日常の変化
「結婚…ですか?」
「ああ、おまえもいい歳だ。隣国から申し出があってな。なかなか良い若者の様だ。」
「…そうなのですね。わかりました。私はどうすればよいのですか。」
「大丈夫だ、全て私に任せておけ。
先ずは代理人を準備しなければいけないな。」
もうお父様は私をみていない、本棚やら机やらをいじっている。もう代理人のことで頭がいっぱいなのだろう。
「…失礼いたします。」
自室に向かいながら考える、最近隣国との情勢が不味いことはなんとなく察していたが、まさか結婚とは。
結婚自体はそろそろ話が出てくるとは思っていたがまさか選ばせてもくれないとは。
それほど情勢が悪いのだろう。
しょうがない、割り切ろう。私はこの国のために生きる。
私の結婚で隣国との情勢がよくなり、国民が幸せになれるならそれでいい。
少しでもお父様の役に立てれば何よりだ。
いつ結婚しても大丈夫なように最低限の素養はもっている。
まあ、政略結婚なんだからそこまで気にしなくてもいいのか。
これまでの努力が少しでも報われたら嬉しい。
「おかえりない、お嬢様。」
居室の扉を開くとメイドのリリが笑顔で迎えてくれる、そんな笑顔もそっちのけで向かいベットに寝そべる。
「…嫌なお話だったのですね。今、紅茶を準備いたします。」
リリが紅茶を準備する音を聞きながらぼーっと天井をみる。
水の音、茶葉の音が私を少しずつ日常に戻していく。
「それにしても、こんな時でもお父様は私の事を見てくれないのね。」
一瞬リリが私の方をみたが、気まずそうな顔で紅茶に目線を戻した。
お母様は私が幼い時に病で亡くなられた。その時は朗らかなお父様もかなり落ち込まれいた。
お母様がいた時は一緒に遊んだり、散歩をしたり、読み聞かせをしてもらったり。私が1人で寂しくならないよう一生懸命に時間を作ってくださっていた。
それがいつからか段々なくなっていった、お母様がいなくなってからのお父様が本来の姿なら悲しすぎると思っていたが、ここまでくるとそれを認めざるおえない。
お母様がいたことでお父様は私に興味をもっていたのだろう。
この数十年で気がつけなかったことが嫌になる。目を逸らし続けた罰がここで来てしまった。
「お嬢様、紅茶が入りました。」
私の好みの香りが鼻腔をくすぐる。少しだけ落ち着く。
「でも、願わくば恋がしてみたかった。」
「お嬢様、それは…。」
「無理だと分かっているのよ、今も元々も、私に自由はなかったし。」
気持ちを吐き出せば、吐き出すほど苦しくなってくる。
目は熱いし、頭も痛い、胸も苦しい。
「お嬢様、悲しい時はないてもいいと思います。お嬢様はいつも頑張っておられますよ。」
リリの言葉、紅茶の香り、お母様の思い出すべてが混ざって涙が溢れた。
「そっか、私は悲しかったのね。」
私は寂しくて、悲しくて、苦しかった。でもそんな私を認めてあげないからもっともっと苦しくなって。
ここまで拗らせてしまった。
幼かった私は甘えたくて、ねだりたくてしかたがなかったのにそんな私をなかった事にしていた。
流れ出した涙は止まらない、過ぎてしまった時はもどらない、
決まってしまった結婚はどうにもならない。
どうしても解決できないことばかり。
「ねぇ、リリ。」
「はい、お嬢様。」
「私幸せになれるかしら。」
「ええ、お嬢様なら大丈夫ですよ。」
その言葉には根拠もなにもない。幸せになれるかなんて誰にもわからないだろう。
でも他でもない、家族のリリがいってくれた。私はその言葉を信じて、叶えたい。
見てくださってありがとうございます。
貴女がいるから私は頑張れます。
初投稿です。至らぬ点があると思いますがよろしくお願いします。
タイトルの代筆代理人には次の話で登場予定です。