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第三十一話 「黒い」目玉

 黒雪は奪われると、「黒い」目で瞬いた。

 鴉座は目を少し見開いて驚き、「黒い」目を見つめる。

 ――男の目は、白眼も黒目も真っ黒で、目蓋の中が全て黒い。両目はまるで安っぽい目蓋つきの人形のように人としてはおかしい目だった。


 優しい顔をしていたのに、優しさからいきなり不気味な顔へと変わった。表情は動いていない、瞳が見えただけなのに。

 それを黒雪は己でも判っているからか、鴉座がサングラスを取った行動に小さく笑ってから、サングラスを返して、とやはり同じ声の響きで言う。

 目を見る前から何処か人間のように思えないほど落ち着いていて、でも目を見てからは、より落ち着いた人形のように見えた。

 目蓋付きの黒い玉を両目に押し詰められた、或る程度まで達した年の女の子用安人形。

 腕まで落ちたふわふわの白いファー付きの長衣を肩まで掛け直して――サイズが大きいのだろう――、お願い、と人形は呟く。

 ――その声は一瞬だけ、悲しみの色の感情が揺らめいていたように聞こえて。

 呟かれた鴉座は咄嗟に、すみませんと謝りながらサングラスを手渡す。



「鴉の妖仔でも怖いかな、この目。嗚呼別に落ち込んでいるわけじゃない、妖仔にはどう見えるのか知りたいだけ。オレは物を完璧に自分の意志で喋る妖仔と出会ったことはないし、作ったこともないから……」

「真っ黒です。ただ、それだけ」



 人形のよう、という言葉は言わないでおいた。ただでも嘘はついてない。真っ黒な色の瞳と言うのは思ったものに含まれるから、真っ黒だという印象だけを伝える。

 すると、サングラスをかけながら、黒雪は微笑んで、そうかと少しだけ嬉しそうに笑った。



「他の仔は何て言うかな? ――見せるつもりはないけれどね。オレの目は不快な思いをさせるだけだから、見せちゃいけないって判っている。パピヨンもこの目を見たら諦めてくれるかな?」

「一つ、誰かを盲目的に愛してしまった身として言うならば、その人がどんな姿や負い目があったとしても、突っ走ってしまった以上、元のスタートラインには戻れず走り続けます。それに妖術師はそういうのを好んで、実験材料等として取り出そうとしようと思うのですけれど」

「そう、じゃあこの目はオレと鴉の妖仔だけの秘密ね。陽炎君にも、あの褐色の仔にも内緒。秘密ってワクワクするな――まぁ冗談はおいといて、オレとしての本題に入って良い? 懺悔タイム終えていいか?」



 黒雪はサングラスをかけると不気味なものがすっかり、元の優しいけれど気迫負けしそうなものとして存在する。人間であるような人間でないような。それを言うと妖術オタクとしては喜ぶだろうけれど、心から嬉しいと思う人間は居ないだろう。

 ただ最初から変わらないのは声の調子だけ。荒ぶる事はどんなときでもない。


「毒の痛み虫を得たのなら、蠍座を作ってしまおうと思う」

「……蠍、座。……――待って、待ってください。物凄く嫌な予感がします。過去の記憶を思い出しますので、ちょっと待って……」

「毒を得たのなら好都合だ、それも結構強い毒性だな、この仔達が居なかったら死んでいたのかも。扉は開けてはいけないよ、毒があるときは」



 黒雪はそういって、自分にまとわりつく黒仔の一人の頭を愛しそうにだけど、あまりしつこくはせず撫でて、陽炎の部屋にだけに留まっていた毒の空気を中和して屋敷の中に回る頃には酸素として存在出来るようにする。

 黒雪はそして鴉座を押しのけて、陽炎の元へ歩み寄り、陽炎を軽く揺さぶって起こす。



「陽炎くーん、起きてー、あーそびーましょー」

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