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第三十六話 復讐の計画

「大丈夫ですか、体調はどうでしょう? 熱は治りました?」

「ん、痛み虫が熱は治したみたい。元からあるやつでさ。……なぁ、鴉座、そいつ本当にお前が抑制出来るの?」


 鴉座よりも蠍座の危険性を感じた陽炎は、思わずそう問いかけると、鴉座は心から疲れたような顔をして、頷いた。


「この馬鹿女はですね」

「……お前が女性を罵るのって初めてだな」

「こんなの馬鹿です、馬鹿! 陽炎様の眼鏡と髪の毛を溶かした上に、意識を奪い取ったんですよ、浴びたのあれ毒ですよ! 皮膚や髪のダメージは黒雪が回復させてくれました」

「嗚呼それで……視界が少しぼんやりしてるわけか」


 眼鏡がないと不便だと思いつつも、それなりに歩けないほどに困るっていうわけではない。それに何より予備の眼鏡が一応引き出しにあるので、それを取って貰い装着してから、ため息をついて、大丈夫と言える根拠を聞く。


「この馬鹿女はですね、物欲に弱い。私の羽一枚で毒と対抗薬を作れるので、それにより交渉をしているんですよ。さっきはちょっと私のミスですが、何とか貴方の体を全部溶かす毒は絶対に使わないという条件で羽を五枚あげました」

「――そんな毒まで使おうと……!」

「そして私もまた、こういう十二宮だから私は私の暴走どころではなくなる。……変な方法の抑制ですが、成功です」



 根拠を言い終えるなり、未だに泣き啜っている蠍座の頭を、「泣くのは止めなさい」と一殴りして、鴉座は子育てに疲れたような主婦の表情をした。

 その表情に陽炎は噴き出す、何か文句を唱えられる前に陽炎は、それより、と言葉を制し、目先の問題を口にする。


「……今、この街でどれくらいの人間が水瓶座の水を何回使った?」

「……陽炎様?」

「俺さ、あんまりいい人するの……――そろそろ疲れたからさ、痛み虫を失う怖さ、思い知らせようかなって思う」



 その時の陽炎の笑みには、蟹座を思い出させるものがあって、鴉座は少し戦慄いた。

 影響されてる、自分が居ないうちに……という心境もあったが、このまま苦痛だけを味わうだけの性格ではないのは元からか、ということを思い出し、鴉座は陽炎専用の笑みを浮かべる。


「……陽炎様、貴方の行動、果物だったら止めるかもしれませんよ」

「――逆の立場だったら? って、聞く。俺は柘榴と劉桜を巻き込んだことも許せない……水瓶が疲れてるのに気づかないで、水をくれってせがむ皆が許せない。俺は聖人君子じゃねぇんだから、やられたらやりかえす男だよ」

「我が愛しの君、その行為はきっと――この街から出て行くことになりますよ? だってそれはプラネタリウムを使うことは悪いこと、そしてそれを持つ貴方はやはりワルイヒトだと示すのですから。屋敷は狙われるでしょう」


 その言葉には邪笑も消えて顔をしかめて、陽炎は難しい顔をする。

 色々と複雑な思いの街だ。交流の始まりであり、憎しみの的でもある街だ。その複雑な思いを察するように鴉座は、改めてそれを覚悟した上でを前提に、宜しいですか? と尋ねる。

 陽炎は、数秒黙り込んだが、頷いた。

 鴉座はそれを見つめてにこりと微笑み、それから現在の街の状況を報告する。

 情報量は流石、長年偽って情報収集専門といってきただけのことはあって、陽炎が居ない間に鴉姿で街を徘徊し、調べ回った様子だった。

 街の人全員というわけではないが、小さな痛み虫が消えてる物が広がってきている、とのことで、水がないと生きられない、そして陽炎が思ったとおり擦り傷ですら多量出血となりそうな前触れの出血になるらしい。

 それを聞くなり、陽炎は、ふぅんと半笑いを浮かべた。


「つまりは小さな傷でも治りにくいってわけか」

「そうなります。復讐魔の貴方は何をお考えに?」

「復讐するのか?」


 声が聞こえたので、ドアの方向を一同は見やると、そこには男と赤蜘蛛がいた。

 赤蜘蛛は説教しつくして疲れているのか、少し表情に元気がなかった。

 片方は、初見の紫色の髪の毛は消えていて、金色に近い茶色の髪の毛をしていた。

 サングラスと独特な長衣で、黒雪だと判る。

 黒雪はゆっくりと歩み寄り、陽炎の顔色を確認してから、言葉の続きを紡ぐ。


「悪さには仕返しを、か?」

「俺は良い子じゃない、なんでもかんでも甘んじて受け入れるわけじゃねぇんだ。我慢の限度ってもんがあるんだ。止めるなよ、黒雪兄さん」

「止めるだなんてとんでもない。元はオレが悪いのだし……。パピヨンの方はきっとオレが此処にいることに気づいているだろうな、昨日あれだけ妖術を使ったから気づかない方がおかしい。だから、今日オレはパピヨンと決着をつける。君は君で、決着をつけなさい。人が必要なら赤蜘蛛に言えよ。ただし、――あまりやりすぎてはいけないよ。皆は信じただけ。騙される方が悪いけど、それでも皆は縋っただけ、奇跡に。だから憎むのなら、あの女だけにしなさい? いいね、判ったね、陽炎君――」

「――うん、なるべく……お年寄りと子供は避ける。あと、本当に重病だった人には」


 素直に頷く陽炎に黒雪はにこりと微笑み――それでも威圧感は消えないが――、陽炎の額にキスをして、それじゃあ行ってくるね、と黒雪は部屋を出て行こうとする。

 だが出て行く前に、立ち止まり振り返り気味に言葉を一同に投げかける。


「そうそう。オレが来ているのばれてるから、もう君の友人らの呪いは解いたよ。もう此処に現れる筈だ。褐色の子の方は。大きい方はもっと時間がかかりそうなほど進行しているからまだ時間がかかる。それから、女と決着をつけるなら夜になる前に――でないと、ハサミは切り刻むよ何もかも。刃こぼれしても気づかないで」

「――? ハサミ……って、え、柘榴回復したのか…?!」


 その大声には答えず、黒雪はにこりと微笑んでから部屋を出る。そして部屋の外で何かが大きくぶつかる音がして、誰かが謝る声が聞こえたかと思えば、黒雪の小さく笑う声が聞こえて、その後――ドアは開いた。

 

「かげ君ッ――!」

「柘榴!!」

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