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116弾 この占い師変だろう

 昼食を終え、下宿先に戻るために市場を後にするとすぐにしゃがれた声がかかる。


「そこの、黒のグランドキャットを連れた若い冒険者よ。」


 声の主を探すと、路地裏の出入り口に立っている占い師っぽい格好をした老婆が。


「そう、お主じゃ。グランドキャットを連れた、若い冒険者、お主だ。……おい、無視するな。そのままどこかに行こうとするな。ノーリアクションで去ろうとするな。」


 そう言って俺たちが去ろうとするのを駆け寄ってきて俺の手をつかむ。


「ここで、俺がキャーって悲鳴をあげたら、面白いかなと思いまして。」


 俺は、そう言いながら戦闘体制をとろうとするが、


(これ、あの変装術の師匠よ。組合本部長よ。)


 とメムが念話術で知らせてくれるので、一旦戦闘体制をとき、掴まれた手をほどく。


「普通、この私に何か、とか、どうかしましたかと言うべきなのじゃが。まあいい、お主には何かただならぬ運気がある。ぜひ占わさせてくれ。」


 と言ってきて、俺はちょっとイラッとしたので、


「じゃあタダで。金取るならここで暴れてやる。」


 あえて師匠のディマックと知っているが、無茶苦茶にやってみよう。


「ぐ、リアクションがおかしいのじゃが、まあいい、タダで占ってやる。」


「え、この場合、ぜひ占わせてくださいと言って土下座をするのじゃ。」


「むう、困ったやつじゃ。やはりリアクションがおかしい。」


「土下座がイヤならスイーツおごって。」


「もういい、こっちについて来い。」


 困った占い師は俺の手を取って路地の奥へと。


「え、襲うのですか。俺の貞操の危機か。」


「ふん、襲うなら10歳から12歳くらいの可愛い少年がいい。あれをふふふ、と何を言わせるか。ちゃんと口説いて合意の上で。」


 やっぱりこの師匠のディマックはやばい癖があるのか……。というかこれが組合本部長、っていろんな意味で大丈夫なのだろうか。


「あなた、ただの変態ですね。」


(ほんと、危ない人ね。)


