118弾 これから教育受けてみよう
翌日、俺たちは朝食をとり、身支度を済ませて、組合本部へ向かう。いつものように掲示板をチェックして依頼を探す。
(このようなことをするのは、ずいぶん久しぶりのような気がするわね。もしかして、変装術を教わることに何か不安があって逃げたのね。)
メムが念話術で言ってくるのを無視して、商業ギルド系の依頼を見つける。これとこれを一緒にやれば、ルート的にも一気に終わらせられるか。そう思いながら、受付へ行き依頼受理の手続きを済ます。急ぎの配送達なので、さっさと荷物を配送達をして依頼完了手続きの書類をもらい、受付に戻り手続きをして依頼完了して代金を受け取る。
(ずいぶんさっさとやったわね。もうすぐ昼食だけど、いいの。)
(まあ、商業ランクも気にしておかないと。上げれるうちに少しでも上げておきたいですし。)
そうメムと念話術でやり取りをして、組合本部の食堂で昼食にする。
昼食後は、セイクさんに相談することがあって、相談に乗ってもらう。
(昨日は不在だったけど、何を相談するの?。行方不明の調査の件かしら。)
(いいえ、華燭の典の時のマナーとかを相談します。)
(ああっ、そうね、聞いておかなきゃね。)
いや、メムには何か着せるべきなのか、そう心の中でツッコミを入れつつ、
「相談事項は何でしょうか?。」
「あのー、実は、華燭の典に招かれそうですので、何をしたらいいか、とか、何を着ればいいかとかを知りたくて、話を伺いたく。」
「あらー、いいことですね。正祭典礼服を着ればいいかと思います。まあ、売っているのを買うことになるでしょう。あとは、華燭の典ということでしたら、何かしら役をすると思いますので、その役用の上衣を用意することになります。」
「はあ、えっと、せいさいてんれいふく、を着るのですね。その上に、やくようのじょうい、を着るということですね。」
「大丈夫ですか、頭から煙が出てるような状態に見受けられますが。」
確かにこの世界トゥーアールの風習について知るのは、初めてなこともあるからなあ。
「すみません、このグランドキャットには。」
「ええ、益獣用の正祭典礼服がありますので、それを着ればいいのですが、その大きさだと合うものがあればいいのですが。」
えっ、そうなの。聞いておいてよかった……。
「そういう正祭典礼服についてなら、あなたと契約しているマーハ商店に聞いてみてはいかがでしょう。正祭典礼服について私より詳しいでしょうから。」
「なるほど、よくわかりました。あともう一つ質問というか相談なんですけど、パーティの組み方にルールはあるのでしょうか。」
「そうですね、パーティを組むことになれば、前に臨時メンバーの依頼実施の際に聞いたかもしれませんが、パーティ名を登録する必要があります。あとは組める人数が最大9人までとなります。」
「最大9名ですか。このグランドキャットは数に入るのですか。」
俺は隣で狸寝入りをしているメムを指差して聞いてみる。
「数には入りませんが、人によっては数に入れる人もいます。糧食の補給とかの問題があるからです。」
「補給の問題というのは、一体。」
「依頼の内容によっては、糧食の補給を受けることができる依頼があります。ただし、それに益獣が入らないことがほとんどです。パーティメンバーの数で用意するのですが、益獣の分は主人自身で用意しなければならないのです。益獣の数を入れるとパーティとして管理しやすいでしょうが、不用意に多く補給を受けて、過剰補給となることもありますので。」
うーん、なかなかシビアだ。まあでもある意味当然か。
「過剰補給を受けると何か犯罪に問われるとか?。」
恐る恐る聞いてみる。
「いえ、依頼完了までに言って、受けた補給を返却してくれれば問題にはなりませんが、そのままにしておくと、後で返却か金額を支払うかになります。長期にわたり返却請求や支払い請求を無視した場合、しょっ引かれます。」
