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番外編5-蒼刻一の思い出

 

 カゲロウの国は、随分と夜が寒い――こうしていると、僕と同じ温度の世界だと錯覚できる。

 カゲロウの国の人間は、随分と闇が深い――こうしていると、僕が憎んだ原因の人間を思い出す。

 夜闇に響く歌風は、きっとカゲロウの気づかぬ、カゲロウの信者。信仰厚いあのふわふわ毛並みだった子。

「生前のリージャをモデルにしたんだ」


 リージャはもう死んでいる。

 リージャだけじゃない、グランス、アデレオ、ミール、……アトューダもだ。

 グランスは魚座、アデレオは鷲座、ミールは鳳凰座、アトューダは鴉座のモデル達。

 彼らは僕を残して、死んでいった。

 

 字環あざわ

 お前が夜空に皆が居ると教えてくれるまで、僕は一人だったんだ。

 僕は、世界を憎んでいる。

 自分が原因の喜劇とは、何ともやりきれない涙が出てくるものだ。

 

 

 遠い昔、ベルベットという街があった。

 その街で僕は生まれ育ち、悪行も善行も全て行った。

 僕は妖術を生み出して――といっても生まれたときから常に側にあったから、生み出した感覚はないのだけれど――、世界に名を轟かせた。

 

 「凄いな、結欺ゆぎ。流石はオレの義弟だ」

 

そう言っていつも何をしても笑ってくれたのは、蟹座のモデルのクラウル。

 クラウルは真面目だが、言葉の何処かで駆け引きをしたり、心の何処かで蔑みを常に持っては居たが、一度心を許した相手には何処までも暖かな男だった。不器用だったけどね。

 そして何より、ミール――鳳凰座のモデル――が苦手で、ミールの姿を見かければ三秒で姿を消す芸を会得していた。

 僕はこの街では孤児だったので、孤児院で育った。

 星座たちは孤児院の保母さんや、子供達、そして先に巣立っていった兄さん達を思い出しながら作った妖仔だ。

 

 中でも、アトューダは印象強い。

 アトューダはいつも女性を口説いていたが、常に一人に絞らないで居て、本命は居ないのかと聞いたら、「本命はいつも、その時口説いてる女性です」と言い切るタラシだった。

 相手の望む言葉が容易く手に取るように判ると断言する男で、優しくて、狡猾だった。

 クラウルと組んで、クラウルが悪さをした後アトューダが宥めて場を和ませて好感度をあげる、とか、その場しのぎを演じる、などを見たことがある。

 あれだけ組むと最悪な名コンビが、本命が関わると険悪になるのか、とカゲロウを見て思ってしまうけれど、それはきっと気のせい。

 彼らとの思い出は中々に面白い。人は過去に戻ることを楽しむが、これほど楽しいことはないと思う。

 だって思い出が全てで、幾つも消えていく記憶の中、それだけがただまばゆく光っている。

 

 

 彼らは思い出。アルバムだ。

 僕の中に居る彼らを、そのまま表しただけに過ぎない。

 たまたま字環が黒玉を作り出していた時期に、字環と出会って、プラネタリウムという形を得ただけなんだ。

 

 さて、何故僕が世界を憎んでいるかと言うと――不老不死の術に成功したからだ。

 誰も為し得なかった大業を為し得てしまった僕には永久の時間を報奨に貰ってしまい、僕は彼らが老いる姿を見て、彼らが先に死んでいく姿を見ていき、ついには世界が滅びては生まれ、滅びては生まれる姿を目にしてきた。

 

 世界は何回死ねば、気が済むのか。

 

 あきれかえって欠伸、冬眠でもしたいなぁと思ってるとき、字環と出会い、星を教えて貰った。

 それから、彼の家にあった、プラネタリウムの末裔の部屋を見せて貰い、僕は感動した。

 僕は妖術でプラネタリウムを作りたいと主張したが、彼には却下され、彼は自らいつでも取り出せていつでも見られる小さなプラネタリウム――黒玉を作り出した。

 できたてのそれに僕は妖術をかけた。

 

 星には死んだ人がいるという。

 それならば、このプラネタリウムに、あの人達の思い出がないわけないじゃないか!

 僕は様々な人を思い出し、黒玉に命を吹き込んだ。

 最後に挙げられたのは、アトューダ。

 だけど、アトューダを象った者が誰彼構わずぺこぺこしてる姿なんて見たくないから、鴉座には特別な条件を付け足して、封印したんだ。

 

 思い出が動き回る姿は楽しいが、僕の作った妖仔が人々に利用されていく姿を見るのは少し辛かった。

 これが、孤児院の皆を象ったんじゃなくて、例えば隣町の誰かを象っていたなら僕は腹を抱えて、爆笑していただろう。

 だけど、思い出フィルムの妖仔をどいつもこいつも大事にはしなかった。

 良い主人も居たが、悪い主人もいた。

 柘榴? 柘榴は、大事とは別の意味で丁重に扱っていたからね、また感情は別だ。

 カゲロウは良い主人の部類に入るのだろうか。でも、プログラムをどんどん変えていくから、ウィルスみたいな厄介な奴だ。

 

 良い主人でも、悪い主人でも、あいつらが仕えてる姿を見るのが嫌で、いつしか僕はあれらをもう思い出の彼らとは別物だと考えた。

 

 それは意外と簡単だった。

 考えを切り替えれば、誰がどうなろうが構わない。

 最早、あれは不老不死に近づくための道具にしか見えない。

 

 カゲロウの国で、リージャをモデルにした牡羊座の歌声が響く。

 僕にだけは効かないので、僕にはその催眠歌は響かない。悲しいことだ。

 

 字環、でもね、お前だけは生きたまま妖仔にしてやったから、お前だけは思い出じゃない。

 いつか、会えるのを楽しみに待っているよ――月。

 月の卵、早くあの人を蘇らせて!

 

 月が目覚めれば、カゲロウに少し感謝だな。

 月が目覚める条件の一つは、星座も主人と共に傷つくこと――まさに今の状況だものね!

 

 ガンジラニーニ、字環、この二つが揃えば、この世界に欲しい者なんてないよ。

 不老不死ですら、楽しんでやる。

 死との敵対、いつまでもし続けてやるさ――。


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