108弾 この店、本日貸し切ろう?
(この後は、警備隊総隊長のところね。)
組合本部から警備隊本部へ向かう途中で、メムが念話術で語りかけてくる。
(依頼を受けたことを報告して、それと情報収集ですね。)
(しかし、あの組合本部長、名乗りがなかったけど、いいの、ダン。)
(まあ、聞き出せる感じでもなかったですし。)
そして、警備隊本部に着くと、警備隊総隊長に面会を求めると幸いにも総隊長室にいた。もしいない場合は近くの警備詰所本部にいる可能性が大きいのだが。
総隊長室に入ると
「ああ、ありがとう。受けてくれるのだって。」
総隊長はにこやかにお礼を言った。
「ええ、組合本部長に直接会って話をしました。ところで、捕えられた奴らはしゃべったのですかね。」
俺は情報収集を開始する。
「いや、少しは話すようになったのだが、みんな言うのは、あの家と店に金目のものがありそうなので狙った。と言う話だがね。ところで、昨日事情聴取に行ってきた後で確認したのだけど、あの家の両親は2年前から行方不明なんだってね。届けが出ていたのは確認したよ。あと絵が盗られた疑いもある話もね。」
「ええ、そのようですね。ところで、奴らはこのままだとどうなるのですかね。」
「一応裁判にはかけられる。でもこのままだと、死刑にはならないだろう。長期に牢に入ってもらうが、まあ2年から8年、主犯格だと10年か。あと、あの家にいるのは3姉妹、なぜ変装をしているのかね。」
まあ、そう思うだろうとは想定してたので、こっちも予め用意した答えを、
「用心ですよ。女子だけだと気付かれたら茶店もやりにくいでしょうから。」
「まあ、そうなのだろうけど。」
「こっちも一つ、行方不明の届けがあれば捜索はするのですか。」
「うーん、明らかに事件性があるものは捜索するが、大体の冒険者の行方不明は探検、探索中とかだからね。全てに全力捜索も難しい。ロストエリア(喪失域)みたいな危険地域でとなるともっと難しい。」
確かにその通りだろう。警備隊の人員にも限りがある。場合によっては冒険者ギルドに依頼をして他の冒険者に救難してもらうこともまれにある。しかし、救難するまでの間に生き残れるかどうかもあるし、どこかの洞窟などで遭難して救難しに行っても、救難対象者を救難するまでに行方不明になることもある。この異世界はそういうところはシビアにできている。
「やっぱり、今回の事件と行方不明は何か関係があるということかね。」
総隊長が聞いてくるのだが
「今のところは、なんとも言えないとしか。情報収集でしょう、しばらくは。」
「依頼を受けてくれてありがとう。繰り返しになるが、礼を言わせてもらうよ。」
「まあ、やってみましょう。秘密の保持はお願いします。特に3姉妹が変装していることは。」
「ああ、わかった。そこには気を使うようにする。」
ということで、情報収集はこんなものか。
「そういえば、…組合本部長に会ってどんな感想か教えてくれるかい。」
「ふーん、顔隠していたから印象は……、会話の大半を冒険者ギルド長に投げていたような気もするのですが。」
なんか試された感じもあるが………。
「ふふふ、そうかい。まあロジャーも苦労してるようだね。」
「では、これで失礼します。」
俺はそう言って、総隊長の前から退散した。
警備隊総隊長と話した後は、持ち帰り用の昼食を買って下宿先に戻ることにする。
下宿先近くまで来て気づく。あれ、本日茶店営業しているのか。そう思って茶店に近づくと、扉に『本日貸切』の札がかかっていた。
ええ???、今日何か貸切の予約入っていたっけ、この店。
まあ、貸切だったら店に入ってもしょうがないので、住居側の玄関から入り
「ただいま戻りました。」
と奥に声をかけると、
「「「帰ってきたー。」」」
