122弾 ちょっと小芝居してみよう
2日前、下宿先の自部屋で、
「ここまでしたからには、ちゃんと説明してくれるのでしょうね。」
メムが俺に早く説明しろばかりに、机に座り込む。
「もちろんです。お待たせしました。では。」
「じゃあ、ダンが雑貨屋で買ったものについて説明してちょうだい。」
そう言って机に置いた袋の中身をクンクンと嗅ぎ、俺の顔を見る。
「それは、香玉というヤツです。前世なら匂い袋みたいなものです。」
「結構いい香りがするわね。」
「ええ、メム様の能力を全力発揮してもらおうと思いまして。」
俺がそう言うと、
「へえ、ずいぶん私を高く買ってくれるじゃない。で、私はどうするの?。」
「遊撃役です。」
「はい?、はい?。」
メムが体全体にクエスチョンマークを浮かび出しそうな勢いで俺に確認する。
「今回は、俺と別行動です。3姉妹についてもらいます。」
「え、じゃあダンが単騎で、あいつと渡り合おうとするつもり。ダメよ、危険よ。それなら、この囮調査は無しにしましょう。」
メムが全力で俺に反対する。
「うーん、困りましたね。じゃあ、俺の考えを説明しますよ。まず、俺が単騎でイハートヨと会うのは、相手の警戒心を緩めるためです。手土産にあの3枚の絵を示して、この前の勧誘に応じる形をとります。そうすることで、向こうは、自分らの計画が漏れているとは思わないでしょう。それに、絵の強奪なりのリスクを負わないで済む、ということで、俺にいろいろ話してくれるかも知れません。おまけに、俺がこの絵をダシに、3姉妹を呼べると進言することで、その通りにことが進めばもっと信用してくれるかもしれません。しかし、信用するといっても、他の場所に俺を連れて行くかもしれません。そういう時に、ある意味自在に動けるのは、メム様しかいないのです。そして、メム様の嗅覚に全てがかかっているのです。だから香玉を数個用意したのです。ドラキャや絵に匂いをつけて、行き先をメム様に判別してもらうのと、手違いなどで3姉妹が不明になった時の用心としてです。」
「……そういうことなら、でも3姉妹の匂いは十分判別可能よ。香玉はいらないわ。私も女神としての力が全くなくなったわけじゃない、つもりよ。」
意外とメムが弱気なとこを見せてるな。まあ、単騎で行動させるからな。
「それに、さっき警備隊総隊長宛の手紙で、俺が調査した結果について書いておきましたので、そちらからも援護はあるでしょう。それに手紙には、組合本部長にもその旨伝えてくれとは書いていますので。」
「……それは手回しがいいわね。でも、あの組合本部長よ。マイナスの戦力にならないかしら。」
「正直どう動くは、組合本部長に関して言えば、ギャンブルです………。ジョーカーのカードです。」
「はあ?、それはいいの?。」
「それでも打てる手は打ちましたので。」
まあ、それでもダメなら、研究中の新型の魔弾を投入するつもりだが。
「ふぅ、わかったわよ。あなたの囮調査に乗ってみようじゃない。」
メムがようやく乗り気になった。
「でも、この囮調査、今から始めるわけではないでしょ。」
「もちろん。明日、俺は、組合本部へ行ってイハートヨに会えるかどうか確認してきます。会う理由は、勧誘について回答するため、とします。」
その後は、3姉妹にもこの話をして、俺が裏切り者の役を演じることと、3姉妹にメムをつけることを了解してもらい、3枚の絵を預かる。
俺は前々日のことを思い出し、まあ流れ的には俺の想定の範囲内だろうと考える。まずは、この小屋の構造を調べてみる。
小屋の中をあちこち歩き回ると、ある場所だけ足音の響きが違うようだ。床にかがみ込み、その音の違うところを拳でコツコツと叩いて確認する。
