本番でぶっ放しましたが、ちょっと調べることも、仮説を実証することもしたいので。」


「仮説?、どんな仮説かしら。」


 メムが意外なことを聞いたという感じで俺に尋ねてくる。


「うーん、前に言いましたが、魔力の消費量って、もしかすると、この漢字の文字数に比例しているのかなあ、と思ってまして。もし魔力の消費量と漢字の字数と魔法の威力に因果関係があるのなら、それが判れば、今後の魔弾製作に役立てられそうかなと考えています。」


「なるほどね、もし、漢字一文字で強力な魔弾ができれば、魔力の消費も抑えられる。おまけにぶっ放す魔弾の量も、コントロールしやすくなる。目指すのはそこかしら。」


「そんな一文字で、魔法発動されて威力のある漢字があればいいのですが、俺も自分の記憶にある限り、そんな漢字を思いつかないのです。やはり最低限は漢字二文字になりそうですね。」


 この異世界トゥーアールの魔術について、もっと研究と調査をして、俺のこの漢字を使う方法と比較はしたい。しかし、己の魔術、魔法は他人に開示しないというのが、調査研究の足枷になっているのが現状である。


「まあ、メム様が、」


 と俺が言いかけたところでドアがノックされて、


「そろそろ出かけますので、準備してください。」


 とヘルバティアから声がかかる。


「では、行きますか。メム様。」


「そうね、じゃあ行きましょう。」


 そう声をかけ合って、玄関へ。



「あ、今回はニシキさんだけの同行をお願いします。」


 ヘルバティアからそう言われて、メムがカクっとずっこける。


「ドラキャを使いますし、受け取りだけですから。ミアンとミアンには収納の準備をしてもらいますので。」


「えーー、私も行くつもりでいたのに。ダン、妙な気を起こしちゃダメよ。」


「ええ、メム様のように途中で買い食いや大食いをしないようにします。」


「くっ、言ってくれるわね。」


「メム様、ミアンさんとミヤンさんとで留守をお願いします。」


 俺がそう言ってメムに向けて頭を下げると


「わかったわ。任せてちょうだい。ダン。」


 いや、メムが言うところじゃないだろう。心の中でツッコミを入れる。

 そうして俺とヘルバティアはドラキャに乗り、彼女の運転で警備隊本部へ向かった。


 ドラキャの中で、


「ねえ、ニシキさん。ニシキさんは今後どうするの。」


 ドラキャを運転しながら、ヘルバティアが聞いてくる。

 ヘルバティアは茶店を開店するときの少年店員のような格好をしているが、顔に少し化粧をしているようだ。こうすると幼顔でもいい女には見える。


「今後ですか、うーん。元の世界に戻る方法を探し続けるしかないのですが……。」


 目線を車窓に移して外の風景を眺めながら答える。


「ああ、そうね。そうだったわね。でも、異世界人というけど、ここに結構馴染んでいるわよね。」


「ええまあ、生き抜くのに目一杯なのもあるのでしょう。……ドラキャだと早く着きますね。」


「じゃあ、止めるわよ。」


「はい、わかりました。」


 所定の位置に止めると俺とヘルバティアは警備隊本部へ入る。ヘルバティアが受付で盗難品等の受け取りに来たことを伝えると、受付担当者が奥に入り、すぐに誰かに連絡がいったようで、警備隊員が俺とヘルバティアを案内して、倉庫みたいなところに連れてくる。その倉庫部屋の前で待つように言われて、袋に包まれて札のついた荷物を三つ受け取る。ヘルバティアが書類とそれらの荷物を確認して書類にサインをする。台車を借りて、荷物を乗せて停めてあるドラキャのところへと運んでいく。

 ドラキャへの積み込みを終え、台車を返して、家に向けてヘルバティアがドラキャを走らせる。

 帰りのドラキャ内はお互い無言であった。本当、ドラキャだとすぐに往復できる。

 家に着き、俺は受け取った荷物を家の中に運び入れる。準備をしていたミアンとミヤンが荷物を解いて袋から出して、あらかじめ決めていたであろう場所に片付けていく。

 意外と片付けは時間がかかり、整理整頓もしながらだったせいもあるのか、全て終わったのは夕刻であった。


「まあ、これで片付いたわね。ミアン、ミヤン、お疲れ様。」


「そうですね。ティア姉さんもお疲れ様です。」


「しかし、絵に描かれている内容、ニシキさんのほぼ予想通りだったな。そう思わないですか、ティア姉さん、ミアン姉さん。」


 ミヤンの問いかけにヘルバティアとミアンが大きくうなずいた。


「あのー、夕食は持ち帰りのものを買ってきましょうか。」


 俺がそう尋ねると、


「そうね、お願いできるかしら。結局こき使ってしまったわね。でも手伝ってくれてありがとう。」


 とヘルバティアが答えた。

 メムと一緒に近所の市場に行って、持ち帰りものの夕食を買い込み。下宿先に戻る。

 夕食を皆で一緒に済ませると、入浴時間となる。俺は灌水浴室で、いつも通りにシャワーを済ませて、自部屋に戻る。メムもいつも通りヘルバティアと入浴をする。


「絵は、俺のほぼ予想通りだったな。あとは戻ってきた冒険日誌を見てみたいが……。」


 そう独り言を呟くと、ドアがノックされる。

 メムが入浴を終えて戻ってきたか……そう思いながらドアを開けると、そこには昨日夜のように、3姉妹がメムとともに揃っていた。


「ニシキさん、話があります。」


 ヘルバティアがそう言って一歩前に踏み出す。

 やれやれ、また一緒に寝る話になるのか……、俺がそう思っていると、


「この下宿を出たいというのは、本当なのですか。」


 ミアンが柳眉を逆立てて、厳しい表情で詰問する。


「メムが教えてくれたのだけど、夜半にメムにそう言ったんだって。」


 ミヤンもミアンと同様の表情で、俺にジワリと問いかける。

 メムを睨みつけると、メムが、


「今回は反対するわよ。もう先に彼女たちに言ったから。」


 そう言って、言外に完全に彼女たちと組むことを宣言する。


「メム様、まさか彼女たちと手を組むなんて。完全に寝返ってどうするのですか。」


 俺がうろたえ気味にメムに抗議するが、


「さあ、部屋に入って話しましょう。」


 ヘルバティアがそう言って部屋に入り込もうとする。ミアンとミヤンがそれに続くのを、俺は止められなかった。

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