 メムが念話術で俺の意見に同意してくる。


「うほん、いやいや。私は占いに生きる一介の老婆。さあ占ってしんぜよう。」


 そう言って平屋建ての小屋に案内される。

 小屋の中は、まあ居住できるようにできていて、土間にある机の上に大きな一辺10サンチマータルの正立方体のサイコロがある。


「ディマック・パッドアイ師匠ですね。変装術の。」


 俺がそう言うと、


「あたいの変装を見抜くとは、やはりいい能力を持っているな。なぜ分かった。前に会った時に言われた香水の匂いの問題はクリアしたハスだったのだが。」


 声は前会った時の声になっている。


「まあ、癖があるので。癖を見抜けば、わかる場合もありますので。」


 あんな変な癖を口に出せば分かってしまう。


「ふむ、癖か。どんな癖だと言うのだ。」


「老婆に変装しているのに、あんな力で手を掴めば。まず老婆じゃないと思われます。」


 変な癖が出ていますとは言いづらいので、ある程度のハッタリをまたかます。


「そうか、なるほどな。で、話は変わるが、助力のほうはどうなんだ。」


「はい?、助力って何ですか。」


「そんなとぼけなくてもいい。師匠として弟子の苦境はなんとかしたいからな。」


「まだ調べを始めたところですかね。まず考えられるのは、ご両親と一緒のパーティだった元パーティメンバー、ただ証拠がない。疑いでしかないです。」


 この異世界トゥーアールには、ハイテクな防犯カメラとか科学的捜査なんてものは無さそうだし。証拠集めにも苦労するだろう。

 あのご両親が、行方不明になった日の前後の行動は掴みきれないだろうし、2年前のことを調べても記憶の風化で、もう思い出せないこともあるだろうし。

 そう思いながら、調査方法を考えてみる。


「ニシキ君の考えていることを一つ当ててみようか。」


 ディマック師匠がそう言い出す。


「あのパーティメンバー4人に直接話を聞いてみるか、カマをかけてみる。ただ、変装しないままでは難しい、どういう変装をするか、どうだい。」


 まあ大体当たっている。


「さすがです。恐れ入りました。」


 ここは素直に認めよう。


「も一つ、当ててみようか。囮になろうとしているだろう、君自身が。」


「よくわかりますね。」


 ここも素直に認めよう。


「まあ、方法としてはそれがベストかもな。彼女らに累が及ばないようにしようとしているな。」


 ここまで言われると、俺は首を縦に振ってうなずくしかない。


「そこでだ、彼女らの師匠として可愛い弟子をなんとかしたい、という思いはある。」


「はい、よくわかります。」


 師弟愛はあるのだなと思いながら肯定する。


「師匠として弟子を育てるのも務めだ。そこで。」


 師匠は言葉を一旦切って、次のように言ってくる。


「ニシキ君、彼女たちから変装術を学びたまえ。……そんな顔をするとはな。あごが落ちてるぞ。そんな口を開けて、くくくく。」


「え、えっとあなたが俺に教えるのではなく、俺を弟子に取るとかでもなく、ですか。」


 メムの表情を見ると、ものすごく楽しそうな顔をしている。


(あらー、いいんじゃない。ダンがそんな顔するなんて。)


 念話術でわざわざ言いやがって、後で覚えてろよ、この元女神猫。


「さっき弟子の育成について話したな。これは育成の一環だよ。自分が理解していないと、人に教えることができない。自分が理解していないものを説明しても、相手には伝わらないからな。これが私の持論だ。だから彼女らが理解した上で教えられるかどうかを見ておきたい。それで協力してくれるか。どうだ、悪い話じゃないと思うが。」


 まあ、そこまで言われると、筋はものすごく通っている。確かに正論だ。


「わかりました。ではあなたに協力いたします。」


「うん、ニシキ君は話がはやい、いいことだ。まあ、教えてもらう際にむつみあっても構わんぞ。避妊具さえつけておけばな。」


そのいらぬ一言がいろいろ台無しにしてる気がしてならない。それになあ……。


「どうした、奇妙な顔をして、何か不満があるのか。」


「いえ、彼女たちには俺から話をしておくとして、どう切り出そうかと思っただけです。」


「心配するな、彼女たち、弟子にはあたいから話を通しておく。師匠命令だ。」


 ふうっ、まいったな。喰えない人だ。なるほど、この喰えなさが組合本部長となっている理由かも。でも組合本部長がここにいるとしたら、絶対誰かに仕事押し付けているな。


「後、これはあたいからの頼みだ。」


「何でしょうか。」


「彼女たちを救ってやってくれ。両親の行方不明で、その真実の追求に夢中になりすぎている。多分、黒幕を知れば殺しにかかるかも知れないし、ただですら今裏ギルドにまで手を広げて危なすぎる橋を渡っているようなものだ。なんて言うのか、闇に落ちてほしくないから、そうならないようにしてくれないか。無茶な頼みかも知れないが。頼む。」


「微力を尽くします。」


「ありがとう。」


 俺は早速席を立って、


「では、早速帰って………。」


「まあ、待て。これで終わりにするのも面白くない。」


 へ、この人何考えているのか。妙なことを言い出したディマック師匠に、俺は怪訝な表情をする。


「そんな疑い深い顔をしなくても、どうだ、ちょっと時間潰しにこの賽で、一つ賭け勝負でもしようじゃないか。占いで入って、そんなあっさり出てくると占ったのかと怪しむやつもいるからな。まあ、時間潰しと時間稼ぎを同時にやるものだ。」


 はああああああ。


「少しだけですよ。で何をやるのですか。」


 内心の呆れと怒りを噛み殺しながら、そう聞いてみる。チンチロリンか、丁半か。


「なーに、単純さ。この3個の賽を振ってゾロ目が出るまでの勝負だ。振る回数が少なくゾロ目を出したものの勝ち、ゾロ目までの振る回数が同じ場合は、ゾロ目の大きさによる。どうだ。」


 なんか怪しい博打だが、やるしかないか。

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