3姉妹が一斉に玄関へトテドドドという感じで駆け込んで、俺とメムを迎えにきたのか?。
「いやー、ニシキさん、じゃあ依頼を受けることになったのかしら。」
「まあ、お願いした通りに真っ先に戻ってくれたのですね。」
「メムちゃーん。」
何か一人だけ目的が違う者がいる感じだが。
「とりあえず、じゃあどこかで皆さんにお話ししますから。」
ということで、リビングダイニングで皆揃って、俺が買ってきた昼食と、作っていた昼食を足し合わせて早めの昼食にしながら
「まず、条件が通りましたので、警備隊との合同調査の臨時協力という形で依頼を受けます。期限は無期限、なおこの依頼は組合本部長直轄依頼になります。」
「じゃあ、ニシキさんがこの事件に関して調査をするということですね。」
ミアンが一安心という体でホッとしながら言う。
「助力も依頼上ある程度は公認される、ということだな。よし。」
ミヤンが気合いが入るという感じで言う。
「これで、昼食後はこちらに協力してもらえるわね。」
ヘルバティアがメムの頭と顔ををなでなでしながら、俺の顔を見て言う。
「協力?、調査についてですね。」
俺がそう思って言うと、
「いや、今日は店を貸切にしてるでしょ。師匠が来るから。」
「師匠?。ああ、変装術とやらの師匠ですか。皆さんの。」
俺がそう言いながら右手のひらを上に開き左右に振ると、3姉妹がそれぞれうなずく。
「ええ、協力してくれるかしら。」
ヘルバティアがメムから手を離して、俺に頭を下げてお願いする。
「協力って何をするのですか。来たら追っ払うとかでしょうか。」
「さすがに、そんな好戦的になる必要はないです。一応師匠に紹介しようかなって考えているだけですから。」
ミアンが冷静に俺の軽いボケを拾ってくれたようだ。
「というか、追っ払うって、どう追っ払おうと考えてたのか………。」
とミヤンが呟く。
その会話に、
「私はどう紹介されるのかしら。」
と言ってメムも参加する。
「メム様、彼女たちの師匠といっても、地球の女神とは紹介できないでしょう。俺の優秀な相棒と紹介しますよ。」
「チキューの女神、プッ、クスクスクス。」
ミヤンが吹き出す。だからチキューの意味は、この世界トゥーアールで何の意味なのだ。心の中でツッコミを入れつつ、
「紹介するのはやむを得ないにしても、俺たちが異世界から来た者との紹介はしないでくださいね。今後やりにくくなる可能性が大きくなるので。」
と俺は彼女らに釘を刺しておく。まあ信じてくれる人はいないと思うが………。
早めの昼食をとり終えて、片付けを終えて、3姉妹は少年と初老のコックに変装を開始する。
変装を終えたあたりで、茶店のドアがノックされる。
「一緒に来てください。」
ヘルバティア、いやヘイルにそう言われて、メムと共に茶店に向かう。奥の厨房でミアンとミヤンが、初老のコックに化けたイワン、イワノフとして待機する。
「こちらに座っていてください。」
そうヘイルに言われて、俺たちは示された席に座る。
ヘイルは茶店のドアを少し開けて何か小声で会話をして相手の確認をすると、ドアを開く。
「じゃあ、邪魔するぞ。」
そう言って茶店に入ってきたのは………スラリとした金髪碧眼の女性であった。
髪は肩までの金髪を無造作にくくり、スタイルがとにかく良い。ボンキュッボン、というのはこういうスタイルをなのかと思わせるスタイルだ。またルックスも、なるほど、美人だ。べっぴんだ。ただ何かやさぐれた感じを受ける。
メムも驚いた表情であんぐりと口を開けてしまっている。
(メム様、もしかして知り合いの女神にこれくらいの美女がいたりは。)
(しないけど、神の世界に似たようなのはいたわね。まあ、私には敵わないけど。)
念話術で会話しながら、メムがマウントを取るが、誰に対するマウントを取ったのか俺にはわからない。