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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第7話 初戦と鍛治師


 ロキ達は、スコルを先頭に迷宮内を疾駆していた。


「前方、ゴブリン、三体。ロキ、出番だぞ」


「ーー分かった」


 ゴブリンとの距離がぐんぐんと縮まる。相手はまだ気づいていない。このまま奇襲すべきなんだけど、今回は実戦訓練だ。わざと敵にバレるように立ち回る。ゴブリンの周りを一周して、距離を取った。


「ゲギャ!?」


 スコルとハティは後方で寛いだように寝そべっている。何やら仲間割れかな?一体のゴブリンを残りの二体で虐めていたように思える。


 二体同時にかかってくるようだ。あとの一体は後詰かな?それとも戦わないのか。念のため気を配りながら戦おう。


「あの時の僕とは、違うよ」


 自分に言い聞かせるように呟く。地面を思いっきり蹴った。一気に加速する。間合いに入った瞬間、短剣を突き出した。


「ーー!? ギャッ」


 吸い込まれるように喉を貫いた。ゴブリンは反応すら出来ていない。


「まずは、一体」


 振り向き様に武器を持つ手首を狙う。粗末な棍棒とはいえ当たりどころが悪ければ、死に至る。


「棍棒、じゃない!?」


 その手に握られていたのは、見覚えのある"ナタ"だった。それは僕が迷宮に入ってすぐに無くした武器。迷宮内いると時間経過は曖昧だけど、あれから数ヶ月から一年は経ったと思う。それなのに、未だに切れ味を残した輝きを放つ。明らかに手入れされている。でも、いったい誰が?


 そういえば、このナタ。遠目からだったから確証はないけど、さっき虐められていた一体から奪ったのではないか?だとしたらあの離れている一体がやったのか?


「ロキ!集中しろ!」


「ーー!!」


 スコルの声で現実に戻された。いけない。戦闘中だった。考察は後からでもできる。今は目の前の戦いに集中しなきゃ。


 ゴブリンはナタを振りかぶる。遅い、遅すぎる。


 普段からマーナ、スコル、ハティといった速さの最上級を相手に訓練していたんだ。それ比べたら、相手が動いてからでも余裕で対処できる。避けるのは簡単だけど、防御も試してみよう。短剣を逆手に持ち替えた。


 キン、と金属を打ち合わせ時の高い音が鳴る。


「ーーできた!」


 短剣の腹で受けた。正面から受けるのではなく、角度を付けて衝撃を逃す。タイミングを間違えば大怪我は間違いない。だけど、それを乗り越えれば、


「隙だらけだ」


 ゴブリンの首を目掛けて逆手の短剣を振り抜いた。


 結局、離れたところにいる一体は最後まで攻撃してこなかった。短剣を構えたまま油断なく近寄る。


「…お、お前さん。その短剣、見せてくれねぇか!?」


 いきなり話しかけられた。ヨロヨロと立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。危険は承知で、好奇心に抗えない感じだ。これまでに会ったゴブリンとは、どこか違う。


「な!? 武器を渡さないよ」


 このゴブリン、変だ。これまでに見たゴブリンはこんなに流暢に話すことは出来なかったし、目の前のゴブリンからは知性を感じる。


「それも、そうか…。 これなら、どうだ!?」


 どこからは紐を取り出すと、自分を縛り始めた。


「自分では、これ以上縛れねぇ。あとやってくれねぇか?」


 言われた通りにゴブリンを縛りあげる。僕は何をやってるんだろう。それでも必死にお願いされたら、やってあげたくなってしまった。


「おし、全然動けねえ。これなら、どうだ!? 短剣を見せてくれ!」


 僕は、地面に短剣を置いた。


「おぉ、こいつは、正しく…。裏だ!裏も、見せてくれェェェ!!」


 絶叫に近い声色でお願いされる。若干怖い。指示に従い、剣を裏返す。


「オオオォォォォ!! 生きて現物を拝めるとは…!神様!!ありがとう!」


 興奮がさらに高まる。もうなんか怖い。


「小僧、こいつをワシに譲ってはくれないか…?」


「な!? ダメだよ!初めての僕の武器なんだ! そんなに凄い武器なの?」


「性能自体は大したことはない。材質は鉄で、作りも一般的な短剣じゃ」


 期待を持たせといて、ガッカリだ。物凄い武器かと思った。それこそ本に出てくるような聖剣、とまではいかなくても武器屋のショーウィンドウに並ぶような一品かと思った。


「じゃあなんで…」


「武器の性能は、どうやって決まるか知ってるか? まずは、さっきも言ったように素材だ。鉄よりも銀、銀よりも白銀(ミスリル)と、貴重な素材と性能は直結する。


 次に、加工。 職人の腕が問われる部分じゃな。 そして最後に、魔法的要因。これは様々なやり方がある。有名なのは、触媒を使うやり方じゃな。その中の一つに失伝した技術がある。


 それが"ルーン文字"じゃあ!!


 魔力を彫金によって、武器に宿らせる画期的な技術なんじゃあ!!惜しむべきはその難易度の高さ。あまりにも加工が難しいため、技術を継承できる職人が少なすぎたんじゃ…。


 そ、れ、が、今、目の前に、ある!!


 ワシは、ルーンを復活させることが夢だった。おかしいか? まともな武器を打ったこともないゴブリン風情がそんな大それた夢を持つことは」


 ゴブリンは止まらない。この小さな体に、とてつもない熱量を秘めている。


「夢か…。ちっともおかしくないし、少し羨ましいな。 この武器はあげれないけど、君もくる? 僕一人では決められないから、母さんに頼んでみるよ」


 思わず誘ってしまった。僕の悪い癖が出た。


「な、なんと!? 後ろのおっかなそうなワンコロも一緒か?」


「ワンコロではない、白狼族だ。ゴブリンよ、食ってやろうか?」


 スコル寝そべっていた体を起こして、風のように近寄ってきた。


「ヒ、冗談だ!許してくれ! それにワシは、トバルカインじゃ!長いからカインと呼んでくれ」


「フン。言葉には気をつけろ。それよりも勝手に勧誘するな。それとも非常食にするのか?」


 牙を剥き出しにしてニヤリと笑う。


「ヒ、ヒィ!」


「食べないってば! それに理由はあるんだ。カインが持っていたナタは元々は僕が持ち込んだ物だ。 あの時から随分と使われたようだけど、当時よりも切れ味は良さそう。おそらくカインが手入れしていたんだと思う。 僕は人間の武器を使う。手入れしてくれる人が必要なんだ」


 これは本当だ。カインを応援したい気持ちもあるが、武器や防具の手入れをしてくれるようになったら、ありがたい。


「あぁ、そうじゃ!ワシが研いだ!どんなにいい武器でも、ほっといたらナマクラになっちまうからな!もちろん例外はあるが…」


「ふん、お前から母さんに頼めよ。俺からは嫌だからな」


 スコルは踵を返すと、一人で先に帰ってしまった。


「ーー♪」


 ハティはカインの頭をポンポンと撫でている。認めているみたいだ。三人で帰路についた。


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