大学1──親友ミツキ〜理事長エリーゼ〜エビデンスとは? #3
◆あらすじ
急に始まった異世界ファンタジー。私、茶柱立花は、異界で賢者様に出会い、知識無双の片鱗をみた。ただ、何かを隠してるのかなって思うこともあるんだけど……。
あと、シルってゆう四大精霊の1柱と一緒に暮らすことになったり、慌ただしい日が続いて忘れてた。私、大学生だった──。
◆本編
頭の中で鳴る音響魔法を止めると、早速自室へ戻る。こっちに戻ってきた時には、確かに肩にいたシルは、もうどっかに行ってしまったようだ。ちなみに、シルが飛び出すときに、私の肩を少し踏み外したように見えたのは秘密にしておこうと思う。なぜなら、シルの気位を踏み躙らないためである。
一応、シルが家の中にいると仮定して、少し大きめに声をかけておく。
「シルー、ごめんね。ちょっと、大学の講義があるから部屋にこもるねー」
通信魔法大学──通称「通魔大」。それが私の通う大学の名前だ。
名前の通り、通信魔法を利用して単位をもらえる大学で、私が住む地域の人たちは、ほとんどがこの大学出身といっても過言ではない(過言かもしれない)。もちろん、研究機関も内包しているが、話に聞く限り、内容は超ガチらしい。大魔法使いを何人、いや何十人と排出しているんだとか。よって、研究費に困っているような話を一度も聞いたことがない。
お察しの通り、私は絶対にそんなガチなところになんか所属しない。両親みたいに、いろんなイベントで皆んなを喜ばせるような仕事に就きたいと思っている。もちろん、無料で夢の国に入れるからとかいう、やましい気持ちなんてこれっぽっちもない。神に誓──うのはイヤな予感がするので、昨日の夕飯に誓って。
さて、講義の準備をすべく、私なりにデコった触媒に魔力を込める。どうも、母が言うには「私も学生の頃は、いろんなものにラインストーンを貼り付けて、大きなストラップをぶら下げてオリジナリティを出したものよ」とのことだ。──らいんすとーん? なにそれ、美味しいの? 普通に、かわいいケース売ってるし、写真魔法を具現化して貼り付けるのが関の山だと思うのだが、それがリアルY2Kだったのだろうか?
液晶魔法と音響魔法が発動し、防音魔法が周囲を包む──。
「「「おはよー!」」」
「おはよう」
もう皆んな居るんだね。早いね。
普段は、取ってる講義ごとにクラス分けされるんだけど、今日は一堂に介している。こうゆう時は大概、ろくでもないことが起こると相場は決まっている。なにしろ、現に理事長室が映っているじゃないか……。
「ミツキ、今日何があるのか知ってる?」
「ん? 知らなーい」
だろうね。ミツキは私の可愛いかわいい親友だ。可愛すぎて食べちゃいたい。キュートアグレッションである。ミツキの可愛さを語ると、半日は要すので自制する……が、やっぱりさわりだけは言わせてほしい。
まず外見だが、髪はさらっさらのロングで左分け、茶髪で前髪は長め。派手髪は卒業したらしい。顔が小さくて、目の比率が多い。鼻は……忘れてしまった。唇はちょっと薄めだが、ぷるっとツヤがすごい。もちろん、肌なんて至近距離で見なきゃ見逃しちゃうね。ただ、八重歯なのを本人はすごく気にしている。歯磨きが大変なんだそうだ。ふざけるなっ!
合わせて耳も小ぶりだ。噛みつきがいがある。そのせいかどうか分からないが、ビッグサイズのピアスが映える。あ、言い忘れたが、もちろんバリバリの平行二重だ。モデルかよ!
そのツッコミも的を射ていて、スタイルも華奢で肩幅も細っちい。足首は自明のこと、太ももすら片手で掴めるんじゃないかと思うくらいだ。ただ、さすがに本人の許可なくスリーサイズは教えられない。乙女の身長と体重もダメだ。なぜなら、言ったら私が惨めな気持ちになるからだ。そのまま、心のICUに立て籠ってしまいそうである。──ワンチャン、幻覚魔法であることを疑っている。
ちなみに、彼女が手に入れたという《エムオス》の有名バッグは、順調に値上がりしているという。タイミングの問題、だそうだ。私にはよくわからないが、一通りのトレンド指標とオシレーター指標が揃っていれば指値するのに、とのこと。なんだそれ?
