102弾 普段の生活に戻していこう
5人を一気に倒したのだが、もう一度用心のために5人の状態を確認しているところへ、息せき切ってメムが駆けつけた。
「ダン、そっちは………、ああ、もう大丈夫のようね………。」
「ああ、メム様。すみません、クイックドローで5人倒しちゃったので、この5人の状態を確認するのを手伝ってくれませんか。そうだ、裏手の方はどうだったのですか。」
「3人のうち2人は、罠にかかって足を挟まれて大怪我、残り1人はあの3姉妹に袋叩きになってるわ。」
「じゃあ、全員無事ということですね。」
5人の頭巾を剥ぎ、短杖を回収しながら、俺はメムと状況を確認する。かなりダメージを喰らったのか、痛そうにうめくが、体は動かず意識はもうろうとしているようだ。
そこへ、3姉妹が玄関前へやって来る。
「裏口に来たのは捕らえた。そちらは、………お見事ですね。全員伸びてますね。じゃあ全員縛りますか。」
ヘルバティアが現場を見て、息を呑みつつ、玄関で伸びてる5人の襲撃者を拘束にかかる。
人手が加わると、拘束もあっという間に終わる。手足を縛り、猿ぐつわをかまし、頭部に袋を被せ視界を奪う。
「ニシキさん、魔法を発動させました?。」
ミアンが聞いてくるので、
「ああ、短杖を出してきて攻撃を仕掛けようとしたから、先手をうちました。」
と俺が答えると、
「じゃあ、警備隊がここに来るのも時間の問題ですね。」
ミヤンが言う。
ああ、そうか。街中の魔法発動だからな。
とはいえ、拘束した裏口の3人を玄関前に運び、襲撃者の所持品を全部回収する。
そうしているうちに、警備隊員が3人ほどやって来て、
「この近辺で魔法を発動させた者がいないか。」
「……はい、俺が発動させました。」
左手を挙げて、警備隊員に申告する。
「ああ、あなたがって、ニシキ殿。ニシキ殿ですか。」
顔見知りの警備隊員であった。
「何か昨日に引き続き、今日もなんて、大変ですね。」
「昨日はコソ泥、今日は襲撃。こういろいろ巻き込まれると、明日は何に巻き込まれるやら。」
俺はボヤキをいれてしまう。
「まあ、状況はわかりました。しかしこんな覆面をして警備隊を名乗るとは、相当不逞な奴らですな。」
とりあえず、事情聴取を受ける。
主に警備隊員とは俺が対応する。ただ、3姉妹も警備隊員の事情聴取を受けることになった。
「ええ、食事中、いや終わりくらいになった時に襲撃して来まして、裏口の奴らは彼女らが対応してます。用心のために罠を仕掛けたのが奏功したようです。」
「ではニシキ殿は、玄関前の方で襲撃犯たちと相対していた。と言うことですね。」
「ええ、怪しい格好した奴らでしたが、まず声をかけてみました。そうすると、警備隊の者だと名乗り出したので、これは完全に不審者だと判断しました。」
「ふむ、そうですね。警備隊員が覆面をすると言うことはあり得ない。」
「そしてやり取りをしていると、罠にかかった者たちの悲鳴が聞こえた途端に警備隊の捜査だと言ってきて、短杖を各々出して魔法を発動させようとしたので、こちらも魔法で対抗しました。」
3姉妹とメムは別の警備隊員と事情聴取を受けていて、地面に並べた、回収した襲撃者の所持品を示しながら説明しているようだ。
そこへ、応援要請しに行っていた別の警備隊員が、ドラキャと他の隊員を5人引き連れて玄関前にやってくると、捕らえた8人の襲撃者をドラキャに押し込んだ。
「一旦事情聴取は終わりとします。夜も更けてきますので。明日、事情聴取をもう一度することになるかもしれません。よろしいですか。」
と俺の事情聴取をした警備隊員。
「俺たちが何か罪に問われることに?。」
「いえ、話を聞いた限りそんなことはないです。ただ事件が事件なので、今後のためにも調べることがありまして。」
「わかりましたが、皆さん、明日の事情聴取に差し支えは?。」
俺が3姉妹に確認すると、ミアンが
「明日の朝のうちに後片付けをしたいので、昼食時から夕食時前の間ならどうでしょうか。」
「……そうですね。わかりました。」
