117弾 師匠の話を伝言しよう
博打の結果は……、
「もう終わりですね。あきらめましょう。3回勝負の約束ですよ。」
俺はイカサマを使って、あっさり勝った。
1回目ではディマック師匠に勝たれたが、師匠が調子に乗って掛け金を上げたところで、
「集中」
と呟き、『タイムマネジメント』の能力で、高速で大きく賽を振り、転がった瞬間に賽を手で同じ数字6の目にする。
俺の動きが速くなったことは相手もわかったのようなのだが、俺の動きが、相手は目視で確認できないようで、
「いやー、おかしい。何かトリックがある。というか、この賽にあたいが勝つように仕込んでいたのに………。」
おいー、イカサマしてるのを言っちゃてるよー。
「へえ、……そうですか。そんな仕込みを………。」
「……あ、いや、………どうだろう、この勝負なかったことに、しない?。」
小首を傾げてあざとく言ってくるが、うーん、何か違うような。
「別にいいですよ。もう付き合い切れませんので、帰ります。」
そう言って今度こそ、この小屋を離れたのだった。
(じゃあ、帰ったら3姉妹にこの話をしましょうね。ダン。)
(ふぅ、しかし厄介な問題だなあ。)
ディマック師匠から脱出するように、いや逃げ出すように離れ、街をウインドウショッピングして、組合本部の食堂で夕食を済ませて、重くなった足を下宿先に向ける。
うーん、どう話ししよう。まあ正直に話してみるか。
そう思いながら下宿先に。
「ただいま戻りました。」
そう奥に告げて、自部屋に戻ると、すぐにノックの音が。
いつも通りメムと入浴するので、ヘルバティアとミアンがやって来ていた。
ここで一度話をするか。そう思って、
「ああ、えっと、今日ディマック師匠に会ったのですが………。」
と話を切り出す。
「え、師匠に会われたのですか。どうしてまた?。」
ミアンがそう言って、びっくりした表情で俺の顔をまじまじと見つめる。ヘルバティアもメムをさわさわしながら同様に俺の顔を見つめる。
「いや、後で、入浴後に話をしてもいいでしょうか。」
「わかりました。師匠のことだから、何か考えがあるのでしょう。」
ヘルバティアが何か考える様な表情を変えながら、了解の意思を示す。
俺は、さっさと灌水浴室へ向かい手早くシャワーを浴び、体を洗い終え、自部屋に戻る。
それから間も無くドアがノックされ、ドアを開けるとミアンが、
「師匠との話について、と言うことでしたのでどうぞ来てください。入浴も早めに終わらせましたので。」
と言って俺をリビングダイニングへ連れて行く。
「ふぅ、風呂上がりに何の話ですか、ニシキさん。師匠に会ったと言うことですが。」
とミヤン。
「メムちゃんから入浴中に聞いたのだけど、私たちがニシキさんに変装術を教える、と言うことらしいけど。」
とヘルバティア。というか、メムがもう話をしてしまったのだった。
少し気勢を削がれた感じになりながら、
「ええ、メムが喋ったのですね。ええ、ディマック師匠から、変装術をあなた方3人から教わるように言われました。後ほど、皆さんに師匠からそれを伝えるそうです。」
「わかりました。では早速。」
とミヤン。
「師匠から私たちへの連絡を待ってからね、ミヤン。」
とミアンが妹をたしなめる。
「私としては、ミヤンに賛成だけど、まあ、ミアンの言う通り、師匠の連絡を待ちますか。」
メムをなでなでしながらヘルバティアが言う。
「では、俺たちはこれで失礼します。おやすみなさい。」
俺はそう言って、メムと一緒に自部屋に戻った。
「何、鮮やかな撤退ぶりね。引き際は大事よね。」
部屋に戻って開口一番、メムが俺に嫌味っぽく言ってくる。
「勘弁してください。メム様。結構、精神的にきつかったのですから。今日は特にあの師匠のせいで。」
「まあ、でも組合本部長ってことを私たちが気づいていることは、多分知らないままなのよね。」
「それで、少し精神的には優位に立ったつもりでしたが、斜め上のことを言って来たので。」
俺はそう言って大きくため息をつく。
「斜め上、と言うことは、あの師匠に対して、何か予想というか考えていたのね。」
俺は、首を縦に振り、
「本当は、あの師匠に弟子入りも考えていたのですが………、それを読んでああ言って来たのか、それとも変装を見抜かれた腹いせか……。」
