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第二十一話 壊れそうなあなた

 

「げほげほげほっ!! げほっ、がぅ……っぐぁあ!!」

「此処は……菫?!」


 ――そこは、“万華鏡”のある、菫の部屋。

 陽炎と鴉座は柘榴の言うとおりの道へ行った瞬間、転送されて、此処へきたようだと気付いたのは菫の服に塗れる鮮血を見てから。

 菫は、激しく咳き込み、まるで吐くような喀血に、陽炎は真っ青になり、鴉座に肩を貸したまま歩み寄る。


「菫、大丈夫か!」

「――っけほ、……ぜぇ……っぜ……だ、いじょう……ぶ。陽炎……馬鹿が。何考えとんのや!! この時間に外に出るなんて! フルーティが気付いてなかったら、おんどれ死んで……死んでたんやで?!」

「……ごめん」

「……――僕より、先に死ぬな。頼むわ、陽炎、後生やから僕より先に死ぬ姿を見せへんでくれ」


 菫は、己を繋ぐ配線を握りしめ、その場に倒れ込む。

 それを見た陽炎は、青ざめて、鴉座も一緒にそこに休ませて、誰かを呼びに行く。

 部屋を出れば、そこには近衛兵が居て、陽炎は慌てて二人の様子を知らせると、至急、救護班が呼ばれ、二人は医療室へ担ぎ込まれた。

 陽炎は、医療室の襖の前で、両手を合わせて、どの神に祈って良いのか悩む。

 オニを、舐めていた自分に嫌気が差す――オニをどうして恐れなかったのか、もしこの国の人々のように恐れていたら、こうはならなかった。

 菫も、ああなってまで己を助けることはなかった、――そうだ、柘榴は。

 柘榴はどうしたのだ? 己を助けて、それから? それから、彼はどうした?

 陽炎が白雪の元へ駆けて、助けを求めに行こうとした時、字環が現れた。


「柘榴様は無事。だけど、彼は重傷だから、ちょっと三ヶ月借りるよって、蒼が言ってた」

「三ヶ月も!? そんなに怪我を……」

「陽炎さん、……――そんなに後悔することじゃないよ。一つ、良いことが起きたんだ」

「……いいこと? この状況にした俺への皮肉か?!」


 陽炎は泣きたい心境で、怒号を飛ばす。泣いて、済めばいいのに。だけど己は男だからとかそういう感情が邪魔をして、泣いてすっきりなど出来るわけがない。

 それを悟った字環は、いつもならばそれを笑うのに、今日は陽炎を何故か励ます。

 陽炎がこんなにも取り乱してるのが、自分の所為ではないから、辛いのだ。自分が原因なら、自分が何とか出来るからいいけれど、自分が原因ではないのならどうにも出来ない。

 字環はそっと陽炎を抱き寄せ、頭を撫でる。

 

「柘榴様が、不老不死になる覚悟をされた――」

「……は?」

「――蒼と契約を結んだんだ。貴方は、彼に覚悟を与えた。貴方は、彼を強くした……大丈夫、此処へ水瓶座クンを呼べばいい。鴉座クンは助かる……菫クンに関しては、どうにも出来ないことだけれど」

「……お前、なら。お前なら、どうにか出来るだろ!?」


 悲しいことだ。陽炎が初めて頼ってきてくれたのに、それは他の男のこと。それも鴉座のことではなく、己がはめて騙させた男のこと。

 字環は黒くなる気持ちを抑えようと努力する。今日ばかりは、この気持ちで彼に接してはいけないように思う。彼は、だって必死だ。今まで見てきたどんな状況より、己を責めていて。彼が傷つけば、それが糧になるのに、字環は少し悲しさを覚えた。陽炎に、目を伏せ、首を振った。


「――僕の力は妖術、菫クンはそれを跳ね返すんだよ。どうにか出来るのは……神霊、伊織しか居ない。彼の力を使っても、寿命は……もう、少ない」

「……ッ! 少ないって……俺の、所為?」

「――貴方にははっきり言った方がいいかもしれない。……さっきの力も含まれてる。だけど、基本的にはこの国の所為だ。……彼が、この国で兵器を作るのにかり出された所為だよ。……彼は、全身配線に繋がれていただろう? あれが、彼の生命力を奪っていたんだ」

「……オニを、殺す兵器を作るための命……」


 それを口にした瞬間、陽炎は後悔した。

 彼の生き様を愚弄したようなものだ、これでは。彼の生き方に文句を言ってはいけない。彼はこの国に尽くすと決めたのだから。

 それでも――それでも、何処か納得がいかなかった。彼がこの国に尽くしても、何が待っている? 死ぬことしか待っていない。オニの力は確かに厄介で、怖かった。

 だけど――……それをそのまま見てるだけでいいのだろうか。

 

「……水瓶座、呼んでくる。有難う、字環」

「――いいえ。偶には、貴方を笑わせたいからね、陽炎さん」


 字環は初めて礼を言われることに戸惑いつつも嬉しさを隠せず、思わず微笑むと陽炎が「いつもそうだといいのにな」と余計なことを言ったので、少しむっとした。

 さて、水瓶座が来るまで、己が水瓶座の力を使おう、月として――。

 

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