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第十話 海幸からの告白



「海幸ーぃ、此処に居たんだ?」

「え、あ、ああ……ちょっと、見張りに出てた所」

「そっか、あれ、顔色悪いよ海幸君」


 亜弓は海幸のテントに行っても海幸が居なかったので、少し林のあるところに探しに行く。探し始めて三十分くらい経ってから横たわる丸太の上に海幸は座っていた。

 冷めてしまったつくねを片手に近づく。

 海幸は亜弓に気づくと、下に向けていた顔をそろりと上にあげて、亜弓の顔を刮目してきた。

 亜弓は首を傾げて、海幸の隣に座ると、つくねの串をはい、と手渡した。

 だが受け取る様子の無い海幸に不審に思い、どうしたのかと尋ねようとしたとき、手の内にある綺麗な宝珠を見つけた。


「わ、それ綺麗だね」

「あ、え? ……ああ、これか」


 海幸は肘を膝において、頭を抱えるような姿勢で亜弓を盗み見た。

 亜弓はきらきらとした眼で、綺麗だな、と興味深そうに宝珠を眺めている。


(――何を、迷う必要がある? 嗚呼、だけどこんなの本当に卑怯じゃないか――)


 海幸はため息をついた。それを見て、亜弓は、じ、と己を見つめてから、疲れてる? と尋ねてくる。

 そういう点の嗅覚は流石の物で、己が気疲れしているのに気づいているので、無理に隠そうとは思わなかった。

 都合の悪いところは言わないだけで。


「まぁね――」

「そんなに小難しいこと、会合で話したの? わぁ、僕行かなくて正解だなぁ」

「頼むからね、おにーさんからのお願いだからね、偶には難しい話しも頭に入れて頂戴ッ」


 しくしくと泣き真似をすれば笑い声が返ってくる。

 亜弓が好きなのは、きっとこの温度が気持ちいいのも理由の一つなのだと思う。

 気疲れしたときに、彼の声を聞くと、落ち着くのだ――。

 海幸は気持ちを確かめるとはにかんでから、額を抑えて、はぁとため息をついた。


(これを、手に入れたいけれど――でも妖術に頼るのはやめだ。実際、まだ彼も俺も勝負の位置に立ってない。ちゃんと真っ向から、挑んでみよう)


「あーゆー、おにーさんお願いがあるんだけどー?」

「何ー?」

「この宝珠、鮎の力で粉々にしちってください」

「え? こんなに綺麗なのに?」

「うん、綺麗なんだけどこれわるーい奴の妖力が籠もってるから」

「ふぅん?」


 亜弓は海幸から宝珠を手渡されると、いとも簡単に握力だけで、粉々とまではいかないが、壊した。

 それが壊れると海幸は憑きものが取れたようにスッキリとした顔で、微笑んで礼を告げた。

 それに亜弓が不思議そうな顔をしていると、海幸が急に真剣な眼差しを己に向けてきたので、亜弓はきょとんとして、口を閉ざす。


「なぁ、鮎、亜弓。俺ね、お前のこと好きだよ――」

「有難う、僕も愛してンぜ、みゆちゃん」

「待った、たんま。俺の話、頼むから最後まで聞いて? 難しいことは言わないから。……恋愛対象として、好きなの」

「へ……」


 亜弓はつり目を見開き、海幸の目をじぃと見つめた。

 否、見つめたのではない。反らせないのだ、彼の熱の籠もった眼から――雄の眼から。

 亜弓はどきりとはしたが、困ったような表情で頭をかいて、唸る。


「冗談だぁ」

「冗談じゃないよ。なら、何したら信じる?」

「好きならキスしてみろって、わぁ、やめて、信じるッ!」


 言ったすぐそばから体勢を変えて己に迫ってきた海幸に亜弓は慌てて、こくこくと頷く。

 海幸は目を細めて、亜弓と、郷の女の子が聞けば一発で惚れるような美声で呼びかける。

 亜弓は、上目遣いで、視線を海幸に向けて、おどおどとする。


「冗談じゃないの?」

「冗談にすんな。都合の良い存在にすんじゃねぇよ。いつまでもハイハイソウネって頷く役はうんざりなんだよ」

「……難しい話じゃないか。聞き流せない内容だけど」

「うん、ごめんね。だけど、俺、ずっとずっと好きだったんだ――柘榴とつるんでる頃からだと、思うよ。昔は女の子と居る方が楽しかったのに、いつからかな、お前が気になってたんだ――」


 海幸は雄を臭わせる目をくにっと歪め、苦笑を浮かべ、さらりとした髪の毛をかきあげる。

 そして今一度、その目で亜弓を見やる――亜弓は唖然としていた。

 亜弓はどう答えようか、慎重に言葉を選んで、海幸を出来るだけ傷つけない為の気遣いをし、視線をうろうろとさせる。


「……――僕は……違うと思う。恋愛対象としての好き、じゃないと思う」

「ん、だけど、さ。俺のこと、意識出来るようになったっしょ? これから俺、点数稼いで、好きにさせっから」

「……――うわぁ、海幸からそんな言葉、僕に向けられるなんて考えたことなかった!」


 亜弓は心底困り果てたぞ、という表情で、ため息をつく。

 そんな顔をされては少し悲しいが、でもこれで自分を意識してもらえるかと思えば嬉しくなる。

 宝珠に頼らずに良かったと思いながら、海幸は亜弓に微笑みかけて、ゆったりとした動作で髪を梳いてやる。


「呉の所には行くなよー?」

「……え?」

「鮎、呉のこと気になってるんじゃないのか?」

「……――分からない。でも、不思議な感情はある」

「不思議な感情、か。それが何かは、今は聞かないよ。暫くは恋愛対象として居たいからな」


 海幸がくすくすと笑い、亜弓の髪に口づけてから、立ち上がり串を受け取り、それを片手にテントに戻る。

 その後ろ姿を見つめながら、亜弓はため息をついた――少しだけ赤い顔で。





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