「……わかるわ、直感的にだけど、あの師匠腹黒いところがある気がするの。それに、ダンをからかって楽しんでる気もするわ。」
いや、あなたも結構、俺をからかっているじゃないか、とツッコミを入れそうになる。
「で、教わるのでしょ。楽しみねー。」
メムが目をキラキラさせて俺に顔を近づける。
「まあ、教えてもらうしかないので……。ところで、今日偶然とはいえ、あのパーティに会いましたが、ロビーで話している時、メム様はイハートヨさんの顔を凝視してましたのは何か。」
「……うーん、あの会話の時にそっぽを向いていたように見えたのだけど、なぜなのかなあ、と思ってね。」
メムが表情を瞬時に切り替えて、シュッとした表情になる。そして話を続ける。
「普通に考えれば、ダン、あなたがパーティ名の由来を質問した時に、イハートヨ、あのリーダーがあれだけ会話に関わらないのも不思議なのよね。ああ言うのは、リーダーが率先して回答してもいいのじゃない。」
「……確かに、不自然なほど会話に関わりませんでしたね、あの会話の時は。」
俺もあの時の会話のシーンを思い出しながら、メムに同意する。
「それに、パーティへの勧誘をするのも強引じゃなかったかしら。」
「うーん、俺とイハートヨさんとの会話、言われてみれば、勧誘の話しかしていない気もします。それに、………あのパーティ、最初のメンバーはご両親とイハートヨさんが中心だった、と言っていたことが引っ掛かってます。」
「引っ掛かっているって、もしかして……。」
「ええ、三角関係でもつれなかったのかなあ、と。」
それを聞いたメムが吹き出す。
「ぷっ、クスクスクス。…いや、いや、ごめんなさい。ダンの口から三角関係なんて言葉が出るなんてね、ちょっと意外すぎてね。」
「それはひどいでしょう、俺も真面目に考えてですね。」
「いやあ、三角関係の可能性は私もありうると思うわ。でも、でも、その割には、ね。」
何かひどいことを言われている気がするが……。
「その割に、何ですか。メム様。」
「……ねえ、あの3姉妹と結婚するとしたら、誰を選ぶの?。」
は、はああああ。何言い出すの、この元女神猫。俺の戸惑いに関係なくメムが続ける。
「最年長のヘルバティア、双子妹のミアンに、ミヤン。ヘルバティアは合法ロリ系と言ったところかしら。双子妹はグラマラス、色気でいえば姉よりかなりあるけど、どれがいいの。」
「………いったい何を言い出すのですか……。」
ものすごく困ってしまうのだが………。
「もしくは3人まとめて、いやーこのハーレム野郎。………ってそんな固まらないでよ。軽いジョークよ。」
本当に大丈夫なのか、この元女神猫。
「本当にいったいどうしたのですか………、考えすぎて頭がおかしくなった、とか。」
「ちょっと、そんなに引かないで。………もう、まあいいわよ。私、おかしくはなっていないわよ。……ちょっと妄想しただけよ。ダンがもしこの異世界で結婚したらってね。だから、ドン引きしないで。」
「あの、メム様、元の世界に戻るのですよね。戻りたいのですよね。俺が結婚したら、結婚相手は残して戻るのですか。それとも一緒に連れて行けるのですか。おまけに俺の中身は50歳、歳の差もあるでしょう。ロリコン野郎とは言われたくないですし。」
「まあまあ、そうストイックに考えないで。軽いジョーク、軽いジョークよ。」
「それに、俺には結婚しても、ね。」
「ねえ、それって。」
「メム様も見られたのでしょ。俺があの神の世界に来た時に。俺の情報は。」
「……ものすごく前世の記憶に縛られているようね。あれはあなたの責任じゃない、けど。」
「それ以上は、もう言わないで下さい!。」
俺も口調がキツくなっている。
「俺の話はさておき、イハートヨさんのことに話を戻しましょう。囮調査の対象をイハートヨさんにするかどうか、と言うことを話しましょう。」
そう言うと俺も妙に落ち着いてきた。
「そうね、私も要らぬことを言い過ぎたわ。でも、イハートヨの怪しい理由をはっきりさせた方がいいのじゃなくて。」
「そうですね、侵入してみますか、意趣返しとして。」
「じゃあ、やっぱり、変装の術を教えてもらいましょう。そうでしょ、ダン。」
メムがニヤリと悪魔のように微笑んだのだった。
「しかし、夜も遅くなりましたね。もう寝ましょうか。おやすみなさい。メム様。」
「ずいぶん強引な撤退ね……。おやすみー。」
俺たちは就寝した。