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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第9話 出会い<トバルカイン視点>


<トバルカイン視点>


 今日もまた棍棒だ。明日も棍棒、明後日も棍棒。たまに、エリートゴブリンの短剣研ぎ。毎日が同じ仕事の繰り返しだ。これでは、鍛治師としての研鑽はつめない。鍛治には高温な炉とハンマーがいる。そのどちらも持っていない。


「あ、あれは?! おい!そのナタ、どこで手に入れた?」


 目の前を歩くゴブリンは肩に棍棒を担いでいた。その棍棒には、見慣れない武器が食い込んでいる。鉄で出来た人間の武器だ。短剣程度の刃渡りで、重心が後ろにある。これでは草を刈るくらいが、せいぜい関の山だろう。


「ニンゲンカラ、ウバッタ!ホシイノカ? ゲヒャヒャ」


「頼む! これと交換してくれないか?」


 ワシはとっておきの感想したオーク肉を懐から取り出した。


「ーー!! ヨコセ!」


 ゴブリンの目の色が変わる。オーク肉を鼻先まで持っていくと、匂いをフガフガと嗅いでは光悦とした表情を浮かべる。


「おっと、そいつと交換じゃ」


 オーク肉目掛けて飛びついてきたゴブリンを躱す。その後、物々交換を経て、なんとか御目当ての品を手に入れることができた。


「やはり人間の武器はいい。ちゃんと考えられている。大事にしよう」


 砥石を床に置き、丁寧に研いだ。これが毎日の日課となった。


 ゴブリン共とは話が合わない。あいつらは口を開けば、強奪と肉の話しかしない。うやましい、自分が持っていないことが許せない。だから、奪う。実に、くだらない。


 運良くワシは、この群れの武器番に任命された。武器の扱いについて、知識を持ってきたからだろう。あとは簡単な"研ぎ"をすることができたからか。ワシは昔から変わり者として爪弾きにされてきたが、ある一定の地位を得たことで最近では表立って迫害されることは少なくなった。


 武器番になってから、小部屋を与えられた。ここで武器の調整や棍棒を削り出して作っている。その一角に目立たないよう細工をされた棚があった。そこには迷宮で偶然拾った武器や防具が並べられていた。生涯ずっと集めてきた戦利品の隠し場所にはずっと困っていた。


 慣れた手つきで寝床から一冊の本を取り出した。何度も読み返した形跡があり、ページはボロボロだ。


「ーーフム。やはりこれは武器というよりは生活の道具だな。ナタ、というのか」


 本のページとナタを見比べて、確信を持ってそう呟いた。この本を拾ってからトバルカインの人生は変わった。いや、目標を見つけたと言い換えてもいい。


 この本で言葉を覚えた。古臭い言い回しが多いせいか、口調が変になってしまった自覚はあるが、今更直しようがない。この本の近くに落ちていた手記がある。恐らく持ち主で間違い。それは腕のいい鍛治師を目指す若者であった。付近に遺体はなかったが、周囲には装備が散らばっていたから、もう…その先は予想できてしまう。


 繰り返し手記を読むうちに、勝手にその夢の続きを受け継いだように思っていた。自分がこの本を拾ったのは運命だ。それは使命とも言うべき直感だった。


「ミツケタ! オレノ、ブキヲ、カエセ!」


「なっ!? オーク肉と交換したじゃろう?」


「モウ、クッタ!!ダカラ、カエセ!」


「ふざけるな!そんなバカな話あるか! ーーいや、待てよ…。お前がこの武器を使いこなせるなら、返してやろう」


 武器は使われてこそだ。普段は何も考えず、ただ力の限り棍棒を振り回すだけの能無しでも、もしかしたら何かしらの才能があるかもしれない。期待薄ではあるが。


「マカセロ。カンタン、ダ! オマエモ、コイ」


「ゲヒャ? オモシロソウダ」


 ワシは、ゴブリン二体を連れて穴倉の外に出る。この穴の全体は、アリの巣のように複雑に入り組んでいる。入口は小さくとも中は広大だ。


 試しとは言え迷宮は慎重に進む。なんせワシらは底辺に位置する魔物だ。強さなんて下から数えた方が圧倒的に早い。どんなに頭の悪いゴブリンでも本能的に分かっている。


「お、丁度いい相手がいたぞ」


 目の前には、ワイルドドックが三匹。屍肉を漁っているようだ。口の周りな血がこびりついている。野犬に毛が生えた程度の脅威だ。ゴブリンと底辺争いをするくらいには弱い魔物だった。


「ゲヒャ!!グ、ギ、ギ!」


「ああ!!もう見ちゃおれん!」


 それはもう酷い戦い方だった。ナタの腹で叩き、背で殴り、思い出したかのように刃の部分で"殴る"、あれは切るというより殴るだ。こんな戦闘を繰り返せば、武器はすぐにダメになってしまう、


「全然、なっとらん!武器を返しもらおう」


「ナンダト!? オレハ、アイツラヲ、オイカエシタ! コレハ、オレノモノダ!」


「返せ!!」


 こうなったゴブリンに、説得は通じない。直接、体にお願いするしかない。


「ウルセェ!オイ、コイツヲ、ケレ」


「ゲヒャ!オモシロソウ!」


「ーーヴッ」


 胸を蹴られて一瞬息が出来なくなる。その場で蹲ってしまった。そして、大事な武器を取られてしまう。


「ゲヒャ!?」


 一陣の風が吹いたかと思えば、二匹の狼と人間の子供ー少年が目の前に現れた。


『あの時の僕とは、違うよ』


 そして、その少年は、あっという間に共連れのゴブリンを倒す。ワシの武器を持ったゴブリンもそのままやられるかと思ったが、目を見開き驚いた表情。何か考えているみたいだ、さっきまでの速さがない。


