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107弾 直轄依頼とは何だろう?

「で、どうするのですか。依頼は受けるのですか、断るのですか。」


 夕食を食べながらミヤンが聞いてくる。


「明日朝に組合本部へ行ってきますよ、そこでの話し合いは必要でしょう。あとは場合によっては警備隊総隊長とも話すことも必要かと。」


 俺は、飲み物を飲みながらそう答える。


「まあ、とにかく明日次第でしょうね。申し訳ないのですが、明日も話が終われば、まずこちらに戻ってもらって、報告とかしてもらえたら。」


 ミアンが申し訳なさそうに、俺たちにお願いをする。


「まあ、それより、メムちゃん。これあげる。」


 長姉は猫可愛がりを抑えたとはいえ、目尻を下げてメムを甘やかしている。

 ミアンとミヤンの双子妹は、俺の顔に目をやり、長姉を見てため息をついた。

 夕食後、俺とメムは風呂に入り、部屋に入る。いつも通りヘルバティアとメムが一緒にお風呂に入るのかと思ったが、


「ちょっと3人で話をすることがあるので、今日は大丈夫です。」


 ミアンにそう言われる。


「3人での話ですか、一体何の話で?。」


「殿方には聞きづらい話かと……、申し訳ないのですがそこは、ご遠慮いただければ。おやすみください。」


 ヘルバティアが真面目な顔で言ってくるので、深入りはできないと判断して、そのままメムと風呂に入り自部屋に戻ることになった。



「腹は括ったようね。ダン。」


 自部屋に入るなり、メムが口を開いて俺の心理状況を確認する。


「まあ、明日の話し合いが全てでしょうけど。元の世界に戻る手がかりが得られれば、万々歳でしょう。」


「依頼の条件次第になるけど、これで3姉妹に助力する形になれば御の字よね。」


「ええ、そうですね。明日に備えてしっかり休みますか。」


「でもまた謎の敵の襲撃とかは。」


「多分ないでしょう。警備隊もそこまで間抜けだったら、終わりですから。この街が。」


 立て続けに襲撃とか起きれば、警備隊の存在意義にも関わるから、警備隊はこの周辺は厳しく警戒するだろう。ああ、だから総隊長自ら事情聴取に出張ったのかもしれない。

 そう思いながら、眠りについた。メムもスヤスヤと眠りについている。



 翌朝は早めに起きて、とりあえずの携帯食糧。朝食については、早めに出るので断っている。身支度を整えて、玄関で組合本部に行くことを告げて出発する。


 いつもより早めに、かつ久しぶりに組合本部に着く。ピーク時に比べて、掲示板に群がる冒険者たちは少ないが、これから増えていくのだろう。

 ということで、掲示板の右端をチェックして俺を指名の依頼があることを確認する。というか


『ニシキ・ダン宛 指名依頼 警備隊との合同調査の臨時協力 働きによりボーナス有り 詳細は受付まで。』


 まあ、それなりにぼやかしてくれているのか、あいまいにした感じの指名依頼だった。貼られた紙を受付に持っていくと、紙を見た受付担当の事務員が、しばらくお待ちください、と言って代わりの人間が出てきた。


「おはようございます、ニシキ様。」


「おはようございます。セイクさん。でもなぜこの受付に?。」


「かなり特殊な依頼になるからです。ここのところ、立て続けに下宿先で事件に巻き込まれた、とかと聞いています。この依頼はその事件関連だからという話もありますが。」


「ええ、昨日警備隊総隊長が事情聴取に来まして、そこからの話になります。」


「そうですか。組合本部長からの直轄依頼ということになりますが、よろしいですか。」


 直轄依頼?。聞きなれない用語に少し戸惑う。


「直轄依頼、というのは何でしょうか。そんなにある依頼でもないような感じですが。」


「うーん、そうですね。どちらにしてもこれから、組合本部長と冒険者ギルド長に会っていただきますので。」


 ああ、直接依頼を受けるからそういうのか。



 セイクさんの後について、俺とメムは組合本部長室へ向かうことになる。


「そういえば、組合本部長に会うのは初めてでしたね。」


 セイクさんがそう言って、本部長室のドアをノックした。

 ドアが開き、冒険者ギルド長のロジャー・ヤングさんが顔を出す。


「どうぞ、入ってくれ。セイク君、君は事務所で待機してくれ。」


 そう言われて、セイクさんはドアから事務所へ向かう。

 部屋に入るが、なるほどでかい。冒険者ギルド長や商業ギルド長の部屋よりでかい。しかも灌水浴室、前世でいうシャワー室やトイレも備わっている。書庫棚も大きく書籍類でいっぱいだ。