──お、そろそろ始まるっぽいぞ。
「学び舎を共にする子猫ちゃん──もとい、わが校の生徒諸君、おはよう。理事長のエリーゼだ。なんとなく察している者もいるだろうが、少し話を聴いてほしい。
長年の悲願がついに叶った。君たちも聞いたことがあるだろう……賢者の存在についてだ! 多くの者は、いることにさえ懐疑的だろう。しかし、間違いなく形而下的である。しかも、少なくない数の者たちは既にお世話になっているのも事実だ!」
……え? そうなの? じゃあ、噂どころか、体験談が続出しててもおかしくないじゃん。なんで?
「──皆が疑問に思うのも無論だろう。なぜなら、それは記憶の改竄に気づくことができないためである。例えるなら、『自己言及のパラドックス』のようであり、『バイアスの盲点』のようなものだ。覚えたことが違えば、忘れたことすらわからないからな。
これは、賢者による魔法であると推測される。断言できないのは心苦しいが……なにより自分にもかけられており、今しがた解けたところである。よって、著明なことは言えないが、おそらく記憶を司る海馬に対して働きかけるものだと思われる」
なるほどね。だからか、納得! 私にはかけられてなかったみたいだけどねー。ドヤッ!
もしかして、理事長が《対抗魔法》に熱を上げてるともっぱらの風聞だったのはコレかな。賢者様の特殊な魔法を無効化しようと躍起になってたのね、きっと。
それにしても、エリーゼ理事長──超美形。100億パーセント、《屑塚歌劇団》に入団してたら男役でも娘役でもトップになってただろうに。たまに、『芸能人で例えろ!』って言う人いるけど、あれキライ。だってもう、これは人類の枠を遥か超越してる美しさだもん。見たことないからそんな口が叩けるんだよ。性格もスマートで人格者だし、多分あれはカンストしてると思う。なんたって、なにかと話題の《Shite》のライブパフォーマンスみたいに、後光が逆光すぎてシルエットしか見えないくらいだもん。貴方は最強。──うっせぇわ!
「──そんな賢者を講師として招くことに成功した! その功績に拍手を──‼︎
──ありがとう。皆がよろこんでくれて何よりだ。
このたび集まってもらったのは他でもない。この報告と、かねてより取り組んでいた『対抗魔法』の検証が終了したことを、この場を借りてアナウンスしておく。第III相試験が完了し、広く皆が安全に使えるようになった。協力してくれた者たちに深く感謝を申し上げる」
そう言って理事長は、深々としたお辞儀には全く満たないが、途轍もなく美しい角度で頭を下げられた。完全無欠、とはまさにこのことである。と聞いた。──これは余談だが、理事長の親衛隊にして、ファンクラブ会員のナンバー001号がのちに、ジャスト“28”度であることを公表していた。さらに、対抗魔法について学会で発表した回数が6回、すべての言葉を文字起こしすると8128文字、研究チームを発足してから飲んだコーヒーの数が496杯らしい。もうそこまでいくと、こじつけ以外の何者でもない気もするが、私は数法に疎いのでよくわからない。
「──では紹介しよう。賢者ちゃんだ! ぁっ」
私は耳がいいほうだと自負している。シルエットしか見えないエリーゼ理事長の頬が赤らんでいるのが見えた気がした。酒さでないことを祈ろう。
「はじめましての人は、はじめまして。賢者と名乗った覚えはないが、賢者と呼んでもらってよいぞ。
小さくてよく見えんが、何人か見知った顔もあるようじゃ。本人は覚えてないじゃろうがな。
先ほどエリーゼから説明があった通り、記憶改竄魔法を使っておった。ワシのオリジナル魔法じゃ。しかし、それとこれとは話が別じゃな……、すまなかった──。
エクスキューズさせてもらえるなら、一言だけ。ぬしらの自律性を守るために、ワシという存在が邪魔だったんじゃよ。それもすべて、ワシの不徳の致すところじゃ……。
今般、ぬしらの講師を引き受けたのは、自分への贖罪と免罪のためと思ってもらえたら幸いじゃ。対抗魔法も完成してしまったようじゃしな──」
といって、賢者様が理事長にメンチを切っていた。子供かよっ!
