101弾 さらなる襲撃対応しよう
そうやってメムと俺が会話をしているところへ、休憩を取ったヘルバティアと、長姉を落ち着かせるようにしながらミアンとミヤンが戻ってくる。
ヘルバティアが開口一番で、
「女神メム様、無礼な態度申し訳ございませんでした。ご無礼を平に平にご容赦ください。」
と言って詫びを入れてきた。
「別にいいわよ、女神って言ってもこの世界じゃ何の御利益もないからね。いいわよ、今まで通りで。でもあまりモフモフを求めないでね。」
メムはそう言って、詫びを受け入れる。
「まあ、気にしないでください。ただの燃費が悪い大食いが取り柄なだけの、グランドキャットでいいですから。」
俺が長姉へのフォローのつもりでそう言うと、メムは無言で俺の後頭部に猫パンチをかました。あちゃー痛え。
「落ち着いたところで、俺たちの目的について話をしなければなりませんが、よろしいですか。」
俺は後頭部をさすりながら、話を切り替えにかかる。
「そうですね、異世界人だとすると、転移になった辺りから説明してくれれば、より納得もできるかもしれません。」
ヘルバティアがそう言って俺が話を切り替えるのに同意を示す。ミアンら2人もうなずく。
「わかりました。では俺が死んでしまって、地球というところの神の世界に行ったところから始めますか。」
俺は、そう言って交通事故で死亡して、神の世界にいき、地球で新たに生まれ変わるはずが、そこでも事故に巻き込まれて転移して、結局、今のこの世界にたどり着いたこと。グランドキャットになった俺と同様に転移したメムに出会い、冒険者としてなんだかんだと依頼をこなし、事件や騒動に巻き込まれながら、この今の世界を調べて、元の地球に戻る方法を探していることを説明した。メムも補足説明的に話をしてくれた。ただ、俺が死んだ年齢や、女神メムと女神ラメドとの喧嘩のことは割愛して話をしたのだった。
「長くなりましたが、ということで、ここまで話をさせてもらいました。だからあの3枚の絵に俺は激しく反応したのです。あの絵を見たら、もしかすると元の世界に俺とメムが戻れるかも知れない可能性を感じたのですから。」
「よくわかったわ。まあ何がともあれ、いろいろ大変でしたね。ところで、そろそろ夕食にしませんか。そういう頃合いでしょうし。」
窓を見ると、景色が夕暮れから夜になろうとしているところだった。
夕食は昼食の時と違い、打って変わって会話が弾む。メムを中心に。やはり、年頃の女の子の会話になるのか、話題はファッションと、スイーツのことが中心になる。どこの世界でも異世界でも、意外と話題の中心はファッションとスイーツなのだろうか。メムも女神として地球のあちこちを、かつ、いろんな時代を、視察していた経験からか、スイーツにもファッションにも造詣が深かった。ただ、今は猫状態なのが難点なのだろう。俺は、メムが、この異世界でのスイーツグルメに目覚めてしまわないことを、心の底から祈りながら静かに食事をしていた。
夕食が終わり、ミアンとミヤンが後片付けに立つ中、ヘルバティアが、俺とメムに相対して確認をしてくる。
「私たちに助力してくれるということですね。」
「ええ、ここまで話をした限り、それが俺たちの目的に一番近そうですので。」
「私もダンと同意見よ。」
ヘルバティアはかすかに微笑みながら、
「まあ、助力してくれる方が増えるのは、ありがたいですが、私たちの正体というかこの状態については。」
「もちろん、口外するつもりはありません。ただ、俺たちの目的を最優先で考えますので、その時は、ということも了解いただければ。」
「そうですね。でもあなた方とはもうこれから、敵対はしたくないですね。」
「ダン、私もそう思うわ。まず、彼女たちのご両親が行方不明の件を手伝うのがいいのじゃない。」
メムとヘルバティアは波長があってきたようだ。
「だとしたら、一つ。昨夜のコソ泥の件はまだ奥が深いのじゃないのでしょうかね。」
俺がそう言ったタイミングで、ミアンとミヤンが席に戻ってくる。
「ニシキさんは、まだこの家にコソ泥がやってくるのではと思っているのですね。」
ミアンが眉間に縦皺を寄せながら尋ねてくる。そこへ、
(ねえ、ダン。これはコソ泥じゃなくて襲撃じゃないかしら。8人ね。)
メムが念話術で俺に伝えると同時に、俺たちのいるリビングダイニングの部屋に置かれた何かの鳥の彫像がピロピロと鳴く。
「罠を解除しようとする奴らね。」
「裏の方ね。」
ミアンとミヤンがそう言ってスッと住居裏に向かった。
「メム様は、ヘルバティアがこの絵を片付けるのをガードしてください。」
俺はメムに指示を出す。
「わかったわ。襲撃者は、裏に3人、表の玄関に5人ね。」
「絵を片付けたら、裏の侵入者を一気に片付けてきますので、表玄関の方はお願いします、ニシキさん。」
とヘルバティア。
一気に、かつ静かに俺たちと3姉妹が動き出す。
俺は、玄関に向かい外に出ると、その前に忍者のような黒頭巾を被り、黒いマントで体を覆っていた5人の者がいた。
「あのう、この家に何か御用でしょうか。」
俺はおずおずとその5人に問いかけた。
5人とも機先を制されたのか、少し拍子抜けした感じで、
「こんななりで失礼する。警備隊のものだが、昨日この家を訪問した者がいただろう。」
とそのうちの一人が聞いてきた。
こんな質問している時点で、昨日のコソ泥の関係者と言っているようなものだが、
「はあ、昨日ですか。昨日のいつごろでしょうか?。」
空っとぼけて聞き返してみる。
「まあ、その夕刻ごろだ。どうだ、覚えないか。」
「はあ、その頃なら、夕食を準備していましたので………確か………。」
と、とぼけ続けると5人ともイライラしてきたようだった。
その時、パーンパーン、という音と共に
「ギャー。」
「ギェー。」
という2人の悲鳴が裏手からあがった。
その悲鳴を聞いた5人は短杖を抜き出して
「おい、その家に入れろ。」
「警備隊の捜査だ。」
と言い出すので、
「うるさいんじゃ!!。お前ら昨日の侵入者の関係者だろうが。昨日訪問した2人はもう警備隊の檻の中だよ。」
と、怒鳴りつけて
「集中」
と呟き、5人に対してクイックドローをやってみる。
5人の動きがスローに見える中、拳銃を一息に抜き出して、次々と5人に狙いをつけて魔弾を撃ちこむ。
ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ
5人全員に命中し、全員気を失った。
「ふうっ、ぶっつけ本番なところはあったけど、新しいペンで書いたこの魔弾【岩球】は、何か魔法発動がスムーズな感じだな。」
今回装填していたのは、前にシストラニさんに製作してもらったガラスペンで、叩後紙に書き込んだ『岩球』という文字を使った魔弾である。まだ魔術研究で魔法の発動をさせていなかったが、こんな襲撃があったので、ぶっつけ本番の形で発動させることになったのだ。