第三話 有罪無罪
「だーかーらっ、何で鷲座っちが有罪なのよー!」
「有罪ッ有罪ッ有罪ッ」
「……――ふむ、許可無く触ったのがいけなかったのでしょうかね。それとも妖術師だから? ――でも白雪も妖術師なのに、小生より罪深いのに、無罪と言われましたし……――あ、柘榴。魚座どの、陽炎どの」
何というか不思議な光景だった。
大犬座が絵本を開き、絵本に怒鳴っていて、絵本からはデフォルメの裁判官みたいな絵が飛び出ていて大犬座の頭をぺしぺしと叩いていて、鷲座はそれを眺めていて、白雪が鷲座の手相を見ているという変な光景だった。
鷲座が陽炎達に気づくと大犬座は嬉しそうに、そして半べそで「陽炎ちゃーーん!! へるぷみーーー!!!」と助けを求め、白雪は此方を見ずに、「やぁ」と短く挨拶しただけだった。
「何、この光景」
「――それがぁああ、嗚呼ッこの絵本の所為で陽炎ちゃんに抱きついた挙げ句尻を揉むことも出来ない!」
「揉むな。何処の親父だ、お前は」
陽炎は大犬座もパワーアップしてるなぁとため息をついて、何だか記憶のない奴はパワーアップするのだなと思いを馳せかけた。
鷲座は白雪を振り払い、柘榴に「言葉に変化はありません」と報告してから、陽炎にぺこりと頭をさげる。
「陽炎どの、どうして此処に? 柘榴が許可したんですか? 何が起こるか分かりませんよ」
「どんな妖術なんだよ、あれ」
「大犬の仔――というより、持ち主の手から離れない絵本、としか今は言えないかな。それと、何故だか有罪と無罪を口にする。他の星座の妖仔や、うちの家内も試したんだけれど、鷲の仔だけが有罪なんだよ――」
「ええ、鷲座が? 一番無罪とかいう言葉に近そうなのに。寧ろセクハラ発言連発の大犬座が無罪なのが驚きだよ」
「ああああああ、陽炎ちゃんも言ったぁああ!! 陽炎ちゃんで最後から三番目よ、それ言ったの!!」
つまり残りは鴉座と他の誰か一人しか言ってない者が居ないと言うことだ。
彼女のセクハラぶりは認知されてきている。
それはそれで、恐ろしい。このような子供が、このようにセクハラ親父のような発言することが当たり前になると言うのは。
「言ってない星座って誰だよ」
「鴉座っちとー射手座っち」
「……嗚呼、射手座はそういうのは疎そうだもんな」
「言われない理由がそれって何!? あたしの存在価値ってそんなエロかった?!」
「大犬座、最近えろかわ、っていう言葉が流行ってるらしいから安心しろ」
「えろかわ? ああ、えろくて可愛いね! じゃあいいの……かしら?」
真剣に悩む大犬座が何かを言おうとしたときだった、陽炎に向かって絵が有罪! と大声出したのだ。
陽炎はぱちりと長い睫をゆっくりと瞬かせてから、己を指さし周囲にも視線を向けて、改めて絵本を確認したように、呟く。
「……え、俺?」
「有罪ッ有罪ッ有罪ッ」