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寝取りの才能だけで勇者になれますか?~はい。堕とした美少女達が大活躍します~  作者: T-愛坂
第一章【呼び覚ませ。寝取りの才能】
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プロローグ:始まりの脳破壊

『穢らわしい手で触らないでっ!』


 美しくも激しい叫び声が場内に響いた瞬間。

 この場にいる全員が凍り付き、発せられた言葉の意味を理解出来ずにいた。


「……へっ?」


 数秒、数分、数時間にも感じられる程の静寂の中。

 俺がかろうじて発せられたのは、そんな間抜けな反応だった。


「聖剣が……喋った?」


 世界最大の勢力を誇るエクリプス王国――その王城にて。

 勇者の血筋を引く俺は、今日ここで新たな勇者の称号を得るはずであった。

 しかし、その称号の証となるはずの聖剣が突如として、声を荒げたのである。


「えっと……?」


 長ったらしい祝詞を告げ、俺に聖剣を授けようとしていた王女様もこれには困惑。

 聖剣に手を伸ばしかけていた俺の前でオロオロとするばかり。


「おおっ……! 今の声はまさしく! 聖剣に宿りし女神ルラン様!」


 一方、聖剣の声を聞いて玉座から立ち上がったエクリプス国王。

 彼はやけに興奮した様子で、自分の娘が手に持つ聖剣へと問いかける。


「ルラン様! なぜ、新たな勇者を拒むのですか!?」


『それは……この者が、勇者には相応しくないからです』


 聖剣は再び声を発する。

 しかしその内容は、俺にとって最悪と言って他ならないものだ。


「そんな馬鹿な!? ネトレは勇者の血を引くんだぞ!」


「そうよ! 勇者の子孫なのに、相応しくないっていうの!?」


「ネトレさんは勇者になるべく、これまでずっと頑張ってきたんです!」


 俺の後ろの方では、信頼できる仲間達が抗議の声を上げている。

 戦士のゾーア。魔法使いのグアラ。僧侶のヘダ。

 全員、美しい外見の少女ではあるが……全員、心に芯のある強さを持った、勇者のパーティとして申し分の無い冒険者達だ。


「あの、ワタクシも……昔からネトレを存じておりましてよ。とても、ルラン様のおっしゃられるような事は――」


 この国の王女であるモルナ様も、俺を庇う言葉を口にする。

 幼い頃、俺が魔王を倒したら結婚してあげると、はにかみながら言ってくれた彼女は……今もこうして、俺を慕ってくれているようだ。


『残念ながら、アナタ達は大きな勘違いをしています』


「勘違い……?」


『そもそも、そこにいる男は勇者の子孫ではありません』


「「「「「「えっ?」」」」」


 俺や仲間達、そしてモルナ王女の声が綺麗にシンクロする。

 そして、その驚愕が冷めやまないまま……ルラン様はさらなる追撃を告げてきた。


『勇者の子孫を騙る不届き者よ。アナタの父親は勇者の血筋ではなく、母親が酒場で出会い……酔った勢いでセックスをした一般人です』


「は?」


『アナタに勇者の才能はありません。取り柄はせいぜい、チ○ポの大きさと寝取りの才能くらいです』

 

 淡々と語られる女神の言葉に、ただでさえ葬式のようであった城内の空気が、ますます絶対零度へと落ちていく。


「俺が……勇者の、血筋じゃない? そんな、わけ……」


『思い当たる節はあるでしょう? アナタはこれまで、血が滲むような努力をしてきたようですが……それでも、素人に毛が生えた程度の力しかありません』


 そう。聖剣の言う通り。

 俺は子供の頃から勇者の子孫として厳しい特訓漬けの日々を送ってきた。

 だが、その強さは……この城内の一般兵にギリギリ勝てるかどうか。


「それは……いつか、勇者の血が目覚めれば……」


『目覚めません。アナタに流れるのは、女の心に姑息に付け入り、セックスの快感で女を籠絡する事が得意な、不誠実で薄汚い男の血なのですから』


 もはや説明というより、罵声に近い女神の言葉に……俺は何も言い返せずに崩れ落ちる。

 だが、それでも。たとえ仮に、俺がそんな血筋だとしても。

 一緒に魔王を倒そうと誓い会った仲間達なら、俺を受け入れてくれる。

 そう――思っていたのに。


「あー……やっぱ、そういう事か。勇者のくせに、弱っちぃと思ってたんだよなぁ」


 背後から最初に聞こえてきたのは、呆れ果てたようなゾーアの声。


「はぁ? 勇者の血を引いていないなら、下手に媚びる必要も無かったじゃない」


 続いて、怒りと不満を微塵も隠そうとはしないグアラの呟き。


「まさか、そんな……信じていたのに」


 そして、失望と軽蔑に満ち溢れた――ヘダの声。


「お、俺は……!」


 信じていた仲間達が、俺を見放したのが分かる。

 もはや、俺の心は限界寸前であったが……それでもまだ意識を保っていられたのが、目の前に最後の希望が存在していたからだ。


「ルラン様、それでもワタクシはネトレを信じて……聖剣を託したいですわ」


 幼い頃から勇者の子孫として、何度もお会いする機会があったモルナ王女。

 彼女だけは唯一、俺を庇うような発言を口にしてくれた。


『もしもそんな事をすれば、世界は魔王の手に堕ちるでしょうね』


「っ!?」


『王女として、正しい選択をしなさい。我が選ぶ、真の勇者に聖剣を授け……そして、その者と結ばれるのがアナタの使命なのですから』


 ルラン様はそう告げた直後、ふわりと浮かび上がり……そのまままっすぐに飛来し、王様の脇に控える騎士の目の前の床へと突き刺さった。


「これは……?」


『王国の騎士ヒイロよ。アナタこそが、本当に勇者の血を引く者なのです』


「まぁ、ヒイロが……!?」


 その時、俺は見てしまった。

 これまではずっと、俺を案じているように見えた王女様の顔色に……喜びの色が混じっていくのを。

 それを見た瞬間、俺の頭の中で何か得体のしれない感情が弾ける。

 まるで、脳が破壊されてしまったかのように……クラクラする。


「この私が、勇者様の血を?」


『聖剣を抜きなさい。そうすれば分かります』


「ええ。分かりました」


 やめろ。やめてくれ。

 その剣を抜かないでくれ。それは、俺が手にするべき剣なんだ。


 頼む。もう、これ以上俺をみじめにしないでくれ。

 新たな勇者の誕生に沸き立つ仲間達、俺への関心を忘れて新たな勇者に心を奪われる王女様。そして、魔王を倒すという勇者の使命。


「……抜けた!?」


『勇者ヒイロよ。これにてアナタが本物の勇者だと証明されました』


 俺は全てを奪われた。

 生まれてきた意味も、今後生きる意味も。

 ただ、勇者の子孫として生まれなかっただけで。

 母親が父ではなく、どこぞの男と浮気して出来た子供だったせいで。


「うむ。これにて聖剣継承の儀は完了じゃ。早速、盛大に祝いたいところじゃが……」


 そして、俺に残された唯一のもの。


「勇者の血筋を騙り、我が娘を誑かしおった不届き者を捕らえよ! 二度とこんな事が起こらぬよう、縛り首にして晒してやるぞ !」


 自分の命すらも、奪われようとしていた。



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