陶器のような
なんでもありの吸血鬼モノ(主人公人)です。
自己責任でどうぞ〜
side.ユーグ
痛い、痛い、痛い。
頭が割れる。身体中が軋むようだった。
「ァ、あ・・・・・」
オレ以外の誰かの呻き声がする。
俺は声帯がイカれたのか、声すらでない。代わりに息をする度空気が漏れるような変な音がした。
ジャラ、ジャラ、と鎖の音がする。
ああ、ここに来て何日経ったんだろうか?
貧民街で生きて、泥水を啜って生きてきた。
母さんが病気で死んで、オレはここに来た。
周りのヤツらは家族に捨てられたり、こんな場所で生まれて今までマトモな飯を食ったことがなかったりしてオレはこの最低な輪の中ではまだ恵まれてる方だった。
愛してもらった記憶がある。うまい飯を食べた思い出がある。それに、今までうまく生き延びてきている。周りよりちょっとだけツイてた。
でも、その年は周りの村々も不作だったようで、オレたちのようなやつらは飢え死にするしかないのが目に見えていた。腹が減って、雨すら少なくて、喉が渇いた。こんなまま死ぬのだと、オレはもうすっかり諦めていた。
そこに現れたあのオンナは、オレが一生掛かっても買えないようなキレイな陶器のような白い肌をしていた。
「あなたの命が欲しいの。うまくいけば永遠の命と、飢えない未来が得られるわよ」
そういったあのオンナの瞳孔は、ノラネコのように縦長で、飢えたノラネコよりよっぽど恐ろしかった。死を待つばかりのオレは、死よりまだ恐ろしいものを感じ取って首を振った。
こいつの傍に行けば、もっと苦しくて恐ろしい何かがあるのだと、命ひとつを大事に生きてきたオレにはわかった。でも、オンナはオレの意思なんてまるで気にもしていなかった。
「ああごめんなさいね、どうしても必要なの」
ひとつも悪いとは思っていない瞳で口先だけの謝罪をしたあのオンナは、オレを根城へ連れ帰った。
そして、実験は始まった。
「ヴ、ぁ・・・・・ッ」
いや・・・・・ずっと、繰り返されていた。
それでもオレは、死ななかった。
きっと、隣で呻いていたアイツは死んだ。
オレの方が、ちょっとはツキが良かったってことかもしれない。
苦しくて痛くて、死んだ方がマシだと思ったが・・・・・オレは死ななかった。
生きることを目標にするには命にしがみつきにくいほどの苦痛で、オレはただ憎んだ。
あのオンナを。
あのお綺麗で、残酷なオンナを。
あのオンナの指示でオレたちを弄くり回す同じように白い陶器のヤツらを。
オレの中に人間じゃない成分を無理やり押し込んだ人ではないイカれた研究者どもを。
そう、吸血鬼どもをだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
side.セザール
「別にイイんですよ。オレのコト弄り回したのは。デモ・・・・あと少しナラ、永遠の吸血鬼を優先スる必要ナイでしょ」
「・・・・・ユーグ」
永遠の命がある、吸血鬼。
その吸血鬼のせいで、まともに人としての人生すら歩めない目の前の男。
頼まれたって代わりたくない人生を歩んだユーグに寄り添うことが、俺に出来る最大の譲歩で、慰めだった。
同情している。それに、哀れだと思う。
その一方で、だからと言って吸血鬼そのものを同じように憎むことも出来ないとも思った。
俺は今吸血鬼のそばで生きていて、あの化け物たちが人間だったことも知っていて、そして俺自身こうなっては人間の味方だとはとても言えない。
ユーグだって、俺ごと憎む方が気楽だったろう、と思う。しかし、どれを選んでどう生きるかはユーグ次第。
結果、ユーグは『セザール』の近くに居ることを選び、求めた。
吸血鬼の傍には居たくないから居住はヒトの場所に。でも、俺との接触が持てるような立場に。俺が必要な物を用意して、自分すら餌にしてでも自分の居場所をきちんと確保した。
人を裏切り、吸血鬼を憎む中途半端でどっちつかずな人間だが・・・・・いっそ、俺よりよほど強くてまっすぐだった。
「ご主人サマ、夕飯なンにしますカ」
にこっと笑ったユーグは先程の話などなかったかのように食事の話を振った。
柔らかい笑顔に、頭を振って俺も先程の話を頭から追いやることにした。
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ユーグは糸目のキャラ設定。