125弾 一件落着しただろう
「さあ、こちらに座ってくれたまえ。」
冒険者ギルド長が応接用の席をすすめる。組合本部長も席を立ち応接用の席へ。
「ニシキ殿が、ここまで迅速に依頼を片付けてくれるとは全く思いもしなかった。」
冒険者ギルド長が、驚きと安堵感を混ぜたような感情を込めて言ってくる。
「ふふふ、本当に予想以上だ。」
悪い老魔法使いのように不気味に笑いながら組合本部長も、冒険者ギルド長に同意する。そして、
「前に話した通り、ランクアップだろうな。大幅に。」
え、ランクアップ、ですか。ただ大幅にってどういうランクアップを考えてるのだろうか。
「どうだ、ヤング、結果は予想以上、だったらランクアップも大きく9級にアップじゃろう。」
「は、え、ほ、本部長。それは、あまりにも。」
「黒幕かつ真犯人のイハートヨを苦もなく叩きのめしている。ハイランカーとここまで戦うものもそうおるまい。これは実力から見ても9級もありじゃと思っているのじゃが。そこまでランクアップさせてもいい。」
組合本部長、それは高く評価しすぎです。イハートヨは、メムに噛まれた股間の傷のこともあって、全力発揮していませんので。
「え、いや、それは、前例もないですし、5階級も一気に上げた者は今までいません。しかも試験なしでとは。」
冒険者ギルド長、何か振り回されている気がする。
「ふむ、ではヤングは、何級にランクアップさせればいいと思うのじゃ。」
「え、えーと、商業ランク3級であるのことも踏まえますと、あと最近、冒険者ランク4級にランクアップさせたこともあるので……、7級、ミドルランカーとして最上位のランクが妥当じゃないかと……。」
「4級のランクアップは、お前らのランクアップ試験での失態の隠蔽と尻拭いの妥協案じゃなかったのか。あの時も5級にしろとワシは言っていたのに……。」
「いや、あ、あれは、アクシデンタルなことだったので……。」
冒険者ギルド長、苦労してるなあ。
「まあ良い、分かった。じゃあ、今回は7級にランクアップとしておこう。冒険者ランク7級にランクアップじゃ。」
組合本部長ってそんな権限あったの。
「あとは、セイクと話しながら7級として活動すれば良いだろう。」
「えっと、いいのですか。本部長殿。」
俺は遠慮がちに尋ねてみる。
「ヤングが不服なようだからな。しかし、直轄依頼を10日以内に片付けるとは。」
組合本部長はそう言ってニヤリとしたようだった。
「……まあ、そういうことだ。ニシキ殿。ただ、一気にランクが上がったので、書類手続きが増えてな、10日後に書類手続きを終える。それで正式に冒険者ランク7級となる。まあ、何がともあれランクアップだ。おめでとう。」
冒険者ギルド長が眉間にしわを寄せながら俺にそう告げる。書類の山に追われることになるのだろうか。
「ありがとうございます。では、セイクさんと相談しながら、やっていきたいと思います。」
「まあ、いろいろな術や技を学ぶといいかもな、例えば変装術とかな。」
組合本部長がさらりとぶっ込んでくる。
「は、これで失礼いたします。」
さっさと退散しよう。
冒険者ギルド長が呼び鈴を振り鳴らす。
部屋を出ると、セイクさんがそこに立っていて、俺たちを連れて受付に戻る。
「依頼完了、ランクアップお疲れ様です。まず代金の5万クレジットです。」
「この代金は前に言っていた最低額の分ですね。」
「ええ、そうです。今、イハートヨ・ダノーツの財産を確認していますので、最終的な代金は後でお知らせして支払うことになります。」
「わかりました。財産確認は時間がかかりそうですね。」
「はい、警備隊による捜査もありますので。証拠品との仕分けもあります。」
セイクさんが険しい顔をする。
「まあ、それは急ぎませんので。で、ランクアップの件ですが。」
「はい、組合本部記録と抄録の記載事項の修正に時間がかかります。書類上の手続きが出てきます。多分組合本部長室で聞いておられると思いますが、10日後にこちらの書類手続きを完了します。あとは組合本部との契約書を変更いたしますので、そこでニシキ様のサインをいただくことになります。」
「やっぱりランクアップが著しいと、結構大変なことになるのですか?。」
俺は気楽に尋ねてみたが、
「……ええ、というかニシキ様、あなたのランクアップのスピードが結構早いので……、もうすぐハイランカーになりますので、その辺の自覚も必要かと思います。」
いやー、こりゃ大変なことなのか……。
「組合本部長は最初、9級にしようと言ってましたが、冒険者ギルド長が反対というか、妥協案を出したもので……。」
俺の言を聞いたセイクさんの血圧が上がったようで、
「えっ、そうなんですか。まあ、冒険者ギルド長の意見はごもっともなものです。そんなスピードでランクアップしたら、もっと書類仕事が増えてしまいますので……。」
「いや、何か申し訳ありません。」
俺が立ち上がり、セイクさんに頭を下げる。
「そんな、頭を上げてください。まあ、あなたの直轄依頼の処理能力がすごいというしかないのですが。」
「また、相談に応じてもらえるのでしょうか…。」
恐る恐る俺はセイクさんに確認する。
「それは大丈夫ですから。」
「わかりました。これから、療養所に行きますので、引き上げさせてもらっても。」
「どうぞ。今回の直轄依頼の関係者が経過観察で入っているのでしたね。」
「ええ、では失礼します。」
何か組合本部の職員が気の毒に思えてくる。
(何、気弱になってるのよ。やることやったのだから堂々としなさいよ。)
俺の気持ちに感づいたのか、メムが念話術で言い聞かせてくる。
次に行くのは3姉妹のいる療養所へ。
療養所に行くと、入院している部屋を教えてもらう。
その部屋に行ってドアをノックすると、
「どうぞ、入ってください。」
元気そうなヘルバティアの声がする。
部屋に入ると、3姉妹が起きてベットに腰掛けて談笑してる最中だった。
「あら、ニシキさん。」
ヘルバティアが笑顔を見せる。
「皆さん、大丈夫ですか。」
俺が聞いてみると、
「明日の朝にはここを出れる。家に引き上げていいそうだ。もっと早く帰してくれてもいいと思うのだがな。」
ミヤンが元気そうな声でそう答えた。
「そうですか、それは何よりです。明日の朝ということは、朝食後ですか。」
「ええ、そうです。朝食はここでとった後、体調のチェックをして引き上げることになります。」
とミアン。
「そうですか、わかりました。」
俺はそう言って、明日の朝は、ここへ出迎えようと考える。
「もういいですか、これから、体調のチェックをしますので。」
俺の背後から、看護師のような女性がやってきて、俺に声をかける。
「わかりました。では失礼します。」
俺はそう言って、この場から引き上げた。
(まあ、3姉妹の体調にも問題はなさそうね。)
療養所からの帰り道、メムが安堵の様子で俺に念話術。
(そうですね、昼食を買って一度下宿先に戻りますか。久しぶりにまったりとした休日にしたいですね。)
(そうね、何か落ち着かなかったし。じゃあ、夕食は外食で。)
(そうですね、そうしましょう。)
そうして、まったりとこの後を過ごして、翌朝になる。