126弾 事実は結構きついだろう
「じゃあ、お出迎えに行きますか。」
メムにそう言って、朝食と身支度を終えて療養所へと3姉妹を迎えに行くことにする。
早足で歩いて、療養所に到着して、入院している部屋へ。
ノックをすると、
「はーい。」
とヘルバティアの返事がして、ドアが開き、ヘルバティアが顔をだす。
「あら、ニシキさん。どうかしましたか。」
「いえ、引き上げとのことで、荷物持ちをするつもりで来ましたので。」
俺がそう答えると、
(何、その回答。出迎えに来ました、家までお送りします、とでも言いなさいよ。)
念話術によるメムからの指導が入る。
「じゃあ、もう少し待っていてください。体調のチェックを最後しますので。」
とヘルバティアが答えて、一旦ドアが閉じられる。
俺とメムは廊下でしばらく待機していると、
「ニシキ・ダン殿ですね。警備隊のものです。」
と声をかけられる。
「前にイサドさんのところに使いで来た者かな。アンチージョ・リージーの死亡を知らせに来た時に見かけたが。」
「ええ、使いとして総隊長からの伝言をニシキ殿に。」
「何でしょうか。」
「はい、総隊長から急がないが、今日か明日に来てほしい。完了させた直轄依頼の関係で話がある、とのことです。」
「わかりました。関係者がこれから引き上げるので、その後なら、と総隊長に伝えてほしい。しかし、なぜ俺がここにいると。」
「はい、組合本部に行って伝言を頼んだのですが、えっと、セイクさん、だったかな、もしかしたらこの療養所に行ってるかもしれない、と言われまして。」
「そうですか。なるほど。返答は伝えてくれるのですね。」
「はい、では早速。」
そう言って警備隊の使いの者はこの場を立ち去る。
その時にドアが開き、ヘルバティアが現れて、
「今のは誰?。」
と聞いてきたので、
「警備隊の使いの者が、総隊長からの伝言を持ってきたのです。皆さんを家までお送りした後で、総隊長に会いに行ってきます。」
と答えると、
「へえ、送ってくれるの。」
とミヤンが左手を振りながら現れる。
「じゃあ、お言葉に甘えて、家まで送ってください。」
とミアンが俺の右隣に寄ってくる。
「えっと荷物とかは、……ないですね。」
「お気遣いありがとう。ニシキさん、メムちゃん。」
ヘルバティアがかがんで、メムをなでながらお礼を言う。
ということで、3姉妹はフードを被りながら家まで俺とメムが一緒になって歩いて帰った。
「じゃあ、後は家の整理整頓ね。じゃあニシキさん、メムちゃんはまた街の中心部へ行ってくるのね。」
家に戻った3姉妹は、家の掃除や片付けをするということで、俺たちは再度、町の中心部へ向かい警備隊本部で総隊長に面会する。
「いやいや、よく来てくれたね。直轄依頼を早期に片付けてくれてありがとう。侵入・襲撃事件の黒幕は分かったとしても、もうしばらく、落ち着かないことになるだろうけどね。」
そう言って俺たちを労ってくれる。
「呼び出したのは、この事件の後始末、というところですか。」
「ああ、イハートヨが全部吐いたよ。ありゃとんでもないくらいクソな、仲間殺しだ。」
そう言って、イハートヨの供述について話してくれた。
「確かに聞いていて最悪の気分になりますね。彼女たちに全てを言うわけにはいかないような気もしますが。」
イハートヨの供述内容はこうである。
① 最初3人でパーティを組んだのは、その時から彼女、チャティーア・アネミクに惚れていたからである。チャティーア・バードスタと恋敵であったが、アネミクには相手にされていなかったが、いつかモノにするつもりで機会をうかがっていた。その2人が結婚をすることになった時からバードスタには殺意が湧いた。
② 結婚後から年に1〜3回、彼らの家に侵入して情報などをいろいろ漁って、一部は盗み出した。それをパーティの活動休止期間も含めて十数年繰り返していたところ、冒険日誌に異世界に行った記録があったのでそれを盗み出した。
③ そして2年前に侵入した時、偶然2人が鍛錬と探索に向かうことを知って、そこで偶然出会った感じを装って話をしようとした。偶然出会うのはうまくいったが、話で異世界に行った話をしようとすると、侵入と盗難を勘付かれたため、地属性魔法を発動させ、2人を拘束させようとしたところ、絞殺した結果になってしまった。
④ 死体と装備は別にして、死体はアンムヨの樹海に遺棄して、装備は売りに出すことにした。売りに出す装備はリュキード・マーフォーに託して、売り上げをもらうことにしたが、リュキードが、装備の持ち主に気づいて脅迫してきたため、やむを得ず毒殺した。死体はアンムヨの樹海に遺棄した。しかしその装備はリュキードがどこかに隠したようだった。
⑤ その後不明で動揺しているチャティーアの家に忍び込み、絵を2枚盗み出した。その絵は何が描いてあるか分からなかったので、冒険日誌と付き合わせて異世界に行った時の絵だと分析したが、残りの絵も必要と考えて、3枚の絵を手に入れることにした。
⑥ この時にはパーティの再活動もしていたので、腕の立つ者を探して、そいつに3枚の絵の回収を依頼した。
「まあ、これだけ罪を重ねていれば、もう救いようがないよ。」
総隊長が重苦しい声で言う。
「では、このイハートヨは。」
「死刑だね。仲間殺しは重罪だよ。」
うん、やっぱりそうなるだろうな。
「殺された彼女らの両親の遺体は、見つかるのですか………。」
「多分無理だろうな。獣に喰われている……、場所が場所だし。」
「形見となる装備も不明な状態ということですね。」
「ああ……。そうだな………。もう一度捜索はしているが。」
せめて形見となる装備だけでも彼女たちに渡せたらいいが………難しいか。そう思うとイハートヨに対する怒りが沸々と湧き上がってくる。
「両親の葬式をするとなると、遺体も何もない葬式になるのですね。」
俺は、イハートヨへの怒りをこらえながら、淡々と呟く。
「それにだ、イハートヨの雇っていたあの覆面連中、この前侵入と襲撃で、ニシキ殿が捕まえてくれた奴らの雇い主だった。」
「あの3人ですか。どんなやつなのですか。」
何気に聞いてみる。
「元ファチオア商店の特工部隊、ファファロイのメンバーだったそうだ。」
そうか、まだ残っていたのか。まあ、俺もあのファチオア商店全てを潰したわけじゃないからな。そういうのがいるのは、まあしょうがないか。とはいえ、何かスッキリしないものもあるが。
「で、明日、いや明後日か。……あの3姉妹を連れてきてほしい。事情を説明することも必要だからね。頼めるかい、ニシキ殿。」
「イハートヨの供述とかを彼女らに説明するのですね。まあ、マイルドにできるところは。」
「もちろん、彼女らのメンタルにダメージを与えないように説明はするよ。」
ケジメはつけなきゃならないしな。俺たちも、もしこの世界トゥーアールで死ねば、状況によっては、俺の遺体は獣の腹の中に収まるのかもな……。
そう思いながらメムを見ると、メムはしょんぼりとうなだれていたのだった。
「明後日の早いうちにしましょうか。」
うなだれたメムを見ながら、そう提案する。
「うむ、じゃあ明後日、予定をしっかり押さえておくよ。」
「ではこれで失礼します。」
俺たちは警備隊総隊長の元を下がっていった。