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第十四話 夜の会話、内緒の会話

 気づけば、微睡んでいた。

 劉桜と会って、それからお酒を飲んで。はしゃぎすぎて、果実酒以上のアルコールの高いお酒を飲んでしまって、それから……?

 気づけば、いつもの塒の中で、小さな小屋の中。

 真っ暗闇だから、今は夜なのだろうか。それとも、プラネタリウムが発動して偽物の星を見せるために暗闇を作っているのだろうか。



(酒を飲んで、ええと――?)

 そこから先が記憶がない。いい加減、記憶が無くなるまで飲む癖を止めなくてはと思いながら起きあがると、小屋の中には星々が輝いていて、これは人工的な闇の中だと思い、陽炎は無意識に安心する。何故そこで本物の夜空ではいけなかったのかは判らない。


(どれがどの星座か判らない――)

 少しは勉強でもしないと怒られるだろうか、と皆の顔を思い浮かべて苦笑をする陽炎。

 痛み虫を何処にどう集めるか勉強するだけで、星座が何を作れるかも判るのにしない己は怠惰で面倒くさがりで。

 でも一つ言い訳をさせてもらうならば、狙った星座ではなく偶然出来る星座を作れるのが嬉しいから己は勉強しないのだ。何が事前に作られるか知ってしまうのは楽しみが半減してしまう。十二宮以外は。

 流石にそろそろ蟹座の対抗勢力が居ないと、このままではDVの餌食だ。


 ――ふと気づくと、隣に水瓶座が居た。

 水瓶座はどうやら、酒に溺れていた今の自分を気遣ってか起きていたようで、眼があうと、誰もが見とれてしまうのでは無かろうかと思うほどに艶やかな笑みを浮かべて、起きましたかと安堵の息を漏らした。

 欠けたお椀に水瓶の水を注いで、水瓶座は酒さましに飲ませようとする。

 それを飲むと嫌に鼻につく酒臭さが一瞬で無くなる癒しも含まれている。

 陽炎はそれを受け取って飲むと、何だかもっとその水を飲みたくなってしまう。水なのに逆に喉が渇いてしまうような。

 いつもこの癒しの水を飲むとそうなるので、自然治癒能力がいつかなくなってしまうのではないだろうかと心配になるのだが誘惑に負けて、もう一杯と水瓶座に頼むと微笑んで水瓶座はもう一杯入れてくれた。



「……有難う」

「いいえ。陽炎様。この水は陽炎様のためだけの水なんですから」

「ええー、俺、その水使って、偶に怪我治療しますよーって怪しい商売しようかなぁって思ってたんだけどなぁ」

 本気ではない。癒しの水は小さな痛み虫を消してしまう効果もあるから、自然治癒能力は消えて、擦り傷でも大変なことになってしまう。

 だから、そんなことをするわけがないのに――。

「他の方になんて飲ませたら駄目です。絶対に」

 水瓶座の眼は真剣で、その眼にはいつものネガティブさが消えていて、そして陽炎の眼には何処か色っぽく見えてしまう。



(――あれ、何、何で。いつもと水瓶座は変わりないはずなのに)



「陽炎様、お水もっと飲まれますか?」

「いや、要らない……俺、何か変だから、寝て酒冷ますよ」

 そう言って陽炎は横になり、健やかな寝息を立てる。


 水瓶座はそれを見て、くすりと笑う。


(――後、少し。もっともっと水を飲む機会がくれば、この方は僕しか目に入らない。だから、水を使っても良いんだったら、もっともっと――)



「もっと、怪我させてもいいよ、蟹座。それに、他の人間方。陽炎様を殺したときは、全員水浸しにして、魅了した上で狂わせて地獄を見せるけど」

「物騒なこと呟いてるな? お前に言われずともこいつは勝手に扱うが、怪我はお前には治癒させぬ――それは、許さない」

 蟹座は闇から抜け出るように、現れて、陽炎を見やってから水瓶座を見やる。

 水瓶座は蟹座の常人よりかは麗しい容姿に嫉妬しながらも、睨み付けて笑ってやる。

 その睨み付けた凄惨な顔も美しいのは己だというのに、それを自覚もしないうえにマイナスとしてしか受け取れない水瓶座は、水でしか誇れない。



「便利な水だな。依存性のある惚れ薬。それが治療ならば、飲んでても気づかない」

「この水は誰にも渡さないよ。陽炎様も。でも奪われそうになったときは、水責めにして吐いても吐いてもこの水を飲ませてあげる。この方はありのままの僕を好きにはなってくれないから、盲目的に嫌な部分も見えないくらい僕を好きになってくれるまで」

