神様
なんでもありの吸血鬼もの(主人公は人間)です
自己責任でどうぞ。
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死にたかった。
ずっと死にたかった。飢えて飢えて、喉が渇いて、でも死ねなかった。
そういう生き物になったことも分かっていたつもりだった。でも、死なないことは須らく喜ばしいわけじゃないと言うことは知らなかった。
・・・・・いや、知らないフリをしていた。
あいつは異常者だった。
俺たちのような化け物を弱らせて、鎖に繋いで、あるいは首輪を付けて、心を縛って服従させた。
昔は人は俺たちに対抗しうる力を持たなかったらしい。
古い同胞が暗い檻の中で生きやすかった昔を懐かしんで話した。あの頃はよかった、能力が高くない自分でも飢えなどなかったと。
だが、人間は協力しあい、技術を高めて俺たちを殺しうる術を手に入れた。
増えすぎた枝を伐採するように、病気の家畜を殺すように奴らは俺たちを殺した。
勿論多くの強い同胞たちは人など恐れるに足りぬと嗤い、蹂躙して腹を満たした。
だが俺のような弱い仲間たちは食料を手に入れることが難しくなった。
強い同胞のおこぼれに預かり、奴らに媚びを売って、それでも腹は満たされない。
飢えると飢えるだけ力は発揮できなくなり、弱っては食べられなくなる恐ろしいループ。
そんな中俺はここの人間に捕まえられた。
気まぐれに体を切り刻まれ、下半身と分かたれ、その回復を何かのショーのように楽しんだ。
昔人間だった頃、吸血鬼に怯えたあの頃。
それよりずっと恐ろしかった。
あいつは俺たちを殺す薬を持っていて、飽きれば殺された。
だが、俺にはそれがもう救いに見えていた。
・・・・・だが、いや、だから。俺はいつまでも殺されなかった。
悲鳴をあげず、死を恐れぬ俺を殺すのは面白くないのだと奴は言った。
「殺すなら死を怖がっているうちだなあ。余り長く飼うと殺す楽しみがなくなるとわかったよ」
でっぷりと肥太ったあの人間は笑っていた。
「だから、お前は大事に飼ってやろう。オスで長生きできるのはお前くらいだぞ?感謝を忘れるなよ」
あの男の周りには弱りきった同胞が数匹、寝そべっていた。
そのどれもが綺麗な女で、用途は分かりきっていた。
仲間たちの目は澱み、俺を認識してるのかもわからなかった。
ああ、ああ。
人間は俺たちを化け物だというが、本当にそうか?
俺たちは人間を食べる。人が牛や豚を食うのと何が違う?
本当の化け物は、目の前のこいつじゃないのか。
何人の同胞を愉悦のために殺した?何人の同胞の心を、楽しいからと踏み砕いた?
「・・・・・ああ、いい目だなあ」
うっそりと笑うこの男こそが、化け物でないと何故言えるのだろうか。
人に踏み躙られぬ力を。
同胞を癒す場所を。
飢えぬ体を。
ーーー化け物と蔑まれない、命が。
欲しかった、欲しかった、欲しかった。
「大丈夫、きっと大丈夫よ」
ああ神様。
きっとそれは貴方の形をしている。
美しい瞳はどれほど嬲られても透き通り、そしてあっという間にあいつの懐に入り込んだ。
俺を救った、同胞を救った貴方こそ。
「オルバ様」
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オルバは大好きなオリキャラです。
類稀なる美しい吸血鬼とはこの人。