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日常

なんでもありの吸血鬼モノです。

自己責任でどうぞ。

主人公視点。








「セザールーー!!!!起きて起きて起きて!予約の時間ですけど!!!」

「・・・・・うっ・・・・・?」

「起きてってば!襲うよ?」

「おっと、美少女デジレちゃんに襲われるとかセザール役得〜」


布団の上から強く揺すられ、ぼんやりと夢から目覚める。

懐かしい夢を見た、気がした。


「あ、起きた?おはようセザール」

「おはようセザール!今日もお願いね」


目を開くと当たり前のように俺の家の中にいる危険生物2匹。

はあっとため息をついて見せてから起き上がる。


「おはよう、というかこんばんはだな。どうも、デジレにグレン」

「えー、いーじゃん。セザールが起きた時の挨拶なんだから、おはようよね」

「おはようよね〜」


面白そうにデジレのセリフを繰り返すグレンの瞳は見えない。

こっちをどう認識してるんだが、奴の目元は布で覆われていた。

ともあれ、そのような疑問も意味を持たない。なにせ、こいつらは正真正銘化け物だ。


「寝起きから騒がしい上に清々しいほど不法侵入に対する罪悪感がみられないな・・・・・吸血鬼共」

「あーいけないんだ。私もセザールのこと人間って呼んじゃうよ」

「どうぞご自由に。・・・・・で?今日だったか?予約」

「約束も忘れるなんて!罰としてデジレちゃんとちゅーしちゃう?」


布団から抜け出して、こちらに身を乗り出しているデジレを押しのける。

デジレとグレン、2人お揃いの透けるような金髪がサラリと肩から垂れている。

隠れているグレンの瞳とは逆に、デジレはぱっちりした瞳でこちらをみつめている。真ん中には猫みたいな縦の瞳孔。色は髪より少し濃いが同系色のはちみつ色だ。

グレンもきっと同じ色なんだろうなと想像する。


目の端に見える自分の髪は黒くて、面白みもない。

吸血鬼になると大概の人間は綺麗になって見えるけど・・・・・きっと、俺がなったところでこの兄妹ほど美術品らしくはならないだろうな。


ため息をついて面倒な気持ちをアピールしてから、ベッドを離れて水差しから水をついだ。

化け物のこいつらとは違って俺にはこまめに水分と食べ物が必要だから。

2人はのんびりそれを眺めてて、おだやかな空気に知らずにまた息が漏れた。


こいつらにとっては1日なんて瞬きくらいの時間なんだろう。終わりのない一生に比べれば、誰だってそう思うはずだ。

俺が朝食だか夕食だかを食べてる時間だって全く気にせず待つだろうけど、ジロジロ見られながら食事する趣味はない。

流しにコップを置いて、玄関に向かう。

鍵を掛けてたはずのドアは当たり前にあいてて、それをもう疑問にも思わない。吸血鬼はきっと爪にどんな鍵でも開けられるマスターキーがついてるんだろう。随分前にそういうことにした。


俺の歩みに合わせて後ろから足音が着いてくる。

軽やかなその足音すら人間の身の俺からするとステップでも踏んでるみたいに聞こえた。


暫く気持ちいいくらい軽快な足音の吸血鬼達と歩くと、そこについた。

ーーー俺の仕事場で、〝食料〟置き場だ。





「・・・・・ぁ、ぅ゛・・・・・」

「あぁ゛・・・・・」


中から呻き声が響く。動物の鳴き声にも聞こえるがーー紛れもない、俺と同じ血の通った人間のものだった。


「ああ、いい匂い!」

「デジレはあんまり近付くなよ。お前酔いやすいんだから」


ため息をついて大人しく着いてきていた吸血鬼立ちを振り返る。

グレンはともかく、デジレは好みの血の匂いだけでも酔ってしまう日もある。他の商品を傷つけられると大損なのでぜひ理性的であってほしい。


「わかってるわよ。で?私とグレンのはどれ?」

「持ってくる。くれぐれも大人しくするように」


ニコニコ笑うグレンは妹を見てから俺に頷いてみせる。

とりあえずあのおバカは兄に任せて、俺は人間を入れた小屋の中に入った。





中はジメジメしていて、鉄臭い。

なにせ生きたまま連れてきた奴隷たちは傷だらけだ。それに、人間は水分量も多いし。

事前にテイスティングを終えた商品のうち、今日の客の好みのものを引っ張り出した。


ジャラ、と音を立てて鎖を引けば、引き摺られるように商品も自分の足で小屋から出た。

最後のお天道様になることを知ってか、ぼんやりと空を見上げるその顔に生気はないが、生きていれば商品としてはなんら問題なかった。



外で待っていたデジレは目を輝かせて、ーおそらくグレンだってその覆われた布の下の瞳は同じように輝いていたはずだー商品の鎖を受け取った。


「最高の香りだねぇ。セザールってばちゃーんと俺たちの好みのニンゲンを用意してくれるから好きだよ」

「ほんとに!ねぇ、もうお腹ぺこぺこ!」


ランランと目を輝かせている2人から離れる。

背を向けると後ろから何度聞いても慣れない酷く不快な音が響いて、人だったものが断末魔をあげた。

・・・・化け物の食事風景はいつまでも慣れないな、とため息をついて、とりあえずこの濃厚な血の匂いが分からないところまで離れることにした。







慣れないが、これは俺にとってとっくに日常だった。

あそこで食われた人間立ちに比べれば、・・・・・いや、比べなくとも。俺だって、もう血が通っているだけの化け物だ。

『血液商人』

なんて名乗りを上げた、あの日からずっと。






グレンとデジレもハッピーです。

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