「……或る意味、一番のサドだよな、お前は。でも無意識にそいつは気づいてるみたいだな? 今までの主ならば、痛み虫の消滅などに気づかずに五杯は一晩で飲んでただろう。それに昼間オレに殴られた時も頼るはずだ。だがそいつは自然治癒を選んだな?」

 蟹座は色艶やかなのに闇にも紛れた瞳を輝かせて、ははっと快活に笑う。その顔は心底楽しそうで。

 それとは正反対に美しいのに醜い感情を表す顔で、水瓶座は蟹座を見やる。

 蟹座は視線を受け止めて、片眉だけつり上げて、口だけで笑う。


「……それを今まで見てて止めなかった君のがサドだと思うんだけど、何で今回に限っては構ってくるんだ?」

「それは決まってるだろう。こいつを嬲って良いのは飼い主のオレだけだからだ。それに盲目的になるぎりぎりまで誰かに夢中になってる獲物をかっ攫うのはとてつもなく、楽しいことだ。別の奴を映していた瞳が、自分を映す楽しみ、教えてやりたいよ――」

「そこのサド二人」

 偽りの夜闇を切り裂くような声が聞こえた。

 それは、その夜闇を姿に映し出す黒い生き物、鴉座。黒い髪は闇に紛れても可笑しくないくらい漆黒なのに、それは紛れることはなく、何故か存在感を示していて。

 鴉座は、冷たい目線で二人に声をかける。



「昨夜の言葉はこの方には聞こえていたようだ。企むなら、この方の前では慎め」

「おや、聞こえていた? じゃあ昼間にお前のように愛とやらを囁いて、また流血させてやろうか。頭にショックがいけば、忘れるだろう」

「馬鹿カニ。痛み虫がそんなの治しちゃうよ。嗚呼、昨夜の言葉が聞こえていたなんてッ。益々嫌われてしまう。もっともっと水を飲ませなければならなくなったじゃないですか。君たちの所為だ」

「――まぁメジャーなお二人には悪いですが、私は信頼されてるようですよ? 私は何があっても痛くも痒くも無いですね」

 その言葉にはその場が凍えて、ひんやりと冷風が漂うのではないかというぐらい、張りつめた。

 その場の空気に鴉座はくすくすと笑みを零して、教えてやる。この優越感を。主人は彼らには見向きもしないという事実を。それには己も含まれてはいるが、そこは見ないふりをした。

 なぜなら、あの隠れた場所に、という例え台詞はきっと自分を当てはめて言ってるからだ。

 見つからない場所なのに、底なし沼の水中なのに、救ってくれた大好きな人。

 愛しさを感じつつ、その愛しさを己にだけ宿したいとも思うが、今は本来の能力を見せるのはやめなければ。あれは同時には出来ないのだから。


「この方はメジャーな黄道十二宮には興味がないようです」

「……――へえ」

「加えて、私は彼にとって初めて作られた星座。そして、彼は同情を誘うような方には弱いみたいです。嗚呼、水瓶、お前のような意図的な同情ではなくてな?」

「……ッ! 僕は、別に同情されたいからとかじゃ……」

「違ったのか? オレは同情されたがりだと思ったがな。昔からな? それで昔の主人どもは騙されて水を飲んで、お前に溺れていったか。よく覚えている」

 蟹座は攻撃には治療、という具合で毎回作られていたのを覚えている。

 作られた場にいつも彼がいることを覚えている。だからこそ、その同情心を引き出そうと魂胆見え見えの行動には今の歪んだ蟹座には、腹がよじれるほど楽しい笑い話だ。


「まぁとにかく、水だけに頼っていてはお前ではオレと鴉には勝てんよ。オレはどんなに離れたくても唯一の攻撃力がオレだから離れられまい。こいつは自然治癒の有効さも知っていて、痛み虫ももう百だ。お前なぞいらんだろう?」

 そう蟹座が笑ったとき、陽炎が寝返りを打つ。

 それにぎくっとした三人だったが、やはり寝息のままで安心したがまた会話を聞かれては大変だと言うことでお互い姿を消した。


 だが別の人物が騒いだ。


「あんたらホモには、絶対陽炎ちゃんは渡さないんだからーっ!」



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