115弾 この偶然に乗っかろう?
翌朝、俺とメムで朝食をとり、組合本部へ向かう。
早速、セイクさんに相談に乗ってもらおうとするが、本日は休暇とのことだった。ただ、書類があるということで、追加の条件について書かれた書類を受けとると、
「誰か別の方に相談しますか。」
受付の者が俺にそう言ってくるので、
「うーん、では組合本部長に相談を。直轄依頼の件で。」
俺があえてそう言ってみると、
「わかりました、確認してみます。」
とその受付の者も言って奥の方に一旦下がる。
(まさか、いきなり組合本部長に会おうなんて、まさかもう切り札を切るつもりなの。)
念話術でメムも驚きのリアクションをしてくる。
(行けるか、それともダメかどっちかですから。)
その時、奥から受付の者が出てきて
「申し訳ございません。組合本部長は、今日明日と予定が立て込んでおりまして……。」
「そうですか、それは残念です。」
まあ、予想されたし、そんなに困ることではない。
受付を退き、書庫の閲覧許可をとり、書庫で、パーティ:七つ星 (シエテ・エステレイア)についての資料を確認する。
パーティで受けた依頼と完了させた依頼、パーティメンバーについて載っている。とはいえ、メンバーについては詳細が載っているわけでもなく、姓名だけであるが。
(やっぱり、7人のメンバーだったから七つ星といったのね。ダン。)
(まあ、彼女たちの家の資料や冒険日誌から調べたとおりですね。)
(でも、さすがハイランカーなのね。依頼完了実績をみてると感心するわ。)
(まあそれは、今回全部見ることはないでしょう。)
そんなやりとりをしてから書庫を出る。
書庫を出てから、下宿に戻るかどうしようか考えてながら、組合本部の掲示板へ向かう途中で
「おや、ニシキ殿。久しぶりです。」
とイハートヨさんに声をかけられる。
「ああ、……お久しぶりです。イハートヨ殿。臨時メンバーの時以来ですね。」
噂をすればなんとやら、というが、なんと見事な偶然。
「ニシキ殿は、依頼の掲示板を確認に来られたのですね。」
ニザールさんがイハートヨさんの後を追いつく形で、俺に声をかける。ニザールさんの後ろで、タータルさんとベランツさんが手を振ってくれる。
「まあ、依頼を受けているのですが、並行して他の依頼ができるかどうか、見に行こうとしていました。そちらこそ、再活動は順調ですか。」
「まあ、もう少し人数が欲しいとは思うが……まあ順調かな。もう魔法の誤爆はないからな。」
力強くイハートヨさんが答える。
「ねえ、ここで立ち話もなんだから、ロビーの空いた席で話しましょうよ。」
タータルさんがそう提案するので、みんながその提案に賛成してロビーの空き席に。
「ニシキ殿も順調そうだな。」
とイハートヨさん。
「ええ、おかげさまで冒険者ランクは4級に、商業ランクも3級にアップしまして。」
俺がそう答える。
「どうだ、俺たちのパーティのメンバーにならないか。」
いきなりイハートヨさんが俺を誘ってきた。他のメンバーは顔を見合わす。
「そんな、いきなりですね。まだミドルランカーですよ。それに、そうすると、パーティ名も変わるのじゃありませんか。」
「四つ星 (クアトロ・エステレイア)を五つ星 (シンコ・エステレイア)にするのは可能だ。そして、この俺のパーティでランクアップをすればいい。」
ずいぶん熱心、というかやや強引にもとれる誘いだが。
「はあ、誘ってくださるのはありがたいですが、急に言われても、さっさと加入できないですよ。いろいろ片付けたい依頼もありますし。」
「まあ、声をかけておくだけでも、ということです。」
とべランツさんが補足説明をしてくれる。
「我々もそんな強引に囲い込んだりはしないから。」
とニザールさん。
ニザールさんだったけ、あの臨時メンバーの依頼時、かつて七つ星 (シエテ・エステレイア)と言っていたのは、
「そういえば、かつて七つ星 (シエテ・エステレイア)と言っていたと話しした覚えがあるのですが、それは7人でパーティを組んでいたということですか。」
と、俺が尋ねると、少し空気がピリッとした。
「そうね、活動休止前は7人だったけど、休止中に2人は不明になったし、1人は転職したのよね、確か王都で商人になるということで。」
とタータルさんが答えてくれる。
「不明、というのは。」
「休止中に探索と鍛錬に行くと言って行方不明に。パーティメンバー同士で結婚して、子供が生まれて活動休止になったからね。再活動を見越して探索と鍛錬をしてたのでしょうけど……。」
とべランツさん。
「私たちも似たようなものですから。結婚相手がパーティメンバーじゃないだけで。」
とタータルさん。
「まあ、あの2人、チャティーア夫婦は幼なじみだったからね。それだけに行方不明なのはなあ………。」
とニザールさん。
俺たちの間をしばし沈黙が流れる。
「まあ、育児やなんやかんやで、活動休止になる話は俺も組合本部で聞いたことはありますし、転職した1人というのは、パーティでの活動が厳しくなって、ですか。」
俺が沈黙を破ろうと話を振ってみる。
「まあ、リュキードは、後方支援役だったけど、商売の素養があったからなあ。金銭の勘定や取得したアイテムや素材を高値でうまく売るのが上手だったからなあ。商業関係者から誘いもあったようだし。」
しみじみとニザールさんが答える。
「パーティ組んで冒険を続けるのも、ソロで活動するも、転職するのも、それぞれだからねえ。」
とニザールさん同様にしみじみとベランツさん。
「それぞれの生き方ですから。まあ元はリーダーと、結婚前のチャティーア夫婦のパーティに参加して7人になったから。そう振り返ると、メンバーがかなり変わって行った……。」
とタータルさん。
メムを見ると、なぜか、リーダーのイハートヨさんを凝視しており、その凝視されたイハートヨさんは、会話に加わらず、そっぽを向き妙に渋い顔をしている。
「おいおい、話が違う方向にいっていないか。このニシキ殿を誘う話だろう。」
リーダーがやや強引に話を変える。
「ああ、失礼しました。俺がパーティ名の由来を聞いたばっかりに。」
とりあえず俺はそう言って頭を下げる。続けて、
「お誘いはありがたいのですが、急に言われても、というところです。俺もソロ活動で冒険者稼業をやって実力をつけてランクを上げてから、それでも誘っていただけるのなら、というところです。」
そう言って断りを入れる。
「まあ、ニシキ殿ならすぐに実力もランクも上がりそうだ。」
ニザールさんがそう言って、俺の断りに同意する。
「まあ、一時保留みたいなものか。」
イハートヨさんが自分を納得させるように呟く。
「じゃあソロで頑張ってください。」
「機会があればお話ししましょう。」
とタータルさんとベランツさん。
「ではこれで失礼します。」
俺はそう言ってメムとともに席を立つ。
(メム様、尾行がないかマークしてくれませんか。しばらくの間。)
下宿先に向かいながら、念話術でメムに頼んでみる。
(いいわよ。じゃあ、少し早いけど昼飯にしない。)
(わかりました。)
組合本部の食堂ではなく、組合本部の近くにある市場内の屋台での食事にする。
(あっさりしてるわね、これ。まあでも控え気味にするわ。)
念話術でそう伝えて、7人分を平らげた。
これで控え気味か………。まあ、かつて20〜30人前平らげたことと比較したらまあそうなのだろうけど………。ダイエットする気になったのか、とかのツッコミは入れないでおこう。