100弾 こうなれば俺らの事情告白しよう
俺から見て一番左側の絵には、セダンタイプの乗用車と、大型バイクが描かれていた。
俺から見て真ん中に置かれた絵には、電車の絵が描かれていた。
俺から見て一番右側の絵には、大型船の絵が描かれていた。
「なんでだ、これは。くそっ、何なんだ。」
俺は息が荒くなり、動揺を隠しきれない。椅子を立ち、絵の置いた机の周りをうろうろする。3姉妹も俺の異変と動揺に驚きの視線を送る。
メムは机に前足を置き、3枚の絵を不動の姿勢で眺めている。
その状況がしばらく続いていたが、ミアンが俺に声をかける。
「あのう、もしかしてこの絵に見覚えがあるとか、この絵に何か関係があった、とかでしょうか………。それに、ニシキさんの顔があまりに怖すぎますが……。」
「すみません、少し休憩しませんか。俺も落ち着きたいので。」
「それは構いませんが、でしたら、休憩後に、ニシキさんの今の絵を見た反応について、説明してくれるのでしょうか。」
「………ええ、ああ、分かりました。休憩のために洗面所へ行ってきます。」
俺は、そう言って洗面所へ。
顔を洗い、口をゆすいで。それを6回ほど繰り返す。それをこっそり俺についてきていたメムが心配そうに眺めていた。
(ダン、大丈夫。かなり動揺しているわよ。)
(ああ、そうですか。こうなったらいろいろ、こっちの話も彼女らにしなければならないでしょう。メム様、覚悟はいいですか。)
(………わかったわ。こうなったら一蓮托生よ。)
顔を洗い、口をゆすいだ後、深呼吸をする。
そして、リビングダイニングの部屋へ戻っていった。
戻って席に着くと、俺は開口一番で
「最初の話、助力の話を俺たちは受けることになります。あなた方に助力しようと思います。」
そう言うと、ヘルバティアが
「そう言ってくださるのはありがたいですが、さっきの絵について知っていることを、あの反応についての説明をしてくれるのですね。」
と険しい顔のまま返してくる。
「ああ、この絵について説明したい。と言っても描いてあるものについてだが、よろしいですか。」
「分かったわ、説明をしてくれるかしら。」
「まず、これらの絵に描かれているのは、俺たちがいた世界の乗り物です。」
俺がそう言うと、
「はあ?、えっと………。」
とヘルバティア、
「ニシキさんのいた世界?」
とミアン、
「それって……。」
とミヤン。
「こっちの俺の方から見て左の絵は、乗用車とバイク。真ん中の絵は電車。右の絵は多分貨物船でしょう。」
俺は各絵ごとに描かれているものについて説明にかかる。
「この乗用車、というのは、エンジンという動力によって、動かすことのできる屋根付きの4輪の箱で、手と足を使って操縦して走らせるものです。そしてもう一方のバイク、これは乗用車と似ていてエンジンで動かすが、違う点は2輪であり、屋根がない。これも手と足を使って操縦します。両方とも個人が使うような乗り物です。」
「えっと、一つ質問してもいいですか。えんじん、とは。」
ミヤンが左手をおずおずと挙げて、質問する。
うーん、この3姉妹向けにどう説明しようか。
「エンジン、というのは、分かりやすく言うと、ドラキャに使うホードラを……、道具のようにしたものです。ドラキャはホードラの動く力で進みますが、エンジンもそのような感じのものです。」
ミヤンが少し納得した顔をする。
「次にこの電車、というものは、固定されたレールというものに沿って、特定の経路のみを移動する輸送用の乗り物です。動力はモーターです。」
ミヤンがまた質問しようとするが、ミアンが
「これらの絵に描かれているものの説明を聞いてからにしましょう。」
と言って、ミヤンをとどめる。
「最後に、この絵は貨物船だと思われます。ただこれは、未完成というか、色がない。スケッチの状態ですね。これもエンジンを動力にして海に浮かべて進む乗り物です。」
そう言ってとりあえず絵に描かれたものの説明をする。
「えっと、質問することはいろいろあるのだけど、私たちの両親の行った異世界のものを、両親が描いた絵を説明できたということは、ニシキさんは、もしかして………。」
ヘルバティアが最初に話し始めた時より険しい顔をして、俺に質問を開始する。
「その、もしかしての通りです。俺とメムは、あなた方のいるこの世界の方々からみたら、異世界人と言われる者になるでしょう。」
3人は沈黙する。
………
………
………
ミヤンが沈黙を破る。
「正直、信じられない。でまかせを言っているのじゃないの。」
ミアンがミヤンに反論する。
「だとしたら、最初に3枚の絵を見た時にあのような反応をすることはないわ。あれだけ激しく動揺し、うろたえた。これが一番の証拠じゃない。」
「それに、でまかせや作り話で、あんなにスラスラこれらの絵について説明できないわ。」
ヘルバティアがミアンの反論に同意する形でうなずきながら言う。
「もうひとつ証拠というか、何というか。これは口外を決してしないで欲しいのですが……。メム様、どうぞ、お話しください。」
俺の右側にいたメムが、口を開く。
「初めまして、と言っていいかしら。私は、あなた方の両親が一時的に行っていた異世界の、地球といわれる世界にて女神をしていた、メムと言います。訳あってこのニシキ・ダンとともに、あなた方のいるこの世界に転移したのです。その転移の際に私は、グランドキャットと言われる獣になってしまったのです。」
………
………
………
3姉妹は再び沈黙したまま、完全に驚きの表情へと変わっていった。そして、
「えーーーーーーー。じゃあ、私がお風呂でメムちゃんにしゃべった事や風呂上がりにいろいろやっちゃった事は、ニシキさんも全部知っているとか。」
「まさか、グランドキャットに私たちの言語が理解できるのがいるとは。」
「こ、これは、珍獣認定されるのじゃ。」
3姉妹に動揺が走る。
「落ち着きなさい、ヘルバティア、ミアン、ミヤン。まずは落ち着くことが必要よ。」
メムが声を張り動揺をおさえにかかる。
「そ、そうよね。ファイティングエイプという珍獣は私たちの言葉を理解し、カタコトながら会話するという話を聞いたこともあるわ。それと一緒ね、このグランドキャットも。でも、メムちゃんにした事を思うと……、恥ずかしくなるわ………。」
ただ、ヘルバティアは逆に動揺が激しくなる。
「どうでしょうか、一旦休憩しましょうか。」
今度は俺が逆に休憩の提案する。メムはやれやれといった表情をする。
「そ、そうね。一旦休憩しましょう。」
ヘルバティアが一旦部屋の外に出る。その後をミアンとミヤンが追う。
「ねえ、今度はヘルバティアが洗面所に行ったのかしら。結構あの姉妹、動揺しまくっているわよ。いいの?。」
メムが俺に顔を接近させてそう聞いてくる。
「こうなったら、俺たちがこの世界における異世界人だというのを納得させないと、話は前に進まないでしょうから。でも、ヘルバティアが一番動揺していますね。」
まあ、あれだけメムちゃんメムちゃんと言って、まさに思いっきり甘やかし可愛がりしてきたのが元女神で、しかも異世界の、というとかなり精神的ダメージが大きいのかなあ。
とはいえ、こちらもまだ説明していないこともあるし、俺たちもあの絵に関して、彼女たち3姉妹に関して聞いておくことがあるからな。
「でも私が女神メムとして認めてもらえるのかしら。」
「あの動揺から思うに、あの3姉妹以外の前じゃ、口頭による会話は控えるべきでしょう。」