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120弾 こいつは怪しい事だろう?

 翌朝、さっさと朝食と身支度を済ませて、この下宿先からもダッシュで離れて、組合本部へ向かう。


(何か逃げ出してきたみたいね。)


(あんな教育受けてたまりますか。下手にあの家にいると、変装術の教育で、またえらい目に遭いそうなので退散します。)


(えー。面白いのに。)


 念話術の会話も無視して、組合本部に歩みを進めるが、道を曲がると、重鎧を着た筋骨隆々な男の後ろ姿が。見たことのある男のようだが、


(あれ、イハートヨじゃないの。でも隣の男は……。)


 メムが気づいて俺に知らせてくれる。


(新たにパーティメンバーの勧誘、と言う感じじゃなさそうですが。)


 深刻そうな顔を互いに合わせて、俺たちに気づかないまま歩んでいく。


(メム様、こっそり彼らの後をつけてください。俺は一旦メム様から離れます。あとはメム様の演技力に期待します。)


(ふっ、女神をなめんじゃないわよ。まかせなさい。)


 そしてメムは、うまく距離をとりながら彼らの尾行を始める。それを見ながら俺はメムと大きく距離をとりつつ、店の看板や街の掲示板を眺めるふりをしながら、メムとイハートヨさんを尾行する。彼らは街の外れに向かって行く。しかしメムも尾行上手いな。屋根に乗ったりしながら、尾行を続けるが、彼らは路地裏から路地裏の雑木林に向かうためか、左に曲がり俺の視界から消える。程なくメムも俺の視界から消える。俺は、彼らの曲がった曲がり角を直進して、その先の交差点に向かう。この街の土地勘もついてきたからなあ。その交差点を左に曲がると、小さな雑木林が見えてくる。


(まずいわ、気づかれたみたいね。おっと。近くの雑木林よ。)


 メムの念話術が。


(グランドキャットのふりでごまかしましょう。もうすぐ俺も来ますので。)


 そう伝えて、俺は小走りになる。目指す雑木林に入ると、いいタイミングで、イハートヨさんと謎の男とメムと鉢合わせする格好になる。


「おお、メム。ここにいたのかあ。」


 俺はそう言ってメムに近づく。


「おや、ニシキ殿。こんなところで奇遇ですな。」


 とイハートヨさん。


「おお、イハートヨ殿、メムがお邪魔しましたかな、ご迷惑をおかけしました。」


「いえいえ、やっぱりニシキ殿の益獣でしたか。見たことがあるな、と。」


「申し訳ありません、急に食い物の気配につられたようで、ダッと飛び出して行ったもので。ちょっと食い意地がはって意地汚いところがありましてねえ。みっともないところをお見せしました。」


「いや、そんな、迷惑はかかっていなかったですから。こら、ちゃんと飼主についておくのだぞ。」


 ややおどけた感じで、イハートヨさんがメムにいって聞かせる。


「いや、どうもこれで失礼します。」


 俺はそう言って、メムと共にその場を立ち去る。その間、謎の男は目を見開いて俺を見続けていた。


(ねえ、意地汚いってどう言うことよ。)


(メム様、こっちの演技も評価してください。アドリブですから。で、どうでしたか。)


 通りに戻り組合本部へ急ぎ足に歩きながら、念話術で話を聞く。


(ダン、ちょっと落ち着いたら話しましょう。)


(分かりました。尾行の気配はないですよね。)


(今は感じないわ。)


 どうやら何か重要なことを聞き出したようだ。

 組合本部に着くと、書庫の閲覧許可をとり、早速書庫へ。朝一番の書庫は誰もいない。用心のため、書庫で資料を読む感じにしながらメムの報告を聞く。


「ふぅ、じゃあ隣に来てもらえれば、小声でお願いします。」


「じゃあ、警戒はするけど。でもここのところ、ダンに言われて、尾行者チェックしているけど、尾行も、他の人がいる感じもないわ。」


「用心はしておきましょう。それだけの話なのでしょう。メム様。」


「ええ。じゃあ、早速。イハートヨね、また絵と、あの3姉妹も狙うようね。」


「メム様、それは。」


「あの謎男との会話だったけど、途中で雑木林に入って行ったから、そこで立ち止まって話するかと思ったの。私の予想通りね。うまく茂みに隠れて話を聞いたのだから、途中からよ。でも、『まだ絵は手に入らないのか。』『いや、2日続けて失敗したので、警備隊があの周辺結構厳しく見回っている。』と会話してたの。」


