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第十五話 仕組まれた衝突事故

 陽炎は人通りの少ない大きな通り道を歩く。

 煉瓦造りの町並みで、時折商店街アピールの大道芸がそこで行われる程、広い。が、人はあまり通らない。人が集まるとしたら、その月に一回行われる大道芸目当ての客くらいだろうか。

 馬車が幾つかゆっくりと走っていて、蟹座に注意しろと言われる。

 盛んな交通の出入り口でもある。乗り合い、貸し切り、待合いなど馬車にも種類が様々ある。

 乗り合いは短い距離を安い運賃で行ける見知らぬ顔が寄せ合って乗る大きな馬車だ。貸し切りはその名の通り。待合いは遠い距離専用の乗り合い馬車みたいなものだ。

 もしも、そんなこの道に蓮見が居たら大変じゃないか、と少し不安になりながらも、陽炎は必死に蓮見を捜す。

 

「はーすみー!」

「折角二人きりで外に出るのが、ガキ探しとは色気がないな」

「お前と色気あってどーすんの」

「浮気すればいいだろうが、そういうスリルも悪くないだろ?」


 蟹座がくすくすと戯れに陽炎を口説くと、陽炎は戯れだと分かっているから、馬鹿と笑って、軽く小突く。

 そして、真剣な顔つきに戻り、別方向を指さす。あちらを見てこいということなのだろう。

 待ち合わせはこの通りで、と決めておくと、二人はばらばらに散り、蓮見を捜すが、どうしても見つからない。

 待ち合わせの場所に先に蟹座は戻り、ふと何かを考える――そして、顔をしかめっ面にしたとき、陽炎が戻ってきたので、己の良くない予感を告げることにした。

 

「陽炎、普通は厚化粧が気配で探すと思わんか?」

「……――え? どういう、ことだ?」

「…………何かきな臭い。嫌な感じがするんだ――」

「よく、言ってる意味が、わからな……」

 

 その時、急に通りに暴走馬車が現れ、猛烈な勢いで走ってきた。馬は陽炎を目指している。

 人々は避けて、蟹座は慌てて陽炎を引き寄せようとしたが、その時、何者かの術で身動きが出来なくなり、それは陽炎も同様のようで、焦った顔をしている。

 蟹座は全身が寒気だち、大声で陽炎! と叫ぶ。


「陽炎! 手を伸ばせ、そこから退け! 逃げられないなど、許さん! 早く! 陽炎!」


 手を伸ばしたい、動かない己の手先がもどかしい。必死に叫び、漸く一センチだけでも動かせたとき――。

 

 

 嗚呼、馬車が、馬車が――。

 

「陽炎!」

「蟹座!!」

 

 悲鳴が天を劈く。

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