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第十話 愛しい貴方に銃口を

 

 朝――、それも早朝の誰もが寝てる時間だ。起きているのは百姓か、漁師くらいだろう。

 そんな時間にふと鴉座は目が覚めて、ふと眠れず、このまま起きていようと朝の支度をする。

 朝の支度を調えるなり、鴉座はタオルを用意してから台所へ。

 台所で、昨日沸騰させてから放っておいた水に檸檬汁を絞り入れて、それを水筒に入れる。

 それから小腹も空いてるだろうと、昨夜作った夜食の残りの材料で小さめのサンドイッチを作って、水筒と共にバスケットへ入れて、外へ出ようとする。

 白雪の部屋の前で、何か会話が聞こえた。

 

「……しよう、オレの所為だ」

「あなたの所為ではありませんわ。仕方がない、仕方がないんです」

 

 牡羊座と白雪、夫婦の会話のようだ。

 そのような会話は聞いては駄目だろうと、鴉座は空気を読みすぐさま去ろうとしたが、そこには射手座も居たらしく、射手座の声を耳にすると、立ち聞きしてしまう。

 彼の声はどうにも耳の方が気になってしまうようで、鳥の性分かも知れない、狩人への。

 

「蓮見が狙われるとは思わなかった――保父失格で御座る」

「人馬の妖仔、君の所為じゃない――この子を守らなくては……」

「……――兎に角、黙認するしかないのですね」

「それどころか、昨日、呉とやらが来て、……待て、気配がする。誰だ、そこにいるのは?」


 扉が開いて、鴉座は目を見開く。白雪が己に気づいたからではなく、目を見開いたのは彼の声が鋭さがなく力なかったからだ。

 今にも倒れてしまいそうなほどか弱い声。

 鴉座は扉を開かれれば片手をあげて、すみません、と立ち聞きを謝罪した。

 白雪は力なく笑い、扉にもたれ掛かりながら、此方を見る。


「今の話、聞いた?」

「ええ、少し」

「――陽炎君と聖霊と亜弓をさ、呉が渡せって言うの。邪魔させないよ」

「白雪ッ!」


 先手必勝とばかりに、彼らしくなく手の内を見せる。

 鴉座は一見ただの挑発と見えるそれに、彼の心の「助けてくれ」という叫びを感じ取り、にぃと片笑む。

 それを見ても白雪のぐったりとした様子は元気にもならない。だが構うものか、彼もきっと己に構ってはいない。


「ご安心を。外部には漏らしません――邪魔もしません。だから、何があったか、お教え下さい」

「……――人質が居る。蒼刻一が母国に渡そうとしている」

「そう、情報はそれだけあれば結構。後を知ってしまうと、先にお前を殴ってしまいそうですから、もう去ります。射手座、それから慈悲深き母君、幸運を」

「……鴉様」


 牡羊座はぽろぽろと涙を零し、ぺこりと頭を鴉座に下げた。

 鴉座はそれを見て牡羊座の頭を撫でると、バスケットを持ち直して、庭先に向かう。

 庭先には朝の鍛錬を一人でしている陽炎の姿。

 彼は偶に朝早く白雪とこの時間に鍛錬をしている。少しでも痛み虫のない自分が非力にならないようにと。

 人並みより上、賞金首になったら金貨十枚を賭けられるレベルなのに、それだけじゃ彼は納得しない。白雪を越える強さにならないと納得しないのだ。


「お、鴉座。おはよう。どうしたんだ?」

「いえね、気苦労が。……――ねぇ、陽炎、少し私、残酷になってもいいですか?」

「いいよ」


 随分と簡単に言う彼に鴉座は、ため息をついて、己の腰から黒鉄を取りだし、その先を陽炎に向ける。

 銃口を向けられても陽炎はそれを夜色の目で見つめてから、鴉座に視線をやるだけ。

 鴉座は、口の端をあげて、陽炎を試すようにセーフティを外す。

 

「こんなことより、もっと酷いことなんですけれど」

「お前が俺に対して残酷になるときは、大抵俺絡みだから俺がいいって言えばいいんじゃない?」

「陽炎」

 

 鴉座は、指先で引き金を絞る。


「死なないでくださいね」

 

 かちゃり。

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