 まあ、冒険者ギルドと商業ギルドをまとめているわけだから、それくらいの部屋でないと組合本部長としての仕事はできないか。

 好奇心の赴くままに部屋のあちこちを眺めていると、


「この部屋はな、こもって仕事をさせられるための部屋じゃ。牢獄に近いかもしれんな。」


 と、妙にしわがれた声で声がかかる。黒く作られた三角席札に『組合本部長』の金文字が彫り込まれた奥の席に、魔法使いのような服装をしてフードを深く被り、顔の下半分ををフェイスベールで隠した威圧感のある老婆がいた。


「さあ、部屋に圧倒されていないでこちらに座ってくれたまえ。」


 冒険者ギルド長が応接用の席をすすめる。組合本部長も席を立ち応接用の席へ。


「ニシキ殿は本部長に会うのは初めてか。」


 俺は立ち上がり、


「お初にお目にかかります。組合本部長殿、姓はニシキ、名はダンと申します。直轄依頼の件でそちらにまかり越しました。」


 そう言って一礼する。


「いいよ、そういう挨拶は。こっからはそれ無しね。じゃあ、ヤング、よろしく。」


 え、なんかすごい丸投げしてる感があるが……。しかし組合本部長は俺の顔から目線を離さない。

 俺は試されているのか、何かを?。

 メムを見ると、多分狸寝入りをしているのだろう。尻尾がピクピクと動いていた。


「じゃあ、組合本部長、こっちが話します。まあ警備隊総隊長と話をしていると思うが、この前の侵入と襲撃の事件の調査協力だ。特殊な依頼なので組合本部長直轄にする。期限は無期限。完了代金は犯人判明後に財産調査しそこから支払われる。もし犯人に支払い能力がない場合、最低代金は5万クレジット。これで頼む形になる。」


 ふむ、期限は無期限か、これだと………。


「一つ確認をしても。この依頼を受けながら、他の獣退治とかの依頼を受けても問題はない、という認識で構わないのですね。」


「ああ、それは問題ない。あくまでも警備隊の手伝いというところだ。とはいえ正式な警備隊の隊員ではないから、この形だ。なお、報告は不定期で構わないが、月に1度は組合か警備隊に報告してほしい。」


「不定期の報告で構わないというのは、俺が情報収集に警備隊に行くから、その際に報告をすればいいということですか。」


「まあ、そういうところだ。商業ギルド長から聞いたが、君が発見した白粉石の鉱脈のおかげで、警備隊の人手が足りなくなったのも事実だからな。」


 確かに、直接的ではないが、巡りめぐってこうなったと言われれば否定できない。


「もし、この調査関連で俺とメムに襲いかかる奴らがいたら、それなりの措置をしても?。」


「殺さない程度ならいい。よほどのことがない限り、殺すなよ。」


「わかりました。この依頼受けましょう。あと、条件を一つ追加してもいいでしょうか。」


「何だろうかね。」


 冒険者ギルド長は怪訝な顔をした。


「組合本部のバックアップ、これは可能でしょうか。主に食事とか他の依頼を受ける時のフォロー、そして、この依頼に関する情報の秘匿と事件に関係する情報の開示ですね。」


「いいだろう。こっちでやれるだけのバックアップはしようじゃないか。」


 組合本部長があっさりと承知してくれた。


「結果次第では、ランクアップもありだな。」


 続けてこう言い出す。その横で冒険者ギルド長が、呆然とした表情を隠そうとしながら、


「いいのですか。そこまで言っても。」


「いいだろう。警備隊総隊長もこの者にやらせようとした。ヒキがいいという理由で。私も乗ってみようじゃないか。」


 しわがれ声で冒険者ギルド長を押し切った。そして、呼び鈴を振り鳴らし、


「じゃあ、頼んだよ。」


 そう言われて、俺とメムは部屋から退出した。

 部屋を出ると、すぐにドア前で待機していたセイクさんに案内されて受付に行く。


「では依頼の方はこれから受けていただくということで。」


 受付で、セイクさんがそう言って書類を渡し、


「組合本部長との話で出た追加の条件について、後日書類を渡します。今の書類は仮みたいな者で考えてください。しかしいいのですか、ニシキ様。」


「こうなったら、行けるとこまで行くしかないような気がしますので。」


 そう言って受付を退がった。

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