 驚いた。後ろに控えている狼の一喝で、切り替えたぞ。また、速さが戻ってきた。


 今度は何を狙ってるんだ?急に消極的になったぞ。少年から目が離せない。それにしても武器自体も短剣にしては頑丈だ。刀身に何か描かれていたような…、いや気のせいか。


「なに!? 攻撃を弾いた?」


 あれは狙ってやってる。そういう訓練をしたんだろうよ。末恐ろしい子供だ。一瞬の攻防はナタを手にしたゴブリンの死で幕を閉じた。


「あの武器は…まさか!!」


 逆手の短剣を構えたまま、こちらに近づいてくる。このままではまずい。間違いなくあの少年の目には、"敵の"ゴブリンの一体として映ってるに違いない。でも、このチャンスを逃したらもう二度と出会えないかもしれない。


「…お、お前さん。その短剣、見せてくれねぇか!?」


 自分でも第一声として間違えたと思う。ただ問答無用で斬りかかられなかっただけ成功だ。問題はここからだ。


「な!? 武器を渡さないよ」


 言葉が通じている。一瞬パニックになるが、今は置いておこう。


 少年の言うことは最もだ。"敵に"武器を渡す馬鹿はいない。それなら、ワシが馬鹿になってやろう。自分をロープで縛り、一人でできない部分は少年に手伝ってもらった。これが初めての共同作業は涙が出る。


「おし、全然動けねえ。これなら、どうだ!? 短剣を見せてくれ!」


 少年は約束通り、そっと地面に短剣を置いてくれた。約束もワシが勝手に言い出しただけなのだが。


「オオオォォォォ!! 生きて現物を拝めるとは…!神様!!ありがとう!」


 もはや自分が抑えられない。何を言っているかさえ自覚はない。それもそうだ、ずっと図鑑の中だけに存在していた物。御伽噺の中でしか活躍を語られなかった逸品。冷静になれるはずがなかろう。


「小僧、こいつをワシに譲ってはくれないか…?」


「な!? ダメだよ!初めての僕の武器なんだ! そんなに凄い武器なの?」


 素直な少年だ。


「性能自体は大したことはない。材質は鉄で、作りも一般的な短剣じゃ。しかし、こいつには失伝したはずの幻の技術が使われている。


 それが"ルーン文字"じゃあ!!


 魔力を彫金によって、武器に宿らせる画期的な技術なんじゃあ!!惜しむべきはその難易度の高さ。あまりにも加工が難しいため、技術を継承できる職人が少なすぎたんじゃ…。


 そ、れ、が、今、目の前に、ある!!


 ワシは、ルーンを復活させることが夢だった。おかしいか? まともな武器を打ったこともないゴブリン風情がそんな大それた夢を持つことは」


 止まらない。思いが溢れるのを、止められない。


「夢か…。ちっともおかしくないし、少し羨ましいな。 この武器はあげれないけど、君もくる? 僕一人では決められないから、母さんに頼んでみるよ」


 こいつは何を言ってるんだ? 今日会ったばかりの魔物にーーワシはゴブリンなんじゃぞ?


「な、なんと!? 後ろのおっかなそうなワンコロも一緒か?」


 違う。こんなことを言いたいんじゃない。ただ初めてで上手く言い表せなかったんじゃ。


「ワンコロではない、白狼族だ。ゴブリンよ、食ってやろうか?」


 恐ろしい狼がいつの間にか隣にいた。


「ヒ、冗談だ!許してくれ! それにワシは、トバルカインじゃ!長いからカインと呼んでくれ」


「フン。言葉には気をつけろ。それよりも勝手に勧誘するな。それとも非常食にするのか?」


 牙を剥き出しにしてニヤリと笑う。


「ヒ、ヒィ!」


「食べないってば! それに理由はあるんだ。カインが持っていたナタは元々は僕が持ち込んだ物だ。 あの時から随分と使われたようだけど、当時よりも切れ味は良さそう。おそらくカインが手入れしていたんだと思う。 僕は人間の武器を使う。手入れしてくれる人が必要なんだ」


 そういう事情なら願ったり叶ったりだ。鍛治師は一人では上達しない。己の分身とも言える武器を預ける相棒が必要だ。この少年はまだまだ伸びる。互いに成長していくんじゃ。


「あぁ、そうじゃ!ワシが研いだ!どんなにいい武器でも、ほっといたらナマクラになっちまうからな!もちろん例外はあるが…」


 ワシはこの少年の実力に見合う武器を作る。その武器を超えたら、また新しい武器を作る。そういう関係でありたい。気は抜けんぞ〜。


「ふん、お前から母さんに頼めよ。俺からは嫌だからな」


 スコルは踵を返すと、一人で先に帰ってしまった。


 その後、マーナという母狼に許可をもらい、無事に生活を共にすることになった。鋭く、美しい。まるで研ぎ澄まされた(つるぎ)のような狼じゃった。


 気恥ずかしいが、いつか面と向かってお礼を言わなくてはな。そうだな、ワシの手で作り上げた最高の武器を渡す時でいいじゃろう。これから忙しくなるぞう。


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