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109弾 この師匠と話してみよう

「師匠、ご来店いただきありがとうございます。」


 ヘイルが、その師匠を俺たちのいる席へ案内する。


「なんだ弟子よ、お前、男連れ込んだのか。で、これはお前らのイロか。」


 俺たちと相対しての第一声がそれであった。というかいきなり指差しての、これ扱いか。ちなみに今ここで言われた『イロ』とは、情夫とか愛人とかみたいな意味だが。


「いえいえ、師匠。下宿人の冒険者です。後、こちらの事情は知っていて、助力してくれます。」


 ヘイルがそう言って、紹介にかかろうとする。


「ふーん、これがか。何か世間知らずな奴って感じもするが、助力してくれるんだ。」


「はい、こちらが、姓はニシキ、名はダン。それと彼の相棒のグランドキャットで、メムと言います。」


 ヘイルがそう紹介する間に俺とメムをジロジロと眺めて、


「ふん、まあよろしくな。姓はディマック、名はパトアイだよ。」


 こんな美人に変装するなんて、さすが3姉妹の師匠なのだろう。口は荒いようだが………。

 メムが席を立ち、師匠の左隣に来て顔を見つめた後、頭を下げて一礼する。それに続くように俺も立ち上がり、一礼して、


「初めまして。ニシキ・ダンです。故あって、この家に下宿させてもらっています。彼女らの事情も知ってしまいましたので、助力させていただいています。」


「そんな堅苦しい挨拶はいいって。まあ、あたいがこいつらの師匠をやっている。」


「はあ、しかし変装術の師匠だけあって、美女に化けるのもお上手ですね。」


「ああ、これか。」


 俺の社交辞令に、師匠ディマックはニヤリと笑いかけると、


「これは素顔さ。いろいろ化けると自分を見失いそうになるからな。たまにはこうでもしないとな。」


 ………げえっ、これスッピンってことか。でもなぜこの師匠と弟子は知り合って弟子入りを認めたのかな。思い切って聞いてみよう。

 メムはその師匠の左横で、狸寝入りを開始した。


「えっと、師匠がこの3姉妹を弟子にした理由は。」


 何か会話をと思い、そう質問すると、静かに俺の後ろに3姉妹が座りだした。


「うーん、最初の出会いは、………あたいのスカウトだ。このヘルバティア、変装しているのでヘイルと名乗っているが、少年だと思って声をかけたんだ。胸もないし、顔も中性的になれるし、髪もショートヘアーだった。まあ、今もあまり妹ほど成長してないようだけどな。」


「うう、うううぉん。」


 ヘルバティアが俺の後ろであまりなことを言われたからか、小声でうめいている。


「で、スカウトしてみて、一緒に飯でも、あたいがおごるからと言ったら、弟がいると言ってきてな。それで、喜び勇んでこの子の家について行った。持ち帰りの飯を買ってな。」


「ほうほう、それで。」


「こいつの家に来てみて、弟たちを見て愕然としたのさ。こんな発育した弟がいるかと思ってな。それで話を聞いてみた。そして、両親の行方不明の件とこいつらの当時の年齢を聞いて驚いたからな。ただ、この世の中を生きていくにはちょっと厳しい。それに両親の行方を調べるにしても、この茶店を経営するにしても、女子のままじゃ変な奴に絡まれやすい。この家の一番の長女がこんな童顔少年体型じゃ、舐められるリスクもある。そういう話をしたら、弟子にして欲しいって言ってきたのでな。弟子にして変装術を教えつつ、ということだ。」