なんとなく話を聴いている限り、理事長と賢者様は仲がいいようだ。裏山。
◇ ◇ ◇
このまま講義に移るらしい。理事長いわく、この場にいない人たちには、専用VODで配信予定だそうだ。まぁ、制作元を聴いた時の衝撃は忘れられないが……。どうやら、Major Imaging Produce Project leagueこと《MIPPI》が手掛けるらしい。賢者様は封印されないよね? 大丈夫だよね?
もちろん、エリーゼ理事長のスピーチも配信されるらしいし、こっそり保存しておかなくてはいけないと心に刻んだ。ついでに、記録想起魔法でリマインドも刻んでおいた──。
「さて、それでは講義を始める。エリーゼからは、科学的根拠があれば何をやってもよいと聞いておる。まぁ、いろいろ考えたが──」
「賢者さま……すみません。科学的根拠とは何でしょう?」
もっともだろう。私も賢者様から詳しくは聞いていない。よくやった、学生Aくん。──仕方ないじゃん! うちマンモス校だよ。しかも、通信魔法で受講するんだから、ほとんどの人と会ったことも喋ったこともないんだから! しらねぇよ、あんなモブ。おっと……お口がお滑りあそばせ──ホホホ。
「そうじゃな、そこから説明せねばなるまい。
──ぬしらは魔法というものを使って普段生活しておるじゃろう。しかし、科学という技術を使って生活している世界があるんじゃ。ワシはその間にいる感じじゃの。
それで、科学を説明する前に、ぬしらは“魔法”をどのように考えておるのか訊いてみたいのう?」
と、賢者様はさっき質問した学生Aくんを指名した。ちょこっとだけ、私が指名されるんじゃないかと緊張したが、杞憂に終わってよかった……。ガチで。
んー、そうね……魔法をどのように、か。私も考えてみる。(思考時間1000000000000ピコ秒)──よし、わからん!
と、学生Aくんは頑張って答えてるようだ。
「そうですね。それは、魔力を使ってあらゆる事象に干渉するものだと思います」
「なるほど。もう何人かに訊こうかの。
じゃあ、そのぬかるんだ態度の、ぬし──」
ぬかるんでるのは今朝方の賢者様な気もするが、私はTPOを弁えている。そんな淑女なのだ。
と、指名された学生Bは戸惑っている。
「えぇっと……、いろいろできる便利なものです……かね」
「うむ。それも良いじゃろう。
では、もうひとりくらい……ああ、そこのイラストの……ぬし──」
あ、本当にイラストだ! うまい。──ってあれ? ウィンドウの立ち上がりが遅い。さっきまでは、選ばれると同時に立ち上がってきたのに……なんかラグい?
──ん? あ、おお? これは最近バズってる『精霊王』とかゆうVTuberの絵っぽい。私はまだ見たことがないので比べられないが、少なくとも絵心のない私より200倍はうまい。しゅ、しゅごい。
昨今は絵画魔法が主流で、実物のアートは珍しい。絵画魔法がメインストリームとなった背景には、NFTがどうこうってミツキが言ってた希ガス──貴ガス。
「ぁ……h、はい。あの……魔法は、sすべての根源であり、sすべてを構築している可能性がある……といわれる事象を説明するための総称です……と思いまつ」
(((あ、噛んだ)))
当然、淑女たる私は人の失敗を笑わない。そもそも、気にも留めない。むしろ、噛んでないっ!
