114弾 調査の進め方考えよう
メムと俺が現状で推理できることについて話をしたところで、一休みを入れる。
メムが、
「そういえば、パーティ名が、七つ星 (シエテ・エステレイア)から四つ星 (クアトロ・エステレイア)になったのは、何か意味があるのかしら。」
と疑問を口にする。
「うーん、俺が思うに、……人数を意味しているのでは。四つ星 (クアトロ・エステレイア)といった時には、俺を除いて人数4人でしたから。」
「じゃあ、七つ星 (シエテ・エステレイア)の時は、7人のパーティメンバーだった?。」
「おそらくそうでしょう。」
俺がそう短く答えると、メムは首を傾げながら、
「うーんと、ダンが臨時メンバーでいた時の4人と、あの3姉妹のご両親2人、あと1人はどうなっているのかしら。」
「そこをこれから調べましょう。」
「まずは、借りた冒険日誌とかを読んでいくのね。」
部屋に積まれた資料の山をメムが見上げる。
「全部みっちりと読む必要はないでしょうけど。」
俺はそう言って、まずは読み流しにかかる。
メムも意外にも俺と一緒に読み流してくれた。
昼食も朝食と同様にパオニスをかじりながら、資料を読み流しつづける。
「何か、警察映画の刑事のようね。安楽椅子探偵のような。」
とメムが読み流しながら呟く。
「少し休憩しますか。昼食後もほぼ読み流しているだけですから。」
俺も気分転換することを考えて、そう提案する。
「そうね、まあ、読み流すのも意外と大変だったわね。」
「肝心のところを書いた物が無いわけですから。地球に転移した前後のところから探らなければならないですが、それが無いのはきついですね。」
自部屋にこもっているので、水差しの水をコップに入れ、メムには平皿に入れて水を飲む。
「ふぅ、つかぬことを聞くけど、ダンは酒は飲まないのかしら。」
「中身は50歳、外見は17歳。外見に引っ張られているのと、前世じゃお酒は20歳からでしたので、飲まないようにしていますし、財布に余裕がないものですから。それに、二日酔いはキツイですから。」
まあ死んだ時二日酔いだったし………。
「ところでメム様はどうなんですか。お酒は飲まないんですか。神の酒ってあるのですか。」
「……あれは、私飲めないし。」
じゃあ神の酒はあるのか……。
「飲めないっていうのは、弱いということですか。」
「ええ、神酒 (みわ)というのがあるけど、そんなに量があるわけじゃないし、どうも私酒弱いのよね。」
「じゃあこのトゥーアール世界のお酒も。」
「飲みたいとは思わないわ。酒より飯よ。美味なるものが必要なのよ。」
ああ、これ以上の話は、また食事2〜30人分を平らげることになりかねないから、話の方向を変えよう。
「囮調査についても考える用意はしておきますか。」
「ダンがやるのはいいけど、まだ方法とかは考えていないでしょ。私が前に勢いで言ってしまったけど。」
「そうですか。……まあ、読み流しても、ある程度は情報もまとまってきましたからね。ここから考えていきますか。」
「まず、メンバーよね。」
「この資料から見るに………。」
休憩を終えて、さらに読み流し続けて、七つ星 (シエテ・エステレイア)に関係する人名をメモに書き写していく。
『イハートヨ・ダノーツ
ニザール・ノーンツ
タータル・ズースキティ
ベランツ・ダイアーナム』
「この4人は前にダンが臨時メンバーで一緒に依頼を完了させた4人ね。」
「ええ、まあ、魔法を発動させて誤爆させてしまいましたが。」
まあ、パーティを組む際の、それと再活動に際してのいい教訓にはなったのだけど。
『チャティーア・バードスタ
チャティーア・アネミク』
「これが私たちが調べている3姉妹のご両親ね。」
「まあ、この冒険日誌は結婚してからの記録が一番古いようですから。結婚前の話が全く冒険日誌にも無い。」
『リュキード・マーフォー』
「読み込んで、ようやく姓名が分かったメンバーですね。」
「この方が再活動には加わっていないのよね。」
7人の姓名を書き写す。