「へえ、人情あふれる話ですね。」


「師匠、もう少しぼやかして言ってくれれば。姉がダメージを受けてます。メンタル的に。」


 とミアンが言う。


「ああ、わかった。気をつけなきゃな。しかし、話してて思ったのだが、お前さん、かなり老け顔な感じだな。」


 随分な言い草だが、なんだろうこの人、ちょっと変わってるのかな。

 そう俺が思っているところに、ディマックは、


「ところでだ、………お前さんに弟とか親戚とかに10歳から12歳までの少年はいないか。知り合いでもいいが。いたら紹介して欲しい。まず見てみたい。」


 と聞いてくる。


「残念ながら、そのような弟や親戚や知り合いもいませんが、なぜまた?。」


「まあ、愛でるために……いやいや、将来性を見極めたくてな。そうすれば………あれだ、この弟子たちみたいに自立させることができるだろう。」


 もしかしてこの人は、なんかヤバい人じゃないか。嗜好的に。今までの話から俺は直感的にそう思った。


「そうだ、こっちの話よりもだ。お前さん、ここで下宿していると言うことはだ、こいつらの変装、どうやって見破った?。」


 けっこう無理矢理に話の流れを変えにかかってきた。


「えっと、勘とハッタリですかね………。」


 メムのことを今は言えないしな。メムが匂いを嗅ぎ分けてここに思い当たったとは言いにくい。


「本当か。もっと正直に言いな。」


 師匠もイマイチ納得いかないようだ。


「あえて言うなら、香水の匂いですかね。少年になっているのに、女性用の香水の匂いがしたりしているのが気になって。」


 俺はそう答えた。これこそハッタリであるが。

 後ろを見ると、3姉妹が自分の腕を掲げてをクンクン嗅ぎ出している。


「ふーん、いい鼻を持っているのかな。じゃ今度また様子を見にくるよ。ニシキ君もこいつらのことよろしく頼む。」


 そして俺に小声で


「……後、やる時は避妊具をお前が用意しろよ。孕ますのは正式に式を挙げてからがいい。」


 そうささやいて席を立った。


「そうか、匂いか………気をつけなくては。」


 と呟きながら。

 その後をヘイルが追い、ドアの前まで行き


「ご来店、ありがとうございました。またのお越しを。」


 そう言って師匠を送り出した。

 正直に言って、黙っていれば超いい女性なんだけどな、口を開くとなあ………。

 そういう意味ではメムとどっこいどっこいな感じもするが……。そう思いながらメムを見ていると、メムは何か気付いたのか、それとも気になることがあったのか首を傾げている。


「ふぅっ、今回はスッピンで来るなんて、予想以上に大胆な方だわ、やっぱり。」


 ヘイルがそう言ってため息をつく。


「そういえば、ニシキさんに、最後師匠が何かささやいていましたが、何を言っていたのですか?。」


 イワンが俺に聞いてきた。


「ああ、……あなたたちの事をよろしく頼む、と言われたのですよ。」


 あんなことは、さすがに口に出しては言えない。言ったらセクハラになりかねない。


「じゃあ、後片付けしますか。」


 俺はそう言ってこの場を収めにかかった。



「今日はあの師匠に会っていただき、ご協力ありがとうございました。買い物にまで付き合っていただいてありがとうございます。」


 イワンになっているミアンが俺にお礼を言う。

 本日も夕食の材料の買い物に手伝いとしてイワンと一緒に近所の市場へ出かけて、戻る途中である。メムには番犬ならぬ番猫として、昨日と同様に留守役兼用心棒をやってもらっている。


「こちらこそすみません、メムは大食いなのでけっこう食費がかかりますから。作る方も大変になると思います。そういえば、あなたたちのあの師匠は、変装術で何を教えたのですか?。」


 今日会った、あの口を開くと問題発言しそうなあの女性、ディマックのことを考えていた。あれで弟子になんて言ってたのだろうか。


「シンプルでしたね。自分の体型、置かれている状況、その他いろいろな条件を読み解き、自分にピッタリハマる変装をしろ。自分に合わない変装はバレやすくなる。基本はそれだと。」


「へえ、なるほど……。」


「ただ、姉さんが連れてきた時は、少し興奮気味だったのですが、私たち双子の妹と知った時は、急に気が抜けたようになりましたね。でも私たちの話を聞いてから、いろいろ教えてくれましたからね。」


「じゃあ、行方不明の話とか、残された絵の話とかを。」


「最初は行方不明の話だけですね。その後変装術を教えてもらって、潜入して調査したいと相談したら、理由を聞かれて、その時に絵の話はしました。でも書いてある絵が何か、師匠も全くわからなかったです。」


まあ、絵についてはなあ。この異世界トゥーアールじゃ、自動車だ電車だ貨物船だなんて全くなさそうだからな。


「話は変わるのですが、今日はスッピンできてたのですね、と……ヘル、ヘイルが言ってましたが、師匠はそんなにいろいろ変装をしてくるのですか。」


「ええ、変装のパターンを見極めればと思ったのですが、パターンも無い。街の工事員から紳士に貴婦人、挙げ句の果ては老人にまで。一目では見極められないです。だから匂いの話をニシキさんがした時、なるほどと思いました。」


 イワンが興奮を少し表情に出しながら話す。

 でも多分、おたくらの師匠も気付いただろうから、匂いで見抜くのも難しいでしょうけど、とは言わない方がいいだろうかな。

 そう考えているうちに下宿先に戻ってくる。

 昨日のように夕食の準備を手伝い、皆で食事をとり、食事の後片付けを手伝い、


「今夜は、メムちゃんとお風呂入るから。」


「どうぞどうぞ。」


 そう会話をして、ヘルバティアがメムと一緒に入浴する。俺はその間に灌水浴室で体を洗う。

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