なるほど、小屋の中央のここに隠し扉か。小屋はまあまあの広さで前世でいうところの15畳ほどの広さだが、寝床だけの殺風景なもの。隠し扉は簡易に作られた何かの木でできてる。床に似せているが、その隠し扉の部分だけ作りが粗い。
じゃあ今度は、ちょっと小屋を外から見てみるか。
じっくり見てみると、まあ前世でいうところのログハウスに近いかなあと思える。これイハートヨが自分で組み立てたのかなあ。
そう思いながら、小屋のあちこちを眺めていると、ドラキャの音が近づく音がする。2台か。そう思いながら音のする先をみると、ドラキャがこの小屋に向かって来ていた。
(メムよ、聞こえるかしら。)
念話術。まさか。
(一緒なのか、彼女たちと。)
(ええ、ドラキャに隠れているわ。見つからないようにね。あと、彼女たちは刃物を突きつけられている状態よ。)
(メム様、そのまま潜んでいてください。あなたがこの状況で、最大の切り札ですから。)
(わかったわ。)
よく隙間があったな。車軸のところか、それとも、一体どこに潜んでいるのやら。
ドラキャが小屋の前にきて止まる。中からイハートヨと、橙色覆面の奴に、首に刃物を突きつけられたヘルバティアが降りてくる。
もう1台からは、赤色覆面の奴と、橙色覆面の奴に、同様に刃物を突きつけられたミアンとミヤンが降りてくる。
やはりイハートヨはこうしたか……。
「おい、お前、ニシキ、小屋に一緒に来い。あとの絵を出す。」
調子に乗っているな、俺に命令をして残り2枚の絵を出すつもりか。
「えっと、じゃあついていきます。」
そう返答して、イハートヨと一緒に小屋に入り、俺が見当をつけていた隠し扉へ。
「ついてこい。」
短くそう言って、俺を従わせて狭い階段を降りる。両肩がこすれそうだ。
小さな物置みたいなドアを開けて、絵を引き出す。1枚を俺の右手にもう1枚を左手に持たせて
俺の前を先に行き、出口へ向かう。
隠し扉を抜けると、2枚の絵をイハートヨに渡しながら見る。やはり絵には、旅客機と、とある特徴ある建物の絵が描かれていた。
と渡し終えた途端に、イハートヨが剣を抜き俺に突きを入れる。
「集中。」
そう呟き、あえて、隠し扉から狭い階段へ入る。
「ふん、そこに逃げ込むか。ご苦労だった。絵まで持ち込んでくれた上に、あの娘たちを呼び出す助けまでしてくれて、本当にありがとう。勧誘した甲斐があった。」
そう言いながら、隠し扉を閉めてロックをしたようであった。
「まあ、パーティメンバーになったのだ。後でお前が死ぬ前に愉しませてやる。少しそこで待っていろ。」
わぁお、悪役ムーブ半端ねえ。
イハートヨはどうやら絵を持って、小屋から外に出て行ったようだった。
「ウッディバリゲイド。」
そう大声で言う声が聞こえた。イハートヨが魔法を発動させたようだ。
さらに
「ウッディウイップバインド」
何かを縛ったな。
(ねえ、あいつイハートヨの奴、自分の周りを木の枝の束で囲ったわよ。まるで塀みたい。)
メムが念話術で伝えてくる。
さて、俺を閉じ込める手も予想されたので、安心して拳銃を抜き出す。
思いっきり接近して、銃口を扉に当てハンマーを起こし、引き金を引き
ドヂュ、ドシュ。
やっぱり脆いな。【火球】の魔弾2発で隠し扉は粉々になる。
小屋にも用心のためか、ロックされているため、
ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ。
【火球】の魔弾4発をぶっ放すと、小屋の扉も砕け散る。
さて、どうなっているのかな。おお、なるほど。10マータル、10メートル四方の木の枝が組み合わさった塀みたいなものができている。それを見ながら、研究した新型魔弾を装填する。
そこへメムが駆け寄って来た。