血を飲む生き物
なんでもありの吸血鬼モノ、主人公人です。
自己責任でご覧ください。
タッタッタッ、と軽い足音が重なって近付いてくる。
振り返ると満足そうな顔をした兄妹が駆け寄ってくるところだった。
「セザール!ありがと、今日もおいしかったよう」
にこにこしながら抱きついてくる冷たい体を押し返して、片手を出す。
「なあにぃ、ちゅーしようか?俺が」
「・・・・・100歩譲ってキスを求めてたとしても、男は嫌だ」
「えっ、じゃあデジレちゃんg「お前は女でも嫌だ」・・・ええ〜」
馬鹿みたいなやり取りをしてくる正真正銘の馬鹿にため息をついて、もう一度差し出した手を揺らす。
「代金。はよ寄越せ」
「はあ〜。セザールは私のお金が目的だったのね!」
「だったのね!」
「当たり前だ!いい加減にしろよお前ら」
身をよじらせる2人は、それでも嬉しそうに笑った。
グレンが懐に手をやって、中から金貨と、指輪を渡してきた。
「こんなもんでどうですか、商人殿」
「・・・・・、指輪の宝石も本物か。いいだろう」
「でも〜、最近セザールのとこでしか“食べて”ないから金目の物も少なくなってきたよね」
「しょーがないよね。おいしいもんね」
「知らん。尽きれば売らん」
「セザールってば、辛辣〜」
「しんらつ〜」
昔“食べた”人間の所持金や宝石類。それが対価だ。
商品に値段をきっちりつけたこともあったが、吸血鬼たちには金を稼ぐ手段はなく、基本的に食事に付随して得た物しかない。そうなれば、細かい金勘定よりも自分の目利きで利益を得られそうな対価かを見極めて・・・・・金目の物ならなんでもいい、としてやるのがお互いにとって1番都合が良かった。
グレンから受け取った対価をしまい、すっかり日の沈んだ曇り空を見上げた。
「お前ら、夜に予約が多いけど・・・・・陽の光がダメなタイプのオールド吸血鬼なんだっけ?」
「・・・・・え?なにそれ」
「デジレちゃ〜ん、むかし昔の御伽噺では、吸血鬼は日光に当たると死んじゃったんだよ。それに、十字架もだめだったっけ?」
「ニンニクもだ」
不思議そうに首を傾げるデジレ。
そりゃそうか。当たり前のことではあるが、吸血鬼は別段陽の光で弱ったりしないし、十字架に恐怖を覚えることも無い。ニンニクもしかりだ。
そもそもそんな御伽噺は本物の吸血鬼がこんなにも増えるまでの迷信だらけの代物。
「多分、吸血鬼に怯えたくなくて考えた嘘なんだろうけど」
「あーねえ。最近はハンターたちも強くなって抵抗したりするみたいだけど、特に昔はじゅうりん?されてたって言うしね。あの頃は楽だった、って聞いたことあるよ」
デジレの言う聞いた、は化石とも言えるほど長く生きた本物の吸血鬼談だろう。
吸血鬼は、死なない。
その上不老だ。眠る必要もないので、人間が寝静まって狩りやすい夜によく現れたことも、昔話の陽の光がどうこうという話に繋がるのかもしれない。
「・・・・・っ、と」
「大丈夫〜?セザール」
余計なことを考えていたからか、地面に転がっていた石に足を躓かせた俺を、デジレが引き止めた。
「・・・悪い、助かった」
「いいよう、セザールのためだもん」
柔らかく微笑むその様子は人とさほど変わらない。
「あ、そういえばデジレ。この後あっちの区域の・・・・・」
「そういえば。セザール、私たちあっちの吸血鬼に用事があったんだった」
「ああ、じゃあまた今度か」
頷き合う。自然に、人同士と何も変わらず手を振りあう。
「またね、セザール!愛してるよ」
「お前が愛してるのは俺の血だろ」
「またね、セザール!愛してるよ!」
「男の愛はいらん」
しようもない冗談を交わして背を向ける。
廃れた御伽噺とも、そのあと今でも語られる恐ろしく、強く、慈悲もない吸血鬼像ともかけ離れたあいつらに人間と変わらない部分を感じる。
でも。
「って〜」
そっと捲りあげた手首には華奢な手の形に痣。
俺を転ばせまいと掴んだ、デジレの手の形だ。
優しい一面があっても、冗談を交わしあっても。
俺とあいつらは違う生き物だと感じる。
血を飲み、冷たくて、そして強い。
俺は、吸血鬼とはそういう生き物だと知っていた。
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グレンもハッピーです。