第三十一話 プラネタリウムの主人の改竄
陽炎の塒の、傾きかけた小さな小屋は、まるで今の陽炎のように壊れやすそうなくせに、頑丈な作りだった。
その感想を大犬座に伝えると、大犬座は「陽炎ちゃんはもっと傾いてるわ」と陽炎の捻くれ具合を教えてくれた。
中へ入ると、中は暗闇で、プラネタリウムが力を発動していて、小屋の中に足りない星座を描いていた。
星座は徐々にゆっくりと動き、夜空がまるで動いているようで、どんどんと星が移動していく。
「これがプラネタリウムよ」
そういって大犬座が黒玉をひろいあげて、柘榴に手渡す。
柘榴に手渡されたからといって、持ち主である陽炎は解放されてないので持ち主は変更されてない。
柘榴は渋い柿を食べたような顔をして、小屋の星座を見上げる。
「……赤蜘蛛、黄道十二宮が今すぐ出来そうな他の星があるかねぇ? それも、戦力になりえそうなやつ。動いているから見つけにくいけど」
「……星が足りないから自信はないが……――嗚呼、獅子座があと星一つで出来そうだ」
「それ、多分、柘榴ちゃんからの痛みで得られる星だったんだわ! だから蟹座っちは警戒してたのよ!」
「――それと、魚座も多分、あと星二つだ」
「も、一つ欲しい。出来ればマイナーな奴。黄道十二宮じゃなくて、でも愛属性になりえそうなやつ」
「何でマイナーがいるんじゃ?」
劉桜は偽物の夜空に見とれながら問いかけると、柘榴は腰から長針の巻かれた布を取り出して、答える。
長針はどれもこの中では輝きにくいが、先の方だけは少し鈍く光り、痛々しい。
「あの鴉くんと水瓶座に対抗するためだ。黄道十二宮が必ずしも愛属性とは限らないし、黄道十二宮は呼び出せば呼び出すほど危険。黄道十二宮ほど自我が強く、具現化の力が強いからさぁ。そこでマイナー属性で抑制すんだよ。蟹座が上手いこと鳳凰座で抑制されていただろう? メジャーにはマイナー。マイナーにはメジャー」
「……あたしじゃ結局抑制できなかったわけね」
そう言って大犬座はため息をつき、しばし無言を。
落ち込んでしまうだろうかと心配した劉桜は何を言葉に慰めようか迷っていたが、大犬座の瞳は涙に潤んでなどいなくて、闘志が燃やされていた。
「今呼び出す黄道十二宮を抑制できるようになるわ。あたしだって、マイナーで愛属性なんだから!」
「ははっ、頼もしき星座じゃ! おんしが居て、ほんによかった!」
劉桜はそれは心からの言葉だった。
大犬座が居なければ、この危機を知らず、陽炎とまた出会ったときはきっと自分ですらも拒絶されていただろう。
陽炎は劉桜が大事だが、劉桜にも陽炎は昔からの親友で大事なのだ。
いつ再び貰えるか判らないパン一個を、囚人生活何度も分け合った仲なのだ。
さて、と柘榴はため息をついて、誰か少しだけ明かりを点すように頼む。
「暗闇じゃ何処に針を刺して良いか判らないから。穴から光が出てるのは判るんだけど、流石に細かくこの位置だってのは、判りにくいさぁ?」
「んじゃ、わしが照らそう。丁度ペンライトを持っておるわ」
「じゃあ、わんこ、それからええと……」
「冠座よ、果物」
「あっと、じゃあ王冠。あんたらは、水の宮で待ってて。そこに出来れば鳳凰を連れて」
「鳳凰ちゃんはずっと呼びかけているの。判った、絶対失敗しないでね!」
大犬座は己の命とも言えるプラネタリウムを、主人を助けるが為に柘榴へ預けると消え去り、冠座も消え去る。
健気な星座の姿を見ると星座への考え方を改めたくもなるが――今は、改めてはいけない星座が居る。
柘榴は全神経を黒玉に集中させ、長針の先に近い方を握る。
「……さて、頑張りますか!」