その警備隊員はそう言って、ドラキャに乗り込み、襲撃者たちを警備隊に連行していった。
警備隊員たちが去って、再びリビングダイニングへ戻り、一息つく。
「絵の方は無事に片付けたのですね。」
俺がヘルバティアに尋ねる。
「ええ、襲撃に対応していただきありがとうございました。」
ヘルバティアが俺とメムにお礼を言う。
「しかし、昨日といい今日の襲撃といい、多分あの絵が狙われていることになりますね。」
「………そうですね、そうとしか言いようがないですね。」
ヘルバティアが険しい顔になる。
「もし明日の朝よろしければ、一緒に朝食を。この襲撃で話しそびれたこともありますし。」
とミアンが提案する。
「わかりました。そうしますか。」
俺が同意を示し、メムもうなずく。
「では今夜はこれで、入浴してお休みください。」
ミヤンが無表情になって、俺たちに今日の話は全て終わりと言外に告げる。
「わかりました。灌水浴室を使わせてもらいます。」
「どうぞ。」
俺たちは一旦部屋に戻り、灌水浴室でシャワーを浴び体を洗って、部屋で就寝したのだった。
翌朝、妙に早々と目が覚める。一昨日、昨日と立て続けに事件に巻き込まれたせいか、今朝は妙に気が高揚してるようだった。
メムはまだ高いびきで惰眠を貪っているようだ。静かに、皆を起こさないように一旦身支度を整えて、こっそりと裏庭に向かう。裏口から出て庭に向かい、しばらく何気に日の出を眺めているところへ、
「あら、今朝は随分早起きですね。」
と、ミアンが庭に出てきて声をかけてきた。
「ああ、おはようございます。起こしてしまいましたか?。」
と俺が聞くと
「いえ、だいたい起きる時間ですから。さて、水やり水やり。」
そう言って、畑に水をジョウロで撒きはじめた。
「薬草畑ですか?。」
「ええ、これを使って回復ポーションを自作します。」
「なるほど、なるほど。」
そう言って俺は軽く伸びをする。
「しかし、ニシキさんとこうやって会話してると、とても異世界人とは思えないですね。」
「はぁ、まあ信じてもらえないですかねえ、やっぱり。」
「いえ、違いますよ。あのメムちゃんを見て異世界から来たのだというのは納得したのですが、どうも私のイメージする異世界人と違ったもので。」
「どんなイメージをされていたので、……ああ、水やりはこれで終了ですか。」
「そうですねえ、角が3本頭にあって背中に翼が生えていて、目が1つで、足が4本、腕が6本というのが私の異世界人のイメージで。」
えらい化け物というか異次元の何かを想像していたのだろうか。俺はその話で、絵面を想像してみたが、脳が処理しきれなかった。
「ああ、ミアンが朝ごはんの準備をしていますのでしばらくお待ちください。」
「ヘルバティアは料理しないのですか?。」
「姉さんにやらせると、………とんでもないことになりますので。」
穏やかな笑顔でそう答えた。
一度部屋に戻ると、メムが、
「あら、どこか言っていたのかしら。夜逃げでもしたのかと思ったわ。」
と言ってきた。
「いや、ちょっと早く目が覚めてしまって、ところでどうして夜逃げしたと。」
「え、いや、軽いジョークよ。このところヘビーな展開だったから。」
「そうですか。じゃあ、朝のブラッシングでもしてあげましょう。たまには早く起きたからそれもいいでしょう。」
「………何か不気味ね。こんな穏やかなダンは見たことがない気がするのだけど。」
「それはひどいですよ。たまにはってやつですよ。」
「……まあ、いいわよ。お願いするわ。」
そう言って、メムをブラッシングする。基本いつもは入浴後であるが、ここのところ入浴後はヘルバティアがブラッシングとモフモフをしていたのだから。
ブラッシングを終えて出た獣毛を片付ける。これは一度何か利用法があるかどうか考えてみよう。
お守りの内符にするか、あと魔弾の材料に試してみるか。
そのタイミングでドアがノックされ、
「メムちゃーん、朝ごはんですよー。」
通常運転になったヘルバティアがそこにいた。
しかし、以前のようにのべつ幕なしにモフモフしたい感を出しているのでもないようだ。