言葉
こんにちははじめまして。
なんでもありの吸血鬼モノ(主人公は人)です。
なんでもありです。自己責任でご覧下さい。
1話目にして主人公視点ではありません。
一応、一応、サブヒロインです・・・・・が。笑
side,モニク
空が明るい。夜が明けるのかな。
ああ眩しい。
そうだ、母さんが昔歌ってた歌があったなあ。
夜明けの歌。
私には不似合いね、でも最初で最後に歌ってみよう。
私は、たった一晩だけみんなと同じように歌えるんだから。
「ねえ、空が明るいよ、・・・・・音程って難しいのね」
くすりと笑う。
握りしめた指先にも心臓があるみたいに脈打っているのがわかる。
身体中がミシミシしてる。
なんだかガラスにでもなっていくみたい。
お医者様が言ってたもの、失敗だったら私は砕けて元には戻らないって。
失敗だったんだわ。
そりゃ、そうよね。
だって、成功した人はほとんどいないって言ってた。
でも、その代わり私はほんの僅かの間まともに使える喉を手に入れた。
私には対価にそれで十分釣り合ってた。
もう二度と話せなくても、もう二度と笑えなくても、もう。
「もう2度と、あなたに会えなくても。どうしてもこの口で伝えたかったのよ、ロジェ」
ロジェはもういない。私に〝くすり〟を投与したあのお医者を探すって行っちゃった。
でも、きっと見つからない。私の勘だから、案外近くにいるかもしれないけど。
「でも、きっとあの人は普通のお医者様じゃないよね」
とっても綺麗で、美しくて、人間離れしたつるりとした肌の女の人。
私たちが恐れてて、私たちに嫌われてる、あの化け物になっちゃった人なんだ。
まるで陶磁器みたいな肌のあのお医者はうっとり笑って私にくすりを与えた。
思い返していると、後ろから足音がした。
「ああ、兄さん」
「・・・・・モニク?」
目を丸くした兄におかしくなって笑う。と、緩んだほっぺからピシッと音がした。
「あー、もう壊れてきた」
ほっぺを触るとザラっとした感触がして、手に砂みたいなものが着いた。
砂みたいになった私の頬だったもの。
丸かった目が点になって、兄さんは私に歩みよってきた。
頬に手を伸ばすが、私はまだ比較的柔らかいままの手で兄の手を抑えた。
「まって、触ったらガラスみたいに切れちゃうかも」
「どう、なってるんだ?モニク、お前・・・・・なんで話せて、なんで、その顔・・・・・」
兄さんのドキドキ鳴る心音が聞こえてくるようだった。
やな予感がしてるのかな。
「しかたなかったの。私が話すためだったの。だから、綺麗なお医者様の薬を飲んだんだ」
「綺麗な・・・・・まさか、昼間の?」
「そうよ。あの吸血鬼のお医者様に」
「っ、何を考えてるんだモニク!お前・・・・・」
兄さんが肩を掴むと、そこもピシリと大きな音がした。
顔を青くした兄さんと目が合う。
「だって兄さん。私、この口でロジェに愛してるって言いたかったの。話せない人生なんてもう要らなかったんだもの」
ごめんね、兄さん。私我儘なの。
「セザール兄さん。私、声も可愛いでしょ?ね」
「・・・・・、ああ」
きっともう取り返しがつかない事に気付いた兄さんが途方に暮れた顔で頷いた。
どんな時でも、兄さんは私の欲しい返事をしてくれる。だから好き。
「私、幸せなの。だから、兄さんも笑ってみて」
「・・・ああ」
ぎこちなく微笑む兄さんにハグする。あちこちピシピシ音が鳴ってるけど、服越しなら兄さんを傷つけたりしない。
「ほんとにお人好しね、兄さん。でもだから好きなの」
「お人好しじゃなくて、妹だから優しくしてるんだ」
兄さんがそっと私の頭を撫でた。
壊れないように、そっと。
パリパリ音が鳴る。
私だったものが地面に落ちていく。
ああ、もう終わりかあ。
もうちょっと楽しみたかったのに。
「兄さん、ごめんね。ロジェをお願い」
「ああ・・・・モニク。愛してる」
「私もよ。でも、1番は・・・・・」
もう、口も動かない。
でも兄さんは分かったって頷いて。
兄さん、きっと後で泣くんだろうな。
私が笑ってって言ったから、優しい笑顔で見送ってくれる。でも、泣くんだろうな。
ああ、私、そんなことですごく満足しちゃう。
ロジェも泣くんだろうな、私の1番星。
たくさん泣いたらいいんだ。私を想って、私を思い出にして、私に縋って、私を一生、忘れられない怪我にしてしまえばいい。
そうして私は、ロジェにとって隣で生きるよりずっと重くて大きな存在になる。ロジェのトラウマになるんだ。・・・・・なんて素敵な響きなのかな。
登ってきた太陽の灯りが眩しくて、目を閉じた。
そして、私の世界はそこで終わった。
モニクはとってもハッピーです。