第四十二話 約束されている未来
「――寝言、か」
白い雲のベッドに眠る青白い人間を見て、死に神は、くす、と苦笑する。
字環にはとても見せられない程、柔らかな笑み――死に神は、もう白くはない。黒い髪を持ち、衣服も色のある物を選んだ。
もう、色素がなくなる心配をしなくてもいいからだ。
――柘榴は、こんな提案をしてきた。それも己が死ぬか生きるかの瀬戸際に。
「おいらとあんたの生態を取り替えよう。おいらがあんたの不老不死を引き取って、あんたがおいらの限りある命になるんだ。あんたは、そう、死ねるんだよ――自然に。出来るだろ、世界最強」
――……それを行って、今、時間は経ち、成功しつつある。
柘榴は、眠り、不老不死を引き継いでいる――その中で、妖術を睡眠学習させたら、眠る中でも、誰かの幸せを願うなんて。
「もしかしたら、失敗かもな――不老不死は苦しむ、お前は、いつか救えない誰かを見て泣き出すんだ……それを救えない僕が悔しい。だけど、この漲る生命力が嬉しいんだ……テメェは、本当に、“ホーリーゴースト”だよ」
朝日が天に昇っている――この白い城は、柘榴に譲ろう。己は柘榴が己の持つ全ての術、術の生み出し方、不老不死の在り方、それらを全て伝授したら、下界で暮らそう。
死と友達になった死に神は、一人、未来を考え、幸せに浸る――下界で暮らすうちに、字環もそのうち覚悟してくれるだろう。
――彼が、己を殺さねば、プラネタリウムは解放されない。
青白い、本来の肌で眠る柘榴を見やり、蒼刻一は眼を細める。
「――陽炎が世界最強の環に入った瞬間、テメェらは敵対する。僕と、字環みたいな関係になるなよ? 僕らだって、元は仲の良い友達……だったんだ」
朝日は、今、何を思って天に昇っているだろうか。
皆を明るく照らし、安全を確保することだろうか。畑に栄養を与えることだろうか。人間に日常を与えることだろうか。
今日、一人でも幸せな人が居ることを、何故か今は、願いたくなった蒼刻一だった――。
朝日は、誰にでも優しく、誰にでも上る――。そんな簡単なこと、どうして誰にも判らなかったのだろうか。
夜だけは、信じていたかもしれない――夜の目を持った、あの人間は。
それでも、夜と朝は、決して相容れない存在だから――先がどうなるか、なんて判らない。
ただ、極端な位置にいるであろうことしか。