「ほほう。なかなか面白い答えじゃの。
──なるほどなるほど、いろんな答えを持つことは良いことじゃ。なんたって、これに正解はないからの。コンセプトを言っているのか、イベントに言及しているのか、シチュエーションやコンディションを表すのか、ぶっちゃけまだわかっておらん。ゆえに、様々なバリエーションの解があって然るべきなんじゃよ。
そのように、自分で考えて自分なりの答えを見つける。そして、その正誤を判断して、誤りを正す。その積み重ねの歴史が科学じゃ。そういう意味では、魔法も科学も大した違いはないのう。しかし、大きな違いは、魔法は抽象的であり、科学は具体的であるということじゃ。だからといって、どちらが優れているかはわからん。抽象的であるほど広く一般化できるし、具体的であるほど一般化した時の精度は高くなるでの。
まぁ、細かいことを言い出すとキリがないからの、個人レベルのミクロな範囲では、そう思っておくだけで十分じゃろ」
あぁー、なるほど。よくわからん。──とりま、同じようで同じじゃないってことでいいね! よし。
「──それでは話を戻して、科学的根拠──エビデンスとは何か、に立ち返ろう。
ぬしらは応用魔法を使う時に、『これは、水魔法をベースにして、火魔法を使って……』のように、四大魔法を中心として構築していると思う。──では、四大魔法はなぜ基盤となり得るのか知っておるか? ──おそらくは知らないだろうと思う。かくいうワシも知らない。そもそも、それで実用的に問題がないのだから知る必要もないじゃろう。
しかし科学は、そこに疑問を持ち、仮説を立て検証し、反証して“確からしさ”を追究していくのじゃ。ぬしらが魔法を発動させる時には、触媒を使うじゃろ? あれがまさに魔法そのもの。つまり、触媒を介さずに魔法を使うと、何回かに1回──ないし、ほとんど失敗することになるんじゃ。これを、確率と呼ぶ」
ヤベェっす。賢者様、パネェっす。マジ、リスっす。──そろそろ、シルに習った風魔法で物理的に頭を冷やすかぁ……。──超チル。
「──その確率を100%までブーストしているのが、触媒の役割になるわけじゃな。ぬしらも子供のころから、触媒を使わない魔力行使は禁忌であると習っていると思うが、これはその確率に由来する。通常、研究機関のみで触媒を使わない実験が行われる。その時は必ず、治癒魔法師が同席する状況下、または危険が少ない場合は治癒魔法陣が義務付けられているのはそのためじゃ。要は、大事故が起こるんじゃよ、よくな」
……あぁ、そうゆうことか。父が前に言っていた──「ちょっと失敗しちゃって身体がぐちゃぐちゃになった時にね、お母さんに助けてもらったんだよ」と。治癒魔法師の母と出会ったのは、その時らしい。なんてことないと思ってスルーしてたけど、気になってきた。でも怖くて訊けない……ぴえん。
「──それで、その確率から、《その事象がどのくらい信頼できるのか》を割り出すための証拠のことをエビデンス──科学的根拠という。先ほどの例でいえば、ぬしらにとって触媒のエビデンスレベルは100%と言えるな。じゃがしかし、本来は100%という信頼性はあり得ないんじゃよ。
んー、そうじゃな、近年の触媒は劣化しないようにコントロールされておるが、昔はそのへんにあるモノを触媒として使っていたために、経年劣化して風化したり、扱いが悪くて破損してしまったりと、それはもう不安定じゃった。触媒が不安定であるということは、魔法の発動と、その効果にも悪影響がでてしまう。つまり、往時に利用されていた触媒は、信頼性が極めて低かったというわけじゃな。
では、その不安定さをどうやって、我々人間が知覚できるじゃろうか? 今はそうゆう魔法が存在するため意味をなさないが、それを確率的に分布させたのが科学であり、エビデンスというものじゃ。要するに、分からないことを解るようにする努力こそが本質といっていいじゃろう!」
(今日のお昼ご飯なんにしようかなー。シルにも訊いたほうがいいよねー。お腹減ったなぁ。私、朝は食べない派だから──)
──88888888──
(──って、終わってるぅぅううう!)
皆んなの拍手に合わせておいた。私はTPOを(ry──。
「賢者さま、感動しました」と、ガリ勉A。
「てぇてぇ……」と、オタクA。
「エモすぎなんですけどぉ」と、ギャルA。
「賢者ちゃぁぁぁん」と、理事長E?
なんか、皆んなの熱狂っぷりが少し怖い……。まぁたしかに、かつて真新しい魔法触媒を発表してニューノーマルにした、《Orange》創業者の有名なスピーチみたいだったけどさ。そんなに凄かったのかな? 私には難しすぎてよくわからなかったからなぁ……。《iCatalyst》のデザインくらい、シンプルに言ってほしい。
「──そうじゃな、せっかくじゃから、最後に話してくれたイラストっ子、よい着眼点じゃったから、なにかフィードバックがあれば教えてくれんかの?
仮名も教えてくれると嬉しいぞ」
「ぁ……はい。s、サリナ、と申します。
──sその……エビデンス? というのは、実際のところ、どのようなものなのでしょうか?」
「うむ。たしかに、これだけでは実感しにくいな。
──では、実情は講義をしながらでも良いじゃろうか?」
「ぁ……はい。大丈夫です。……お願いします」
続く▶︎
引用URL
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