第十四話 菫の役目
朝起きればシャワー、なんて便利なものはあるわけなく。
浴場の時間も決まっていて、今は掃除の時間らしく、朝シャワー派の陽炎は不快な思いをしながら、袖に腕を通す。
鴉座の所で話していたが、蠍座が戻ってきてそれどころではなくなったので、密かに退散し、柘榴と話し込んでいた。
「何故菫に伊織は構うのか」「何を菫は仕事としてしているのか」この話題で二人は、色々意見を述べたが、どれも違う気がして、疲れ果てもう投げだし「寝ようか」と寝たのが昨日だ。
それならば直接翡翠に会って話を聞こう、と決意したのが朝起きてから。
何せ己は制限無く会って良いと言われたのだから。
朝、着替えを終えて布団をたたみ、少しせかすように柘榴がたたみおえるのを待って、部屋から出ようとすると、そこには白雪。
白雪がサングラスを二日連続取り外したままで居る状態だなんて珍しくて、陽炎は思わず口を真一文字で黙り込んでしまった。
代わりに柘榴が言葉を発する。
「どうしたの、白雪」
「え、何が? おはようの挨拶しにきたんだけど?」
そういって、白雪は陽炎の頬にキスをして、おはようとにこり微笑む。
その光景を見れば、確かに陽炎は特別扱いされてるのだなぁとよくよく思う柘榴だった。
「いや、何かいつもサングラスしてるのに、今日も昨日も外していたから」
「ああ、これね。サングラスしたいんだけれど、この国では色つき眼鏡は良い印象を持たれないようだからね――」
白雪はそういうと、卓の近くに歩み寄り、ミカン籠の中から、四角い小さな小さなチョコレートサイズの黒い物を取り出す。
それを見せつけて、「これ、オレの盗聴器。ユグラルドから貰った」と誇らしげに語る。
ようは、二人の話を聞いていた、と言いたいのだろう。二人は、言葉を無くし、呆れる。
身内相手に盗聴器とは、この男、何を考えているのか。
「――何でこんなことしたの」
「君たちが余計なことを企まないようにね。筆談も駄目だよ、書く音で判るから」
「まだあんの、盗聴器?!」
「……――昨日は、随分と興味深い話をしていたじゃないか、聖霊の仔」
白雪は襖をしめて、中に入り込み直し、正座をする。
着物に皺がよらないように座り直すところなんか様になっていて、お前はミシェルの人間かとつっこみたいくらいに、堂々としている。
柘榴は頬をかき、陽炎に発言権を委ねる。己が口を開けば、これは喧嘩モードになる予感がしたからだ。
「兄さん、どの話かな」
「ええとね、蒼刻一を殺さないという話し、それから緑銀の仔について。あとね、不老不死――」
「で、どれを一番最初に話したい?」
「そうだなぁ、緑銀の仔についてかな。陽炎君、翡翠に彼のことを聞いては駄目だよ――彼は琴線なんだ、この城では。とても脆い、城壁だ、そのくせ強い効力を持ってるんだ。良いことを城内で聞いた」
「いいこと?」
「翡翠はショタコン、ロリコンだと思っていたら、過去に一人、大人でも愛せた人が居たらしい。その人は、不幸な事故で亡くなったが、子供を身に宿してから、数々と不思議な出来事が彼女に起こった――」
白雪はお茶を自分で作り、緑茶を口にして、苦い顔をした。
こう見えて白雪は甘党なので、ただ苦い、それも口の中でふわっとした粉が広がるようなお茶は苦手なのだ。
見かけもよく見てみれば、粉がふわっと口の中と同じように浮いている。
まぁそれは世間で言う高級茶、玉露なのだが、どんなに高級茶でもこの国で冷やしあめと飴湯に勝てるものはないな、と密かに白雪は思った。
「その子供の名前は菫――……彼はなるべくして、能力を持ったんだよ。でもその子供を生け贄に、捧げなくてはならない物がある」
「……――何ソレ」
「君たちが知りたがっている、緑銀の仔の職さ。――オニ殺しの兵器を作っている。否、あれはオニどころか他国も滅ぼせるかも知れない、と意見を聞いたけれど」
「……それが何でスミレの寿命と関係してくるの?」
「――決まってるじゃないか。彼の能力の全てを、その兵器に記憶させるべくして能力を全開で使ってるからさ」
「は?!!」