「なるほど、警備隊もこれ以上事件が起きると住民から問題視されるだろうからな。」


「ええ、そうしてあのイハートヨが『あいつらの娘も手にれたいものだ。』『結構ご執心ですな、母娘に。』『ああ、俺はパーティ組んでた時からアネミクに焦がれていたからな。その娘だ、それらを手に入れて愉しみたい。』って会話してた後、声を潜めたの。」


「潜めた会話も聞こうとして、気づかれたと言うことですね。」


「ちょっと不用心だったかしら。でもグランドキャットの感じで、鳴き声で威嚇しながら後退りして、ちょっと構えてみたの。そうすると、『旦那、ただのグランドキャットですぜ。』『いや、首輪がついてる。益獣として飼ってるヤツがいるな。』と話していたの。そこへダンがちょうどいいタイミングで来たのよ。」


「さすが女神様、見事です。」


 そう言って俺は最敬礼する意味で起立し、気を付けをして、頭を深々と下げる。


「いや、ちょっと、やめましょう。人が来て目撃したらどうするのよ。で、これで黒幕はわかったからとっ捕まえてやれば、」


 メムが少し狼狽(うろた)えながらも、そう俺に勧めるが、


「無理ですよ。ただ、今は一度下宿先に戻りましょう。」


 取り急ぎ、メムの今の話をしっかりメモしてから書庫を出ていき、下宿先へ急ぐ。



 大急ぎで下宿先に戻り、尾行のないことを確認して、玄関の扉を開けて、奥の厨房に声をかけてから、自部屋に戻る。すると、すぐにドアをノックして、


「ミアンです、ニシキさん。何かありましたか。」


「申し訳ないです。後で話します。ちょっと調べることが。」


 俺がそう答えると、


「分かりました。変装術の教育は後日にしましょうか。」


「もちろんです。後日にしてください。」


「えー、それは……、なんでもないです。ダン。」


 俺がメムを睨みつけると、変装術の教育の延期に不満をあげることをメムはやめる。


「分かりました。落ち着いたら厨房の方に一声お願いします。」


 そう言ってミアンは下がっていった。



「ねえ、なぜ、イハートヨを捕らえられないのよ。」


「証拠がないし、メム様の証言だけじゃ、無理があります。いきなり地球という異世界の女神と言われても誰も信じてくれませんよ。」


「むー、そう言われればそうだけど。」


「あの3姉妹に、メム様が地球の女神だと納得させるのも、なかなかに手間だったでしょう。思い出してください。おまけに、俺たちが異世界人であることを公表するのは危険だとも。」


 俺もメムもそう言い合って、お互いにため息をつく。

 やはり、囮調査なのだろうが、罠をどうするか。うーん。まず、3姉妹に話をするか。



 茶店を臨時休業にしてもらって、3姉妹と話をすることになる。


「えっと、変装術の教育は延期だとは聞いたのですが……。まさか、やっぱりやる気になって。」


 とヘルバティア。


「いえいえいえ、全く別の話をしなければならないのですが、よろしいのでしょうか。」


 俺は、半ば慌て気味に変装術の教育を否定しながら、話を進める。


「前に話をしましたが、この前の侵入、襲撃の事で、解決のために助力すると言いましたが、どう助力するかは話していませんでした。」


「じゃあ、何か目処がついたのか。」


 ミヤンが身を乗り出しそうな勢いで、俺に尋ねる。


「まあ、ミヤンさん、まず、俺たちの調べたことについて話をします。」


「「「お願いします。」」」


 3姉妹が声を揃えて一礼した。


「まず、この前の侵入、襲撃の黒幕は、イハートヨ・ダノーツです。」


「え、じゃあ、あの七つシエテ・エステレイア、父と母がメンバーだったあのパーティのリーダーが。」


 ミアンがショックを抑えながら呟く。


「ええ、実は4人で再活動をしていまして、俺も臨時メンバーに、依頼として受けて参加したことがありました。」


「再活動しようとしているとは聞いていたけど、再活動をはじめたのか。」


 ミヤンが左拳を握り締め、顔を上に向けながら淡々と言う。


「今日の朝、偶然にも見かけて、見慣れぬ者と肩を並べて歩いていたところを見かけたので、メムが尾行して潜り込み、彼らの会話を聞き取りました。その会話で、残りの3枚の絵とあなたたちを狙うような話をその見慣れぬ男としていました。」


 メムが大きくうなずき、


「ダンの言う通りよ。ただ、私の気配に気づかれてしまって、最後までは聞けなかった。」


 と3姉妹に言う。

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