129弾 きちんと弔いしておこう
総隊長が3姉妹に事件について説明している最中は、別の隊員に案内されて、総隊長室付近のベンチに腰掛けて、長い時間待つことになる。
そんな俺たちの前へ、
「ニシキ殿、お久しぶりです。この度はうちのパーティリーダーがご迷惑をおかけしました。」
そう言って、ニザール・ノーンツさんが挨拶してくる。
「あれ、どうしてこちらに。」
俺が立ち上がり問いかけると、
「チャティーア夫婦の遺児が来られると聞いたので、一言、お詫びを言いたくて。そういえば、この件にあなたが関わっていたとは聞きましたが。」
「……はい、そうです。直轄依頼で警備隊に協力して調査したのです。」
「そうですか。解決に協力いただきありがとうございます。」
ニザールさんが俺にお礼を言う。
「いえ、そんなお礼を言われても。大したことはしていません。あのイハートヨ・ダノーツの問題から起きたことだと思います。一緒に待ちましょうか、総隊長が遺族へ説明が終わるのを。」
「そうですね。では。」
そう言って、俺とニザールさんはベンチに腰掛けて、一緒に総隊長の説明が終わるのを待つことにする。
「しかし、あなたの益獣は、かなり特殊というか、珍しいですね。
毛色と毛並みがここまで綺麗で、黒色の毛色のグランドキャットとは。前に臨時パーティメンバーとして参加してもらった時に気になっていたもので。」
ニザールさんがメムをじっくり見ながら、俺にそう言ってくる。
「そうですか、相棒ですから、身だしなみには気を使っています。とこで、グランドキャットって、結構いろんな毛色があるのじゃないですか。」
「うーん、たまたまかもしれませんが、グランドキャットの毛色は混色なものが多いものですから。あまり、単色のグランドキャットは見たことがなくて。」
まあ、うちの相棒は元女神です。地球という世界から来ました、とは言えないしなあ。そう言っても誰も信じてくれないだろうからなあ。
「グランドキャットは、その益獣じゃないものは、主にどこに生息しているのですか。」
と俺はニザールさんに尋ねてみる。
「うーん、コシチューク国かデー・イッカホ国に多く生息と聞いたことはあります。あとは少数があちこちの国に点在して生息していると。まあ、珍獣に近いものですからそう簡単に見つけにくい。ただ飼いならすことができたら、すごいことだと言われますよ。飼うには手間暇と費用がかかると。」
「ふむ、そうですか。」
探しに行ってみようかな、メムのお仲間、お友達を。
そう思いながらメムを見ると、俺の足元で尻尾をパタパタさせて、狸寝入りをしている。
その時、総隊長が俺たちの前にやってきた。
「説明は終わったよ。ニザール殿、どうしたのだい。」
「はい、チャティーア夫婦の遺児に一言、詫びにきました。」
「別にいいのじゃないか、ニザール殿は遺品を探し出してくれたのだし。おかげで、彼女達に引き渡せたからね。」
なるほど、そういう手配もしていてくれたのか。そこへ、ヘルバティアが現れて、
「ニザールさん、あなたが探し出してくれたのですね。父と母の装備品を。」
と言って頭を下げる。
「いや、そんな、頭を下げるのはこっちです。俺たちのパーティリーダーがあんな仲間殺しをするなんて、活動停止中だったとはいえ、あいつを止められなかったのは俺たちパーティメンバーの責任だ。詫びて、ご両親が戻ってくるものではないが、詫びを言わせて下さい。」
ニザールさんがそう言って深々と頭を下げた。
そこへ双子妹がやってくるが、ヘルバティアに頭を下げているニザールさんを見て、動きが止まる。しばらく周辺が沈黙に包まれる。
ミヤンが、
「……もういいですよ。あなたの気持ちは十分伝わっていますから。」
ミアンが、
「頭を上げて下さい。あなたが父と母の装備品を探し出してくれたから、墓場に収めることができるのですから。」
そう言われるのを聞いて、ニザールさんが頭を上げて、
「弔葬の典は、明後日でしたね。残ったパーティメンバーでうかがいますので。それでは失礼します。」
俺とメム、そして総隊長は立ち尽くしていたが、総隊長が
「弔葬の典は明後日になるなら、これから手伝ってあげておくれ、ニシキ殿。」
と言うので、
「わかりました。微力を尽くしましょう。」
と答えて、3姉妹と一緒に引き上げることになった。
その後は俺とメムは、弔葬の典、前世の地球でいうお葬式の準備のために、弔葬の典用の服のレンタルの準備などで、マーハ商店などへ行ったりして街内をあちこち走り回り、当日までいろいろな下働きをする。ちなみに、犯罪被害者の弔葬の典の費用は、組合本部が負担してくれる。今回は、犯人が判明しているので、犯人の財産の確認が終わり次第、費用はそこから回収するそうだ。
昼食後すぐの時間から始まった弔葬の典は、割とあっさりしたものであり、街の共同墓地に行きご両親のチャティーア・バードスタとアネミクの墓の区画に穴を掘り、装備品である兜と鎧と手足甲を埋める。遺体のない場合は装備品で代用するが、装備品もない場合はそのまま何も掘らない。遺体のある場合は火葬して骨にして埋めることになる。
最後に参加者が土をかけて埋めて行き、最後は遺族が土をかけ、埋めて墓石に埋葬されている者の名前の刻まれた金属のプレートをはめ込む。墓石も楕円形で両拳を合わせたくらいの大きさで、プレートをはめ込むための部分が彫り込んである。
最後に前世の地球でいうところの喪主、この異世界では典主というそうだが、が挨拶をして終わるのであった。
彼女達の両親の弔葬の典はつつがなく終わった。
終わってすぐに、式典に参加していたかつてのパーティメンバーだったニザールさん、タータルさん、ベランツさんが3姉妹に声をかける。
俺とメムは雑用係として、式典全体を見渡して細部をチェックしていく。忘れ物や落とし物はなさそうだな。弔葬の典が終われば、共同墓地は一度閉鎖される。ニザールさん達は、話を終えて引き上げていった。
俺は、もう一度忘れ物や落とし物がないか、メムと一緒に再度確認をする。よし、問題はなさそうだ。
「ヘルバティアさん、確認は終わりました。落とし物、忘れ物はありません。」
参加者は皆帰り、残っているのは遺族の3姉妹と俺とメム、そして葬儀屋からの手伝い2人と共同墓地の管理事務所からの手伝い2人。
「わかりました。ではお手伝いの方に終了の旨を伝えて引き上げましょう。」
ヘルバティアがそう言って、俺はお手伝いの者に終了を伝えて、ご両親の墓にしばし黙祷を捧げる。そして、3姉妹と一緒に共同墓地を後にして、家、かつ俺の下宿先へと向かっていった。
「これでケジメはついたわね。ひとまず皆さんお疲れ様。」
家に着いたところで、ヘルバティアがそう言って、双子妹と俺たちを労う。
「夕食は弔食事になるわね。」
ミアンがそう言って夕食の準備にかかる。
「ニシキさんもメムちゃんも一緒にどうぞ。というか一緒に弔食事しないとね。」
どうやら、精進落としみたいな料理になるのか。
「そうですか、わかりました。ところで弔食事とはなんですか。」
「そうね、弔葬の典を終えた夜の食事をいうのよ。粥もの、汁物が中心の料理になるわ。」
なるほど、やっぱり精進落としみたいなものか。そう思いながらメムと顔を合わす。メムも俺と同じことを思ったみたいだった。