104弾 異世界の交流について論じよう
休憩を終えて、まず俺が口を開く。
「この後の事情聴取は俺が主に対応しますが、それでよろしいですか。」
「いいけど、私も一緒に対応するわ。」
そう言ってヘルバティアが俺をまっすぐに見る。
「わかりました。事情聴取の流れによっては、ある程度警備隊にも話をすることになるでしょう。」
「それは反対だ、ニシキさん。」
ミヤンが真っ先に反対を示す。
「信用できるものは少ない。あまり情報を出しすぎると、狙われることが多くなるのじゃ。」
メムが反論する。
「一番の問題は、ご両親の行方不明の問題、その手がかりを得て解決させるには、警備隊と対立しても意味がないわよ。私たちだけでやっているのはいいけど、使えるものは上手く使う必要があるのじゃない。それに、ダンは、ある程度、と言っているの。全部を言うわけじゃないから。」
「メムちゃんの言う通りよ。差し当たっての問題は、今我が家を狙っている連中をどうするかもあるから。」
ヘルバティアがメムの発言の援護をする。
「俺の言い方が足りなかったようですね。今回警備隊が事情聴取するのは、一昨日、昨日と連続している家への襲撃について心当たりがないかの確認でしょう。ただ、もしかすると、深く聞いてくるかもしれませんが。」
俺がそう言ってミヤンを説得する。
「……わかったわ。そこまで言われるとね。話す情報はこっちでコントロールするのね。」
「ええ、その通りです。ミヤンさん。」
どうやら納得してもらえたようだ。
「ところで、ニシキさんは、異世界人であることを警備隊に話されるのですか。」
ミアンが聞いてきた。
「話してもいいでしょうけど、あなた方に、俺が異世界人だと話した時の反応と、グランドキャットがあなたたちと話をしたことに対する反応を考えると、話すのはちょっと難しいでしょう。受け入れてもらえる状況ではないでしょうし、もひとつ怖いのは、俺とメムを捕まえて解剖や実験に使われるなんてことになれば、この世界で大暴れみたいになって、目的達成が遠のくのも嫌ですからね。」
ヘルバティアが
「まあ、話せる範囲で話してみて、警備隊の反応を見てみる、その上で話す範囲を広げるかどうか判断する。これでいきましょうね、ミアン、ミヤン。」
と言ってまとめにかかった。
「「はーい。」」
双子妹が声を揃えて返事する。
「そういえば、この世界は何ていう名の世界なのですか。俺とメムのいた世界は地球と言ってましたが。」
ふと俺は尋ねてみた。
「ああ、この世界ですか。『トゥーアール』と言います。しかし、ニシキさんのいた異世界は、『チキュー』というのですね。」
ミヤンが面白そうに笑顔を浮かべながら教えてくれた。
「ええと、その笑顔の意味は、『チキュー』という音声に、この世界『トゥーアール』では何かを意味しているのでしょうか。」
俺が困惑しながら聞くと、3姉妹が全員顔を真っ赤にして、下を向きクスクス笑い始めた。
「ダン、これはどういうことかしら。」
「さあ、俺にもさっぱり。」
メムと顔を合わせて、お互い困惑の表情を浮かべる。
「えっと、チキューの意味を教えてくれますでしょうか。」
俺がもう一度3姉妹に尋ねるが、
「だ、だめよ。結婚前の女性に聞く話じゃないわ。クククク、フフフフ、はっはっはっは。だめ、こらえきれない。」
ヘルバティアが笑いながら回答を拒否する。3姉妹は全員笑いのツボにハマっているようだ。
「どうしますか、これ。メム様でも無理でしょう。」
「しばらく放置しておきましょう。」
どうも俺たちのいた世界、地球は、この異世界だと何か違う意味になってしまうのか。俺たちはスッキリしない感を持って互いに顔を見合わせたまま、3姉妹の笑い声を聞いていた。
ひとしきり笑いまくった3姉妹が落ち着いたところで、
「メムちゃんのいた女神の世界ってどうなっているのですか。」
ミアンがメムに質問する。
「まあ、私たちの世界って、このダンみたいに、死んで神の世界に来た者を新たに生まれ変わらせることを主にやっているのよ。」
メムが得意げな顔で答える。
「じゃあ、この世界でもそうなっているのかしら。」
ミアンは好奇心が旺盛な娘だなあ。メムはどう答えるのだろう。
「うーん、私も神なのに、このダンと一緒に転移されちゃったから、この世界トゥーアールの神にまだ会っていないのよねえ。」
「ああ、そうですね。メムちゃんのいた女神の世界でどんな生活をしていたのですか。」
「新たに生まれ変わらせるために、私たちも修行をしたり勉強をしたり、たまにダンのいるような所を視察したりしていたのよ。」
うーん、本当か?。その割にはこの異世界トゥーアールに来て、やってることや言ってることに、多少の偏りがあるように思えるのだが………。そういえば恋人を取られて、ラメド様と険悪の仲になっていたことは、………言わないか。
「ニシキさんは、どうしたのですか。表情が強張っていますが。」
ヘルバティアが俺の顔を見ながら聞いてくる。
「いや、異世界交流ってこんなものなのかなあと思って……。」
「なるほど、そう言われればそうですね。」
ヘルバティアが納得したようだ。そこにミヤンが、
「ニシキさんはこの世界に来る前は、どんな生活をしていたの?。」
いやー、俺の個人的生活は言いたくないなあ、と思ったが、
「いいじゃない、ダン。しゃべっても。」
メムが半笑いで俺を見て困ったことを言い出す。
「朝起きて、身支度を整え、仕事に出て、鬼級のサービス残業やら、14日連続勤務とか、朝6時から翌日夜10時までの会社泊で追い込み仕事をして、心と体をボロボロにしながら、首切りに怯え、安い給料で安酒をたまに飲み、………これ以上は思い出したくないです。」
メムも3姉妹もドン引きした。
「なるほど………、これが異世界の地球という世界に生きてる者の生態なのね。」
とヘルバティア。
「何か悲惨ですね。」
とミアン。
「だから『チキュー』というのか。クスクスクスクス。」
とミヤン。
だから、チキューで笑ったのはなんでなのか。俺は何か釈然としない。
「それより、昼食の準備をしましょう。」
ヘルバティアが指示を出す。
「あのう、俺も準備のお手伝いをしてもいいでしょうか。ずっと食べさせてもらってばかりは何か心苦しいので………。」
俺は右手を挙げて、そう言ってみる。
「まあ、いいですけど。」
ミアンが少し不安げに賛成してくれる。
とりあえず、芋みたいなものを洗い、台所の隅に立って指示を受ける。
「まあ、そんなに手間のかかるものを作ったわけではないけどね。」
ミアンがそう言って、昼食を完成させ、俺は肉野菜の炒め物みたいな料理を食卓に運んで、昼食を開始した。