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第十六話 亜弓を解放しろ

「仮ご主人様……本気、な、の?」


 ゴーストは遠慮がちに呉へ問いかける。

 ゴーストの姿は今はただの人間には見えない、半透明の姿を持っていた。

 半透明姿で、呉を、蒼刻一の居る雲の城への階段を連れ添って歩いていた。

 呉はにやりと不敵に笑い、こくりと頷く。


「そん、なことしなくて、も……カラスさまが目覚めるのを待てば、いい、と思ううう」

「そんなの待てないな。すぐにでもあいつに、愛してると告げたい――そして、嫌いだと言われたい」

「き、きら、い? おかし、いんじゃない? 普通、好き、とか……」

「聖霊の話を忘れたか、ゴースト。ガンジラニーニは愛してると言うと、人を殺してしまうんだ。お前のように、その力は無敵に近い。だから、彼らは愛してると言わない代わりに、嫌いだと言うんだ」

「……ぼくぅのような、力? ……じゃあ、あゆ、みさま、も呪い……の力?」

「ああ。だから、交渉しに行くんだ。あいつだけ例外にしてくれと」

「……――そう、なんだ」


 ゴーストは、親近感を持った。

 彼には人を呪いで殺すという力があった。その力に彼は怯えている。


(同じ人殺しの力なのに、どうしてあんなに元気だったのだろう――)


 ゴーストは不思議ながらも仲間を見つけたような暖かい気持ちに癒され、気づけば微笑んでいた。

 微笑むと同時にデビルの声が聞こえて、デビルは何処か不機嫌そうだった。


「ゴースト、聖霊に懐いちゃったかね?」

「……アクマ。うん、ぼくぅ、あゆ、みさま、嫌いじゃない……お兄ちゃんみた、い」

「ゴースト! 見た目的には君のが年上だね」


 デビルはより一層不機嫌な顔をして、ゴーストを珍しく睨み付けた。

 ゴーストは呉の影に隠れようとするが、同じくらいの背丈の為、隠れられないで、火の玉になることも出来ないので泣きそうな顔をする。

 珍しくそれを慰めることもしないで、デビルは呉に諭すように話し掛ける。


「……仮ご主人、向こうに行ったら保証は出来ないね。ぼかぁ蒼刻一様の妖仔だし、ゴーストもだね。何より、僕らには恩があるね。彼と、カラス兄さんのモデルに」

「保証なんて要らねぇ、自分一人でやる」

「……まぁ、でも少しは手助けするよ。……――情がつもると困る。これだから、いやだったんだ、プラネタリウムの主人以外に懐くなんてね」


 デビル――悪魔座はため息をついて、ゴースト……幽霊座の手を繋いで、城へと早く行こうとする。

 呉は苦笑を浮かべながら、城へと向かい、そこで城主と対峙する。

 城主は何世紀過ぎたか分からない年を見せないで、若々しいまま、白い衣装で現れる。

 白き妖術師、蒼刻一だ。



「よう、坊主。久しぶりだな」

「――用件は、分かってるんだろ? お前は、何処の国でも都合の悪い言葉は聞き逃さない。特に、聖霊に関しては」

「……ウイ、亜弓は聖霊同士にしか渡さない」

「……――それだけじゃない、あいつのガンジラニーニの呪いも解け」

「何故、そこまで亜弓に拘る? ただの風花のトップじゃねーか」

「――思いを寄せるには十分な理由じゃねぇか。男は強い者に、惹かれるのは道理だろ? 蒼」


 蒼刻一はこれ以上何を言っても意志を曲げる気などなく、例え育て親代わりの己と対立してでも、亜弓を解放しろと、呉は言うのだと悟ると、目を半目にして睨み付けてくる。

 そして口元だけで笑みを浮かべて、手元をちょちょいと動かし、幽霊座と悪魔座を手招く。

 二人は何かを言われる前に一度、呉にぎゅっと抱きついてそれから蒼刻一のもとに戻った。

 二人が素直に戻ると二人の頭を、蒼刻一は撫でてやる。幽霊座は物凄く嬉しげに笑っていたが、すぐに呉のことを思い出すと複雑そうに笑った。


「決闘か。否、テメェに相応しい舞台を用意してやるよ――それに耐えられたら、テメェの条件全て飲んでやる」

「言ったな? 早速、舞台を用意してくれ。俺は気が短いんだ――最近、気づいた」

「最近も何も、元からだろう? じゃあ、城の中に入れ」


 蒼刻一が城の中に消えるように入ると、それに続いて三人も入っていく。


 命を賭けた戦い。

 全ては愛の名の下に。



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