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第十四話 気に入らない

 陽炎は鴉座の腕を引っ張り、玄関へと連れだし、外に出る。

 庭では柘榴が手入れした果物が実ったり、小さな家庭菜園があって、少し遠くには白い大きめのブランコが見える。よくあそこで悪魔座が幽霊座を連れて、こいでいる。

 陽炎はふと立ち止まり、そのブランコをじっと見つめる。まるでそこに誰かが居るような目で。実際は誰もいないというのに。


「なぁ、幽霊座っていつ起きるんだ?」

「……さぁ、蒼刻一様でも分からないそうです」


 鴉座は答えた表情にほんの少し哀愁を漂わせ、遠い目をする。

 陽炎は、何故か分からなかった。幽霊座や悪魔座の話になると、鴉座は決まって、決して見えぬ雲の人を見ているような眼差しで、哀愁を漂わせる。

 何かに辿り着きたいのに、その足下にも及ばない使者、そんな感じがする。

 以前鴉座に直接聞くのは気が引けたので、悪魔座に聞いたことがある。すると悪魔座はくすくすと笑って、陽炎の頬にキスして耳元で囁いた。

 

「焼き餅を妬く必要のない存在だね。気にすることないね。これはカラス兄さんとの秘密なんだね――誰にも言えないことだから、我慢するんだね」

 

 誰にも言えない秘密を、言えとはいえない。

 誰にだって侵入してはいけないテリトリーがあると思う。

 例えば己だって盗賊時代のことを聞かれると、答えられないし、囚人時代のことも劉桜のこと以外話したくはない。

 そういうのを鴉座も分かっているから、無理に聞こうとしない。だから、己もそういうのは聞いてはいけないと決めていた。

 

 だけど、いけないことと、気になることは違うかと言われれば、また話は別なのだ。

 

(――お前は、何を考えている? 幽霊座に対して。どんな思いを抱いて居るんだ?)

 

 陽炎は、嘆息をついて、走り出し、蓮見を捜す。

 

 今度来るときは気晴らしに武器屋でも見に行って、新しい武器でも手にしようかな、なんて考えて。鉄扇の五月舞は、鴉座から貰ったものなので、手放したくはないが。そんなことを考えていたのに、まさかこんなことになるなんて。

 

「何処から探しましょう?」

「レゾン通りのアラノーラ……って、あれ? あいつ、まだ居たのか」


 広場まで来ると、鴉座が聞いてきたので、答えるとその視界の端に緑銀が見えたので、視線を其方に合わせると、そこでは何かを物色している菫が見えた。

 鴉座は菫に会ったことないので、陽炎の言う、あいつとやらが誰だか分からず、きょろと辺りを見回した。

 陽炎は鴉座に菫を指さし、説明を。

 

「あいつ、赤蜘蛛っていう俺が昔世話になった人に仕えてるみたいなんだ」

「そうですか、挨拶に行きますか? ついでに蓮見を見かけてないか、も」

「ん……そうするか。おーい、菫ッ」


 陽炎が声をかけると声に気付かない菫。二度目は辺りをきょろきょろとして、声の方向を確かめ、手に取った商品を置いて、陽炎達の方を漸く振り向いた。

 菫は眼鏡の中の目を見開き、驚いてから、両手をぶんぶんと振る。

 そしてすぐ側にあった大きな棚にぶつかり、肘を大事そうにさすりながら、やってくる。


「陽炎」

「よ。まだ帰ってなかったのか、なぁ蓮見知らないか?」

「んー。帰りの便が、遠すぎるからか、滅多にでぇへんねん。まだかかる言うてたわ。せやから、土産の物色してたん。自分用の。蓮見ちゃんは見とらんで。……ん? こっちのあんちゃんはどちらさん?」

「あ、鴉座だ、こっちは。プラネタリウムの妖仔」

「――へぇ」


 菫は鴉座のよくない話を知っていた。

 赤蜘蛛は菫が陽炎の生まれに関する記憶を弾いたとき側にいたので、同じく陽炎を忘れるのは免れた。

 その赤蜘蛛から鴉座がどんなことを陽炎にしたか、知っているのだ。

 他の星座に関しても。だからか、蟹座と水瓶座と鴉座は許せないのだ。

 菫は、目を半目にして、値踏みするように鴉座を下から上まで見つめた。

 鴉座はそんな目をされる覚えがないので、目を眇めて菫を見やる。ふと訪れた変な空気に陽炎は何だか居心地の悪さを覚える。

 

「……どうしたんだよ、菫」

「いや、よぉこんなろくでもない奴と居れるなぁと思うて」

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