あー、前世の日本で、駐車違反とかの軽微な違反を無視し続けた結果みたいになるのか。あれもほっておくと警察が家にやってきたりするのだったっけ。
「勧誘とかにルールはあるのでしょうか。」
「うーん、しつこい勧誘とか強引な勧誘はもちろんダメです。そういう勧誘をされた場合は、こちらに一報してください。パーティのリーダーに組合本部から警告が行きます。それでも勧誘が止まらない場合は、そのパーティに対する依頼を全て停止します。そのパーティは一切の依頼を行うことができなくなります。」
ふーん、しっかりしているなあ。でも。
「依頼を停止しても、まだ勧誘を続けた場合のパーティは。」
「ほとんどないですが、強制解散になります。大連合機関を通じてその旨も他国に伝えられます。」
なるほどなるほど。大連合機関というのはそういう役をするのか。
「ただ、ニシキ様の場合、まだランクはミドルランカー。パーティを組む前にランクを上げ実力をつけることをお勧めします。」
「いやー、よくわかりました。相談に乗っていただき、ありがとうございました。」
(なるほどね、確かに聞いておいてよかったわね、ダン。)
(メム様のですか。益獣用の正祭典礼服を探すのか……。うーん。)
(そうと決まればマーハ商店にレッツゴーよ。)
(いや、まず調べるべきことを調べましょう。)
ということで、組合本部の許可をとって書庫に入る。その後、街の中央図書館にも行って資料を漁り読む。
(これで華燭の典は大丈夫、かしら?。)
(うーん、マナーの話は頭に入りにくいなあ。)
こういう慶事のマナーはなかなか難しいな。ましてや異世界でマナーを学ぶとは……。
マナーを学ぶことは、半ば諦めて下宿先へと帰ることにする。夕食前か、自部屋に一度戻ってから夕食に行くか。そう思いながら、奥に向けて、
「ただいま戻りました。」
そう言って自部屋に戻ろうとすると、変装したミアン=イワンがやってきて、
「師匠から手紙が来ました。私たちの変装術向上のためにも、どんな形でもニシキさんに教え込めということです。」
あ、え、もう連絡したのか。もう少しタメてくれても、とは思うが、
「わかりました。よろしくお願いします。」
俺は、半ば諦めの境地で頭を下げる。
「では、夕食はご一緒に、入浴後に変装術の話をしましょうか。」
「はい、わかりました。」
「何よ、ダン。私にバフロッグ退治の時に歌わされて以来の困惑顔ね。あー面白そう。」
元女神とは思えないくらい悪魔的なコメントだなあ……。
夕食と入浴を済ませて、リビングダイニングに皆が勢揃いする。
「では、変装術について、教育を開始します。」
ヘルバティアが緊張した面持ちでそう宣言する。
そんなに肩に力が入っているとなあ、ああ、カチカチになってるよ……。
「あのー、そんなに緊張されると、教育を受けるこちらとしても受けづらいので……。」
「だ、だいじょびよ。き、きちゃんと教育をしゅるから。」
あーあ、緊張でしゃべりがカミカミになっている。絵面的にはなんか可愛い。
そこへメムがヘルバティアの隣に来て、
「こんなのはどこぞの食い物とかと思っときゃいいのよ。緊張しないようにって言ってるアイツも、意外とビビっているから。」
おい、ヘルバティアを落ち着かせるためだとしても、なんて言い方しやがる。
「メム様、ひどいです。」
俺がそう言うと、
「いいじゃないの、ダン。あなたも、この3姉妹のために犠牲になる覚悟はしているのでしょ。」
「なんかそのセリフは、この場面で言うものではないと思いますが。メム様。」
「そう言いながら、何されるかわからないからブルってるのでしょ。」
「随分な言い方しますね、………ダメだ、何も言い返せねえ。」
「ふふん、どうよ。」
そのやりとりを目の当たりにした双子妹が、揃ってクスリと笑う。それを見てかどうかは分からないが、ヘルバティアも少し落ち着いたようだ。