「もしかしたら、この中に今までの件の黒幕がいる、と言うことね。」
「うん、1人とは限らないですよ。複数、5人全員ということもあり得ますし。」
「でも、まずはこのリュキードさんについて調べるのね。」
メムが少し疲れた声で言う。一緒にずっと読み流していたからなあ。
「そうですね、ただそれは、明日からにしますか。これから外で夕食にしましょう。」
近所の食堂で夕食にする。
久しぶりの外食だったのか、メムは20人前の食事を平らげた。
(いやー、ちょっと3姉妹に遠慮していたから、久しぶりにガッツリ平らげたわ。)
メムはまあ、満足げであった。酒について会話した時に、俺が話をそらしたはずだったが、全く効果はなかったようだ。
夕食を終えて、自部屋に戻るとすぐにドアがノックされた。
ドアを開けると、ミアンとヘルバティアの姿が。
「ああ、メムとの入浴ですね。」
俺はそう言って、メムを呼び2人に引き渡す。ヘルバティアがさっさとメムと一緒に浴室に向かう。
「あ、あの………。ニシキさん。………えっと。」
立ちすくんだままのミアンが、何か言いたそうにしていたので
「あ、お借りしていた資料、冒険日誌については明日お返ししたいのですが、よろしいでしょうか。」
とミアンに尋ねると、
「……あ、はい。………構いません。」
そう答えて、そのままヘルバティアらがいるところへ踵を返して戻っていった。
俺も灌水浴室でシャワーを浴び体を洗い、自部屋に戻った。
調査の方法を考える。
まず、盗られた2枚の絵について相似なものを作成する。それを持って不明の1人を除く4名に聞いてみて反応を見る。同時に不明の1人、リュキードを探すか。
いや、俺が変装して、残った3枚の絵を売るという手にするか。それは盗られた2枚の絵について聞いた時の反応を見てから、そうするか。うーん、どうするか。そのためには、3姉妹に聞いてみるか。
待てよ、3枚の絵の贋作を作って、それをこの家から盗んだことにして、………誰にその話をするかだな。
計5枚というのを計7枚にして、ガセ情報を流して喰いつきをみるか。
………だめだ。今の段階では、まだ確固とした調査手段が浮かばない。
変装についても考えるか。うーん、あえて組合本部長に弟子入りして変装術を学ぶか。
そうこう考えている間に、ドアをノックして、ミヤンがメムを連れてきた。
「本日もありがとうございました。ティア姉さんもあまりメムちゃん、メムちゃんとべったりしなくなってきました。」
「へえ、そうですか。……まさか一時的にそうしている、ということは。」
「多分ないです……よ、ね。」
結構自信を持っては言えないようだ。
「あと、ミアン姉さんから聞いたのですが、明日、資料と、冒険日誌を返却するのですね。」
「ええ、そうです。」
「助力の方はじゃあ。」
「調査方法を考えてから、こっちで調べてみます。その結果次第で、俺がどう助力するかになるでしょう。」
「わかりました。」
「この家の侵入、襲撃への警戒の方はされているのですか。前に何か魔道具みたいなものを使っていたようでしたが。」
「ええ、今も警戒用の魔道具を使っていますから。」
あまり聞くのもどうかな、ここらにしておこう。
ミヤンが一礼して俺たちの部屋から退がって行った。
「じゃあ、今の会話からすると、調査方法については。」
「まだ考え中です。調査の順番と方法を考えるのは手間がかかるでしょうから。」
「ふーん、そうなのね。」
メムが小首をかしげながら、寝床へ向かう。と、ふと振り返り、机に飛び乗り、俺の顔をじっと見つめる。
「どうしたのですか、メム様?。」
「いや、あなたって……ね、なんと言ったらいいか。」
そう言ってこれ見よがしな感じで、ため息をつく。
「本当にどうしたのですか。最近メム様、何かおかしいような気はするのですが。あ、風呂上がりに何か変なものを食べたのじゃないでしょうね。」
「ふー、………これは重症ね。」
そう言ってさっさと寝床に潜り込む。
うーん、一体何が言いたいのだろう。